いかでか

栗菓子

文字の大きさ
28 / 34
掃き溜めに鶴

第23話 苦痛

しおりを挟む
カリンと他の女たちは底辺の女であり、なんとか高級娼婦に這い上がったから汚泥のような屈辱には慣れていたが、
エドのような繊細な貴族の血を引いている少年は箱入りのように深窓の令嬢のようにあまり館の外へ出ていなかったそうだ。お父様とやらがなんでも買い揃えてエドはそれが当然の境遇として生きていたようだ。
お母様とエドはお父様の寵愛を受けて、館の中でなら自由だったようだ。
だが、あの運命の夜、盗賊と大きな炎でエドはいきなりならず者盗賊に攫われて地獄を見たようだ。
目の前で女の人や誰かがいきなり殺されるのは初めてだったという。ショックでエドはしばらく手をかきむしった。
幻痛だ。心の代わりに手が痛むのだ。
カリンは手を抑えた。エドがあの悪夢を思い出す度虚ろな顔で掻きむしる様は見ていられなかった。
大丈夫だからとカリンは薬を塗った。背中をさすって宥めた。
エドはカリンにすまないと言って儚げに微笑んだ。エドは壊れそうな心をもって生きていた。
よくあの地獄で耐えられたものよとカリンは思わずにはいられなかった。

カリンは、娼婦の技法で心と身体を切り離して無意識に客に奉仕する事を学んだ。
そのおかげで、あの地獄もどこか他人事で見ている自分もあったのだ。
生きのびたのは、客観的に自分を見て居る自分に導かれたからだ。

苦痛にさいなまれるのは、エドだけではなかった。他の犠牲者も関係者も深い傷があった。
癒えるのは時間がかかるだろう。

そう考えると、何故被害者ばかりがこんなに苦しむのか理不尽だと思ったが過去は変えられない。
今に専念するしかない。生きている者は前進するしかないのだ。
いつかは報われる時もあるだろう。人生は儚い。カリンはあの地獄で学んだ。人はあっけなく死ぬ。
果てまで頑張るんだ。時間がもったいない。時は無常だ。

カリンは何かせずにはいられなかった。被害者のための看護施設や、他にも不条理にも傷つけられた人たちを募って
精神療法や、明るい未来を想像させる機会や、人の労わり、助け合いを与えた。
この事は、カリンが主なアイデアを言ったが、お父様や娼館の主人も了承した。資金は十分にあった。
被害者たちが再起するのには十分恵まれているほどだ。
カリンはほっとした。カリンは悪夢を忘れるためにも同じ重度の被害者の看護をした。他の女たちも助け合った。
うちひがれた男たちもそれに奮起し、復興への道を歩み始めた。

苦痛はなかなか消えない。ましてや心の傷はだ。
カリンは色々看護や、心の療法など専門的な医者によって学んだ。人手不足もあったのだ。それこそ猫の手も借りたいぐらいの状況だった。
目まぐるしい日常が続いた。被害者を敬遠する奇妙な偏見もあったが、カリンは一喝した。
「私たちが何をしたというのだ。私たちは無実だ!」
カリンは大声で叫ばずにはいられなかった。
「必死で生き延びた人たちを気持ち悪がるな!。臆病者。卑劣者!」
逆上した人たちに何をされようが構わなかった。
カリンは無責任な情けない人の勝手な偏見や敬遠する気持ちをどうしても許せなかった。
それは、盗賊よりも卑劣な行為にしか思えなかった。

こういうのを二次被害というのだ。
カリンはそれを防ぐため、あらゆる対策をした。荘園のお父様や、力のある顧客にいわれのなき嘲笑を潰してもらった。
敵は一番悪意なき悪意だ。好奇心や思い込みで何にも知らない人を追い込んだりする。
カリンは人の悪意が怖かった。それでも戦った。そうしなければまだ被害者は救われない。

苦痛は続く。それはどうしても許せない。決して。

カリンと被害者たちの戦いは続いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...