落花流水

栗菓子

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第2話 ミツキ

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痛い痛い痛い痛い・・・激痛のあまりミツキは失神した。

世界の調査のために、遠出をしたのがまずかった。蛮人に狙われていることに気づかなかった・・。

気が付いたら、ミツキは倒され、下着を破かれ、性器を露わにされた。

よかった。裸にされる前に、ミツキは、蛮人の嗜好を瞬間に調べ、その好みに合うよう体は調整された。

蛮人の男は気づいていないが、僅かにミツキは小さくなった。

蛮人の男は、雌が嫌いだった・・。どうも母親らしきモノが男を冷たく冷遇したらしい。それもあるが、雌らしい身体も嫌いらしい。声も嫌いなようだ。

男は、同じ体をもつ男が好みだったらしい・・。ミツキはマチガエタカと己の判断をいぶしかんだ。

しかしそうではない・・と後に気づいた。

男の嗜好は、精神的に男を愛していても、子孫繁栄のために女が必要と感じていたらしい。

都合がいい肢体・・。男の傲慢な身勝手な欲望から発生する体は、子どももつくれる男の身体らしい・・。

ミツキは僅かに辟易するが・・人の事は言えない。我が一族も言い換えれば生き残る欲から生まれた一族である。


男は、友人や恋人に裏切られたようであった・・。信頼できる同胞に裏切られたら、精神的に悪化する。

ミツキは、丁度良い生贄・はけ口であった。

ミツキは災難と傍観者のように己の穢された体を見つめながらも、意識が遮断されて、ああ終わったのだと目を閉じた。

しかし体だけは、生存本能のため、凌辱する男の欲に奉仕していた。

膣は、男の猛々しい男根を柔らく締め付け、宥めようとしていた。計算された体は、男を悦楽と、快楽の絶頂に昇りつめさせた。

これがミツキの命綱となりえた・・。下世話だが、男ははけ口、後に殺そうと思っていたミツキの身体の虜になったのだ。

「この体・・凄くイイ・・・イイ サイコウ!」

酷く単純で純粋な男はたちまちミツキの虜となって、しゃぶるように、ミツキの身体を舐めつくした。

ミツキも、男の精液によって、男の精神や、生活様式や、言語が多少わかるようになった。


目が覚めたら、ミツキはほとんど裸にさせられた。

カタコトでミツキは男に言った。

「・・アナタ。カイホウシテホシイ。ワタシ。カエリタイ。」

その言葉は聞き届けられることはなかった・・。

ミツキは、生き延びるために、男に奉仕させられた。

「アマイ・・アマイ。オマエのカラダはヨイニオイ、この性器もイイ・・。」

そういう風につくられたのだから仕方がない・・。

ミツキは、童貞も男によって破られた。独占欲が強い男は、ミツキの男根が他の者に侵入するのが我慢ならなかったらしい。

ミツキの童貞は男の尻でナクナッタ。 快楽だけはあるが・・男とはどこまでも快楽でしか結びつかない・・。


ミツキはミツキと男に名付けられた。

はじめは、イジンと言われたが、男が属する部族では、大きな大きな樹を信仰している。


ミツキが凌辱と監禁から抜け出した後、男に見せられた樹は偉大だった。

「オマエ・・アマイアマイミツノヨウ。森の中に、甘い汁が入っている実を宿した木がある。それとオナジ。

お前・・ミツキと名付ける・・。オレの妻にナレ。」

ミツキは僅かに嬉しかった。 男のために同胞の元には戻れなくなったが、これはミツキの運にもよる。

生きている方が不思議だった。本来なら異分子は処分されるはずだった。


ミツキ・・、ミツキカ。わたしの新たな個の名前・・。 淡い心が芽生えた。 木のようにミツキはこの世界に根付いた。


ミツキは擬態した。男に怪しまれぬよう、大人しい奴隷として従った。

男は端正な顔をしていた・・。雌にはもてるらしい・・。だが、ミツキは知っていた。

無価値な雌や、いなくてもいい奴らにどれほど残酷なことをするかミツキは男によって見せられた。


大抵はそういうものだとミツキは淡々と見ていたが、僅かに嫌悪があった。

特に、男に惹かれている雌や、慕っている者達は見たくなかった・・。嫉妬ではなかった。


そういうやつらを男は面白がって、可愛がって最後には無惨に捨てるのだ・・。自殺した者もいる・・。

ナゼ・・。と信じられぬ顔をして男を見るのだ。無垢な顔が歪む様・・。



男にはそういう歪んた嗜虐欲があった・・。ミツキはその顔が少し嫌だった。

