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第2章 宗教施設

第4話 名女優

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シズナという新しい教祖となった女は、突如現れて旧い教祖を倒したこともあって、旧勢力は敵意と憎悪をもって潰そうと反乱をした。しかし、今までの悪行が祟ってか、下層階級の支援に見放され、子ども達の性的虐待など醜聞が漏れていたこともあって、少しまともな心を持った奴らはとうに反吐が出ると言われていた。
反乱をしたのは、欲に溺れ、人の心を持たぬ悪鬼ばかりだけであった。

シズナは怯える信者たちを慰め、激励した。

「戦え!今こそ。古い腐った人達を倒す好機だ!力ある者達がこの腐敗に憂い、わたしたちに倒せと言われた。
これは、真の神の託宣である。」

彼女は、綺麗な顔を真剣な顔をして、教祖らしく振舞った。その様は本当に、神々しく名女優であった。

黒曜石の長い柔らかな髪。 深淵の黒い瞳。美しい宝石と衣装をまとって貴婦人らしく気品をもって、凛と言葉を紡ぐ様は、どこかの古い神話が蘇ったような光景であった。

絵を描いている経験のある兵士は、思わず、隠し持っていた、ノートに小さなペンで彼女の神話劇を荒々しく忘れないように書き続けた。

美しい神々しい光景をいつまでもとどめたいその思いで彼は一心不乱に書き続けた。

傍らには美しいきつい瞳をした令嬢のような女。 太陽に照らされて見事な金髪が映える美しい男。

彼らはどこか神々しく見えた。


信者らは、美しさに見惚れ、獰猛な勇敢さを抱き、「そ、そうだわ!もう従いたくない!どうせなら少しでも良くしたい!」
貧しい女が叫んだ。それは真実の叫びであった。彼らもそれに呼応し、反乱勢力と戦うことを決意した。
粗末な棒。鍬。包丁。生活に必要な用具を武器にして、彼らは即席の軍をつくり、金髪の男を指揮者として配置され、命がけの戦が始まった。


ゴルデアは、驚くほど、上手な指揮者であった。上手く兵士や、配給係など配置を整え、防備を完全なものにし、軍の指揮に向いている器があった。

ゴルデアを慕う者達も増えた。人はなにか縋る者があったら自分より若者でも従う。

シズナはじみじみと思い知った。ダリアは気まぐれにそれを見やって、自分の仕事に向かった。

装飾品を食料や、水 配給用と備蓄用に分けて整備することだ。

シズナは囁いた。わたしは何をすればいい? 

ダリアは、そうね。贄に相応しい人を見つければ・・仕事はいっぱいあるわ。


シズナは頷いた。彼女らはそれぞれの仕事を探した。

怯えた孤児がおどおどとシズナを見上げた。嗚呼。小さな動物みたい。 
「今度は、お姉ちゃんが教祖なの? わたいらを傷つけない?」
見ると、傷だらけだった。教祖や幹部は気まぐれに孤児を嬲っていたらしい。

シズナはどこまでも下衆な人たちだったのねと溜息をついて、いいえと応えた。
「しませんよ。大丈夫です。ダリアとゴルデアが戦っています。より良くするためにこの施設は変わるでしょう。」

シズナは花のように微笑んで孤児の緊張を和らげた。 後にシズナは花の女神とも謳われるようになった。

聖母のようにシズナは孤児たちの面倒を見た。

清潔なシーツと寝台。 美味しいスープとパン。 友人との健康な交際関係を築くようにした。

子ども達の目が輝いていった。 シズナはそれを見るのが楽しかった。

勉強もさせた。いつ必要になるかわからないから・・。

まともな仕事の斡旋もそれを知っている人たちに任せた。彼らは嬉しそうに任せてくださいと言った。

農家や虚業の仕事。工場の仕事。 内職や、服飾の仕事など 様々な仕事を斡旋するようになった。


彼らはシズナ様のお陰です、と感謝した。今までまともな仕事をさせたがったが、教祖や上層部が阻止していたらしい。暴力集団の兵士や、酷使してもいい奴隷のままにしようとしていたらしい。
元凶がいなくなったから、良い風が吹くようになった。

ここも良くなるだろうと彼らは熱弁した。
「まあ・・・ それは大変だったわね。」
シズナは唯、そういうことしかできなかった。だってシズナは復讐をしただけだから。ダリアもゴルデアも同様だ。
それは副産物にすぎない。困るのだ。感謝されても実感がわかない。

シズナが動くと、なぜか良くなっていく。これはあの邪神のちからだろうか?
運が向いてくるのだ。

ダリアもゴルデアもそれに気づき、運も実力の内だとシズナを宥めて、教祖を演じておくのだと言い聞かせた。

シズナも複雑な気持ちで演じた。

シズナの新しい人生は、主婦の仕事と、女優の仕事。両方を演じることだった。

彼女はなかば自棄で演じた。思ったより面白いわね。 この微笑で騙される人は多い。わたしったら悪女になったのね。シズナはくすりと笑った。


反乱勢はみるみる、ゴルデアの圧勝で討伐された。嗚呼。本当に黄金の女神みたい。なんだか女性的に見える時もあるもの。でも、彼は男だ。だってあれでわたしを犯したことがあるし・・

シズナはいつの間にか、この宗教施設の教祖。いいえ教母。聖母のような存在になった。

人生って何かあるかわからない。神様の悪戯は凄いわ。シズナは子どものように微笑んだ。

それを忌々しく濁った瞳で見ている人たちもいた。

シズナが葬ったはずの、生き延びた子ども達だ。彼らは壮絶な昏い目でシズナたちを遠くから睨んでいた。

「あの化け物め。いつの間にか。施設を掌握しやがった。ダリアとゴルデアもあんな美しい服を着て・・
いい気になってやがる。」

嫉妬と恨みと怨嗟でイカレタ頭がよりおかしくなった子どもたちは、彼ら3人に黒い思いを向けた。


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