深淵の村

栗菓子

文字の大きさ
上 下
7 / 10

第6話 ソンの友人

しおりを挟む
ソンは何故ここにいるのか分からないとずっと呟いていた・・。

可哀相に。本当は分かり切ったことだ。 良くある話だ。 俺たちはいつも置かれた場所から引き抜かれる草のようにひょいとここに置かれる民草にすぎないのだ。

ソンは端正で綺麗な目をしていた。俺はその顔で気に入った。 俺は面食いだ。

ソンは今だに自分の運命に納得していないが・・ソンはそういう運命だっただけだ。俺はとうに自覚していた。

俺たちは、いつかは殺されるかもな。ある日突然と・・。無用な階級、無用な者として生まれたから・・。

本当に価値があるのは僅かだ。 俺たちはそいつらに翻弄されてひらひらりとと飛び散る草やつまらない芥にすぎない。


俺は、ここは気に入っている。なぜか、高級酒をくれるのだ。 普通は安酒で目が潰れるはずだが・・。

皮肉なことにこの酒は俺の老いぼれた身体に活力を与えてくれる。


どうやら、ここは一種の隔離された村で、またお偉方は何かの実験をしているらしい。

なかには、情欲で結ばれたカップルもいる。こんな果てでも愛や情欲は芽生えるのだ。


それが同性でも異性でもさして違いはない。 彼らは孤児を大事に育てている・・。これでいいのかもしれない。

ヒステリックにあさましくも欲を満たせずに苦しんでいる女は醜い。

子どもがいるのに、自分に酔いしれ、溺れて薬や酒の中毒になってゴミの山に埋もれて死んだおふくろを思い出した。

嗚呼可哀相に。でも不思議と惜しむ気にはならない。 おふくろは唯、母親には向いていない。どうしようもない子どもだった。

誰も惜しまない存在だったのだ。 何も与えなかったおふくろ・・。


女の本性や、醜い性質を悟っている男たちは、嫌悪したり、同性と良く付き合うようになる。

それもまた結果の一つだ。

俺もつい同性の顔を見てしまう。 女はどこかで災厄ではないかと思っている。

よほど強い奴でないと無理だろう。自分では満たせない欲を子どもや男に依存し、代理にさせようとする寄生虫。

無駄に長生きして罵倒をする醜い物体・・。

なかには宿主を殺した虫もいる・・。信じがたい事にそいつらはそれが当然と思い込んでいる・・。


頭が良い男ほど悟っているだろう・・。


母の血を引いた俺もこんな様になったということを・・。俺はこの人生の末路を精々楽しむことにする。


さあ。この村はどんな未来をみせてくれるのか。俺はしぶとく生き続けることにした。

不要とされた雑種の愛玩動物もここにセラピーとして寄越された。

慈悲深い事で・・。なんでも不要になったモノはここに運ばれる。

俺はこの美しい風景 森や、池や、動物が息づいているところで過ごしている・・。

決して出られないところだ。


もしここで生まれた子どもたちが居たらどうなるのか‥俺はそれが気になっていた。

属する国も何もないところから生まれた正真正銘の無産の子どもだ。

彼らが、外の世界で生きたいと望むなら想像を絶する苦労と、努力、差別、偏見。 人間の負の面を汚濁のようにとっぷりと浸かるかも知れない。

俺は年老いたのだ・・。

俺は香ばしい匂いがする酒をグイグイと飲んだ。




しおりを挟む

処理中です...