糟糠の妻

栗菓子

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第5章 修羅の時代

第8話 最後の暗殺

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数年後、ミキは2人目のパリエルに嫁ぐことになった。

1人目は、惹かれはするけど、彼は彼の流儀が或る。ミキは彼の伴侶になる未来を予測したが、どうしてもどこか違和感を感じた。どこかで適応しない面があるのではないかとミキは感じた。

ミキは己の卓越した直感を信じていた。

3人目は、あまりにも格が違う。高次元と繋がっているのではないかと思わされる絶世の美貌の持ち主。
弱い者は淘汰される。
ミキはそれを恐れ、丁重に交際を辞退した。

結局、パリエルが一番望ましい伴侶だった。どこか似た雰囲気を持って、戦士の力量を見せていた。
彼と戦い、ともにいる自分をミキは予想した。本当によくはまっていた。

パリエルにしよう。ミキは己の選択を後悔はしなかった。

「パリエルか・・。」
両親に、伴侶を定めたことを伝えると、母ラキナはしばらく無言でミキを見つめていた。 父シーアンは妥当な判断だと頷いた。


数日後、ミキは、母ラキナに最後の暗殺を命令された。
相手は、古い暗殺者だとラキナは言った。その女を殺せば、暗殺の仕事は終わるとラキナは言った。

ミキはその言葉を意外に感じたが、これが最後だと思い、指定された場所へ赴いた。

誰もいない広大な空間の部屋。 防音設備も為されている。
ここには、邪魔な者が介入できないようになっているところだ。


そこで、ミキは様々な武器を与えられた。 
ミキは手慣れた円環の武器を選んだ。 これを回して高速で相手の急所を狙って投げれば一瞬で絶命できるほどの技量をミキは持っていた。

相手は、美しい女だった。だが、昏く澱んだ目が美貌を損なっていた。 惜しい。全盛期は目を見張るほどの美貌であったろうに・・。

ミキは、かすかに憐憫を抱きながら、迷わず円環を首や、目など急所へ向けて投げた。高速で美女の間合いまで入って、捕えたと思った瞬間、何かの衝撃で、ミキは咄嗟に体を僅かにひねって回避した。

電流!? 美女は、電気を放電する武器を体の中に埋め込んであって、身体に触れた瞬間、普通の人間が絶命するレベルの電気を放つことができる。

ミキの卓越した直感が僅かな違和感を察知し、ミキの身体は無意識に回避をして絶命を免れた。

武器は、跳ね返されて、あちこちに転がった。ミキも無事ではなかった。手や腕に電流が走った傷跡が残った。

酷い蚯蚓腫れ・・。ミキは己の誇った体に醜い傷が刻まれた事を嘆いたが、すぐに、敵に怒りを向けた。

かつてない怒りだ。これほどまでに傷ついたのは幼少の頃、訓練中に仲間に負けて以来だ。

その仲間はミキが一週間寝込んだ後、なぜか錯乱した軍用犬に噛まれて狂犬病にかかって苦しんで亡くなった。

何故か薬は効かなかった。

ミキはその過去を思い浮かべながら、青筋を立てて、いつもより頭が鮮明になって、驚くほど敵の攻撃が分かるようになった。まるでスローモーションのようにミキはゆっくりとして見えた。


ミキは奇妙なその自分を受け入れて、かわし続けながら、敵のふところに瞬時に入り、心臓と、首に2本のナイフを突き立てた。


ドスっと心臓の感触があった。ああどくどくしているこの臓器がいま少しずつ絶命していくわ。
感じるわ・・。嬉しい。ミキは首の血と、敵がゆっくりと息絶えていく瞬間を全身で感じ取り嗚呼・・この恍惚は何かしらとミキはかつてない高揚感を味わった。

仕事だといつもは冷静にやっていたのに、これが最後だろうか。

ミキは最後は狩人としての戦闘本能と高揚感に満ちていた。原初の本能。


「あなたが誰が分からないけど・・惜しかったわね。貴方が若かったら私の方が死んでいたわ・・。」

さようなら・・。ミキは最後の暗殺相手に敬意を込めてお辞儀した。

かすかに女の目がミキに何かを言いたげに動いたが、すぐに目は黒く濁り光を移さなくなった。



終わった・・かすかな疲れを感じてミキは家に戻った。

意外な相手が待っていた。美しい見慣れた男・・パリエルだ。

「パリエル?何故ここへ?」

「ミキが勝ったんだね。おめでとう!君が殺した相手はぼくのかつての前妻だ。」

「え・・?」

ミキは目を見開いた。貴方・・妻が居たの?ああそうだわ。彼は一度も独身とはいわなかった。

でも何故?両親はこのことを知っていた?

パリエルはこの疑問に優しく答えた。

「嗚呼・・ミキ。ぼくの前の妻も暗殺者だったんだよ。でも重度の病でもう長くなかった。彼女が望むなら
長い療養生活を過ごさせて安らかな最期を与えることもできたけどね・・彼女は緩慢な死より、誇りをもってやっていた仕事で、同業に殺されることを望んだ。 彼女は生粋の暗殺者だったよ。

ぼくも彼女の苛烈な生き様に惹かれ、醜くなるよりは、新しい妻となる君と戦うのを望んた。

君が妻と言う座を手に入れる嫉妬もあっただろう。彼女はどうしても君と戦いたいと言った。

おめでとう・・。君は古い妻を殺し、結婚して妻になる運命を手に入れた・・。」


「まあ・・パリエル。貴方はそれでいいの。彼女を愛していたのではなくて? 」

ミキは僅かに眉をひそめた。殺したことに後悔はないが、彼の心情は気になる。


パリエルはとても美しい瞳を向けて、にっこりと笑った。

「いいや。彼女がそれを選んだからだ。彼女は望み通りの死を得た。そして君は、望む生を得た。
ぼくは何も言えないよ。愛していたが、人間は結局自分で選んだ道を歩む。」

朗々と彼は、語った。

「彼女は美しい女だった。そして君も。その美しい生をどうやって生きるか?
あるいは死を直前にしたとき、ぼくは君に従う。」

パリエルは天使のように微笑んだ。美しい美しい笑みだった。

まるで宗教画のようだ。


「 君の両親は分かっていたよ。君の邪魔となる前妻は、君に戦わせて排除させようという思惑もあったらしいね。

それも分かるけど、親心もあったんだろうね・・。君なら勝つと思っていたらしい。あれが親なんだね。」


「ええ・・私の両親はそういう人たちなのよ・・。」

ミキは頷いた。両親はミキを歪であっても彼らなりに愛している。それはミキも深く理解していた。


ミキは両親の思いを込めて、勝利することで手に入れた。


これが最後の暗殺であり、ミキの新しい人生が始まるのだ。

さよなら・・名も知らないパリエルの妻だった女よ。ミキはそっと目を閉じて彼女に見えない空想の美しい花束を贈った。

弔いの花だ。


目を開けると、パリエルと結婚した花嫁衣裳を着たミキが居た。

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