ミツキにも興味を抱く者達はいた・・。ミツキの凡庸だが僅かに違う雰囲気に惹かれたのだろう。


敏感な人だ・・。ミツキはこの世界にいて数年で、男の精神や、他の者達の精神が読み取れるようになった。

好意もあった・・。ミツキはその思いには当惑した。

ミツキは本来、喜怒哀楽はない。擬態しているにすぎない。しかしその好意という感情はミツキを惑乱させるものだった。

ミツキは途方に暮れた・・。 悪意には慣れている・・。排除は生物の本能だからだ。

しかし、ミツキはどうも有力な権力者の男の妻・・雌として配置されている・・。

それが欲をそそる位置でもあるらしい。男を蹴落としたい競争相手にはミツキは賞品や甘い菓子にしか見えないのだろう・・。

男は、あまり他者に興味を覚えない性質だった・・。男には親友とか恋人がいたらしい・・。

親友は、男に敵対意識を持っていて、恋人は男の残虐性に少し怯えていた。共通する相手に、自然に二人は相談しあい、男に危機を抱き始めた・・。

雌のような恋人は、新しい庇護者を求める・・。それも生きるための摂理だった・・。


ミツキは異様に納得した・・。男によって深く傷つけられていく者は多い。ミツキもその被害者だった。

命も奪われるところだったのだ・・。


彼らの裏切りは、なるべくしてなったのだろう・・。ミツキはどこか超越した意識で悟っていた。

だがその裏切りが、ミツキを堕とし、男の妻となる運命を強制した。

運命とは、なんという連鎖をしているのか。ミツキは運命について奇妙に思った。


男を裏切った親友と、恋人は逃亡していた。 男はミツキを発見して凌辱し、妻とした後、その屈辱がだんだんと蘇ったらしく、執念深く二人を追い詰めた。

「蛇め・・それがお前の本性だ。だから嫌だったんだ・・。」

うんざりと親友は男を睨みつけて叫んだ。

「お前がいると邪魔なんだよ! ミキもだから裏切ったんだ。幸福になれないと思ったから・・。」

ミキ・・よく似た名前だ。恋人はそういう名前だったのか。


ミツキははっと気づかされた。ミキと親友に裏切られて報復にミツキを堕としたのだ。しかしミツキは良いカラダをしていたから惜しいと思って、よく似た名前を付けて傷を癒そうとしたのだ。

人間は見代わりを求めるものだ。代償行為だ。


ミキ・・その名前が男の逆鱗を買った・・。男の激情のまま、親友だった男は血まみれになっていった。顔が腫れ上がっている。嗚呼もうすぐ死んでしまう・・。


「・・や、やめさせて・・。やめさせて下さい! ミ、ミツキトイウンダヨネ!? お願い・トメテ。止めてよ!」

ミツキは呆然となった。

イヤ・・オマエが裏切ったからオトコはチマミレになっているんだが・・ナゼワタシガ男を宥めなければ?と解せぬ思いを抱えながらも、裏切られた人たちの顔が脳裏に浮かび、ミツキは僅かに温情を抱いた。

嗚呼すっかりワタシハ同化したのだ。この世界、この人たちに・・。
ミツキは初めて男の名前を夫の名前を呼んだ・・。

「オヤメクダサイ。アナタ。我が君 シンガイ様・・。」

ミツキはシンガイの心を癒す音で旋律を綴った。 とても気持ちが良い音だ。

シンガイは黙ってミツキの声を聴いていた・・。

「ミツキ・・俺にサカラウカ・・。?」
「イイエ・・デモ カレラハアナタノ大切ダッタモノ。 ワカイデキないのですか?」

シンガイは嘲笑うようにミツキをミタ・・。

「やはり、オンナダナ。アサハカダ。情にホダサレル。ミキはお前をリヨウシテイル。オマエを軽んじているから
とりなしをネガウノダ。」

シンガイは王者のように、かつての恋人を鋭く断罪していた。

「そうでしょうか・・?しかしアナタモ苦しそうでした・・。」

それは嘘ではなかった。ミツキには、シンガイの裏切られた子どものような顔も見ていた。。、

シンガイはまじまじとミツキを奇妙なものを見るように見た。

「もういい・・。」

シンガイは興ざめしたように、親友だった男を殴るのを止めた。

「キエウセロ。オレのミツキノマエカラ姿を消せ。」

シンガイはそういって、ミツキの腰に太い腕を回して、家へと連れて行った。

「帰るぞ・・。」

そういった時、ミツキはふと悟った。

カエル・・。帰る? 嗚呼そうか。戻るのはもうシンガイの家なんだと解った。

切り捨てられた末端の者は、ミツキとしてこの集落のものとなった。

血まみれの男の顔が憎悪に歪んでいたのがミツキには気になっていた。








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