いかでか

栗菓子

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掃き溜めに鶴

第19話 心につるる姿

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知ってる?心につるる姿というのは心は外見に現れるということだよ。
つるるは連れる(伴う)意味だよ。
心が美しければ姿も美しくなる。逆に心が醜ければ姿も醜くなるって。
なんだが眉唾物だけど、カリンたち、他の女たちは、貴族の少年に助けられて、安堵してやっと地獄を逃がられたことを実感したよ。女たちは険しい顔と殺気立った醜い歪んた顔から、穏やかな顔へと変わっていった。

ここなら安心だと分かったんだろうね。だれも深く傷つける敵はもういないと分かったんだよ。
彼女たちはみるみる美しくなった。穏やかになった。

カリンは特に、娼館にいた時より、水を得た魚のように遥かに美しく魅力的になった。
信じられる夫が見つかったからだろうね。
貴族の少年とカリンはもはや夫婦だった。少年もそれを自覚していた。
お父様とお母様が現われて少年を「私の愛しい子。」と抱きしめあったのはしばらくしてからだ。

貴族の少年は両親に、今まで囚われていたことをありのままに話した。恥辱もなにもかもだ。
厳めしい顔をしたお父様は怒りに満ちていた。お母様も泣きそうになって震えていた。
しかし、少年は青年になりかかっていた。見違えるように果敢に戦う凛々しい顔になっていた。
地獄が彼の試練になったのだろう。
「お父様もうぼくはこどもじゃありません。戦います。戦う一人の男です。」
お父様とお母様は目を瞠った。会わない間に、子供は成長して、過酷な試練を受けて凛々しい戦士になっていた。
「お父様。ぼくは信じられる妻を得ました。カリンという女です。」
「あの地獄でともに戦った女です。」
カリンはお姫様が着るような高価な衣装を着せられて美しく髪を結われて豪奢な蝶と花の髪飾りを差していた。
美しい瞳。美しい肢体。貴族にも劣らぬ容姿。
どこかのお姫様と言われても信じられるほどだった。

カリンは緊張しながらも、少年の父と母に挨拶をした。
「はじめまして。カリンともうします。彼には大変お世話になりました。皆様にも本当に感謝いたします。」
深く彼女はお辞儀をした。

初々しくも妖艶な魅力的な女。少年の傍らにいるのはしっくりきた。
共に地獄の試練を受けた女。
少年に相応しい女だった。

両親はすぐに彼らは夫婦になったのだと解った。
当惑しながらも、親は新しい家族を受け入れた。カリンはだれよりも魅力的で美しかった。
心の芯がしっかりしていた。

これなら申し分がない。少年の母親も高級娼婦だった。カリンも同じだ。
相当苦労したのだろう。少年とカリンには地獄を味わった雰囲気を纏っていた。

これ以上彼らを苦しめたくない。親心で夫婦になるのを許した。
「お父様。盗賊にあった人達はどうなったのですか?娼館の主人や他の人は?」
お父様は首を振って沈痛な顔でほとんどの人が亡くなったよ。惨たらしい様だった。
「奇跡的に娼館の主人と僅かな人々が生き残ったよ。」
「彼らは深く傷つき、復讐と悲嘆に満ちていた。」
「アイラとかいうかつての高級娼婦も盗賊の話を聞いて焼け落ちた娼館へ来たよ。主人にカリンは?と尋ねていたよ
アイラも懇意にしている貴族に頼んで盗賊団を捕えてほしい。攫われた女たちを助けてほしいと嘆願していたよ。
健気な姉御だな。その懇意にしている貴族は私を知って追跡隊をつくってほしいと頼まれたよ。勿論だ。私もお前という宝物を奪われた者だったから。アイラは他にも隊商でも有名なシンとかいう男に頼んで探してほしいと頼んでいた。よほどお前たちが心配だったのだろうな。いい姉御を持ったな。」

「盗賊団を捕まえたのはジョンという男と犬だよ。面白いことに同じ名前なんだ。」

カリンは胸が熱くなるのを感じた。アイラや他の人も心配して探していたというのか?
何てこと。すっかり攫われた衝撃で忘れていた。シン。シンもなの。
カリンは運命は残酷だが優しいところもあるらしい。
カリンは熱い涙が出るのを感じた。冷え切っていた心が溶けるのを感じた。
「ありがとうごさいます。そんなに探してくださって。まさかこんな時が来るとは夢にも思いませんでした。」
少年も涙を流した。
「ぼくもだよ。カリン。まさか生きてここまで来れるなんで思わなかった。」
二人は支えあった。お互いに抱きしめあって泣き崩れた。

両親は痛ましげに安堵したように二人を眺めていた。


落ち着いたところ、彼らはさらわれた人たちは取り戻したがどう扱えばいいかと話しあった。
普通の家族をもった人も攫われたそうだ。中には家へ戻るのを嫌がる人もいた。盗賊団に穢された女と侮蔑されるかもしれない。殺されるかもしれない。そういう家族もいるのだと女は訴えた。

そんな家族もいるのか。被害者なのに、家族の名誉を傷つけたと不条理にも殺される人もいると彼らは訴えた。
お願いします。そんな家族の元に戻さないで下さい。死んだものと思ってどこかで働かせてください。

家族でも敵はいるのだ。カリンはじみじみと実感した。
そういう人たちは内密に働ける場所を斡旋して、保護できる施設へ行った。
彼らはありがとうございますと両親や、少年たちに感謝した。

複雑な家族だ。カリンは色々と学んだ。
狭い世界から小さな世界にさらわれて終わるのだと思ったら、今度は貴族の館だ。
カリンの世界は放り出されたり、攫われたり忙しかった。

だが元凶が見つからない。あの大きな宴を開催した人と盗賊団をおびき寄せたやつら。
カリンと少年はあの時の夜を話し合った。

「お父様。首謀者は?あの大きな宴はだれがやったのですか?早く捕まってほしいです。その顔をみてみたい。」

憎々しげに美しい顔を鬼のように少年は歪めた。
「それが・・お父様より位が上の貴族らしい。お父様にもなかなか手を出せない大貴族だ。お父様にも何を考えてあの宴を開いたのがまだわからない、偶然なのか?計画的にあの炎上を立てたのか?
それさえもわからない。悔しいことだな。」
少年はためらいがちにお父様に尋ねた。
「お父様。まさかまさかとは思いますが。お母様を邪魔と思っていた正妻や他の愛人の関連じゃないですよね。
お父様は正妻をとても気位の高い女とおっしゃっていましたが・・ぼくたちが目障りと思ったのでは?」

ううんとお父様は唸った。「まさかあのお方がそんなことをするはずはないだろう。あのお方は自分が醜き所業をなさることを酷く疎む方だったから。」
カリンはなんだか正妻とお父様の関係は上司と部下のようだ。対等じゃない。
正妻のほうが格上らしい。お父様でさえも迂闊に手を出せないお方のようだ。

カリンは深く溜息をついた。この調子じゃ犯人が捕まるのはまだまだらしい。
少年はカリンを見てごめんよと心配させたね。カリンの浮かない表情を見てはっとしたように慰めた。

「お父様。ぼくは働きたいです。カリンのように辛い目にあった女たちを守りたいです。そのためには力を身につけなければ。」
少年は覚悟を決めていった。
お父様は「お前がそういうなら・・だが厳しいぞ。」
「はい」と少年は頷いた。
「エド」とカリンは感無量の思いで呟いた。
「カリン」とエドもカリンの名を愛おし気に呟いた。
「エド。私も頑張るわ。貴方に負けたくない。あんな奴らにも負けたくない。」
カリンとエドは共に心の底に復讐の炎があった。


他の攫われた女たちは安全な場所へ連れられた。彼女たちは働ける場所を斡旋され喜んでそれぞれの道を歩んだ。





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