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しのぶることの
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雅俊side
もう、待てなかったんだ。
彼女はきっとこのままあと5年間、大学から出ずに過ごすだろう。
バイト先は女性ばっかりの居酒屋だってのは知ってるが、彼女の研究室は理系なだけあって男女比が4:1という状況。
一緒に過ごしている今だからそんなこと認識させなかったけど、これからは違う。
僕は来年から働き出すし、自分で言うのもなんだけどエリートコース。
5年働けば彼女1人養うくらいわけない資産が貯まるはずだ。
四年前初めて会ったその日に一目惚れした。
ずっと、彼女に隠してきたけれど。
4年経っても、色褪せずに、魅力的に、綺麗な。
僕には想像もつかないような、とっぴなことを思いついてしまう彼女と、一緒にこれからずっと一緒にいたい。
付き合ってもいないのに、そう願ってしまったから、僕は彼女と結婚するための算段を立てて就活したし、彼女にとって魅力的な、物静かで聡明な男であるためにめちゃくちゃ本を読んで、勉強して、話したいけれどちらっ、と覗かせるくらいに取り繕って。
あの子は、自分ができないことができる人が好きなのだ。
入部早々好みのタイプなんてものをお題に短編をかけと言われた時はサークルの座長を恨んだが、そのおかげで彼女のタイプがわかった。
どちらかと言えばいわゆるイケメンになる俺の周りには、女の子がわらわら集まるからそんなに静かだったことは今まであんまり無かったけれど。
彼女が書いた短編は、図書室で静かに本を読む男女の、高校図書部の切ない恋物語だった。
奈々ちゃん、こんな人好きなの?
と聞いた時、
うん、初恋の人をイメージして書いたの。
と、はにかみながら答えた君が。
本当に、可愛かった。
俺を見る時、ポーッとならないのに、部室ではぽけーっとしながら本を読んだり、レポート書きながらうめいてたり。
今までの女の子と違ってまるで自分を取り繕わない、素直な女の子。
彼女が描く短編はまぁ、言葉は拙いけれど、その分素直で実直な表現が溢れていて、そこも好感が持てた。
そのあとはもう、めちゃくちゃアタックした。
流星群が見えるとSNSで話題になれば夜景を見に2人ででかけ。
彼女が甘いものが大好きだと知ってからはコンビニお菓子をちょくちょくあげて餌付けし。
和食を好むと知ってからはご飯行く時は必ず和食の店を選んだ。
そんなこんなで半年経ったが。
全く進捗は、なかった。
「雅俊、あんた、奈々に惚れてるでしょ」
ある日、部室に他に誰もいないなか、部長は俺に向けて言い放った。
「へ…っ!?」
「見りゃわかるってのよ、ほんとわかりやすいんだから。
見たところ初恋でしょ?全くウブなんだから。
奈々はめちゃくちゃ鈍いから全く気づいてないけど、他にもちらほら気づいてるやつはぜったいいるわよ」
秋の学祭で出す文集の原稿をチェックしながら、俺にざくざく言い放つ。
「そんなあんたにアドバイス。今のとこ奈々は全く気づいてないんだから2人でどっか行ってから口説きなさい。あーそうだ、でも好きですなんで実直に言ったってあの子には届かないわよ。
なにしろ自分みたいな理系女、ていうわけのわからない自己卑下してるからねあの子は。」
うぐ。
そう、2人でご飯に行っても夜景を見に行ってもちっともロマンチックな雰囲気にもならない。
それは彼女の初恋が関係しているようだった。
どうやら、相手は一つ年上の、高校の頃の文芸部の先輩だったらしい。
それも俺と同じ文系男子。
だが、告白した時、彼女は、
「お前とは話が合わないから無理だ」
みたいなことを要約すると言われたらしい。
それからは、ジョークも言えないし…人との会話苦手だし…とずっと本の世界に没頭してきたようだった。
それによって彼女が誰からの好意にも鈍くなってしまったのは彼女を囲いやすかったからいいとして、
この状態ではアタックしても無意味だとこの頃思い悩んでもいた。
「まぁそうね、どっか理由こじつけて2人で京都でもいってらっしゃいな。
あんたなら知ってると思うけど、嵐山に二尊院ていうお寺があるんだけど、そこからすごい綺麗に京都見えるの。で、そこでね、藤原定家が百人一首を選定したという謂れがあるのよ。
あの子は自分がそういうことに疎い分そういうことに詳しい男には弱いから、このネタ使って口説いてみたら?
百人一首なんて百個も歌あるし、その殆どが恋の歌なんだから」
ああでも、2人で京都はさすがに気づいて嫌がるだろうからタイミング合わせて同期で行くとかにしたらいいんじゃない?
とか、
全く知らない歌選んで口説いてもだめよ。そうね、中学くらいで百人一首は授業でやったろうし、有名どころで選ぶならあんたの場合式子内親王の歌なんかいいんじゃない。
とか。
原稿チェックなどという大事な作業と並行しながら、いろいろとアドバイスをしてくれて。
おれは部長のそのアドバイスに目からうろこをポロポロ落としながら聞いた。
最後に、
「あーやっと終わり。あーでもそうね、あんた同期のミサトちゃんと大概仲悪いからねー、4回生くらいになるまでこのネタ使ってのデートはできないんじゃない?
あとはい、これ全部やり直し」
と、アドバイスの締めくくりの後、指摘の書き込みで真っ赤になったおれの原稿をくれたのだった。
「やっぱあんたの原稿むかつくわー。モテる奴が書いたやつってかんじで一般人にわかりづらいのよもうちょっとモブになりなさいなこの人生主人公やろう」
などという理不尽な言葉付きで。
もう、待てなかったんだ。
彼女はきっとこのままあと5年間、大学から出ずに過ごすだろう。
バイト先は女性ばっかりの居酒屋だってのは知ってるが、彼女の研究室は理系なだけあって男女比が4:1という状況。
一緒に過ごしている今だからそんなこと認識させなかったけど、これからは違う。
僕は来年から働き出すし、自分で言うのもなんだけどエリートコース。
5年働けば彼女1人養うくらいわけない資産が貯まるはずだ。
四年前初めて会ったその日に一目惚れした。
ずっと、彼女に隠してきたけれど。
4年経っても、色褪せずに、魅力的に、綺麗な。
僕には想像もつかないような、とっぴなことを思いついてしまう彼女と、一緒にこれからずっと一緒にいたい。
付き合ってもいないのに、そう願ってしまったから、僕は彼女と結婚するための算段を立てて就活したし、彼女にとって魅力的な、物静かで聡明な男であるためにめちゃくちゃ本を読んで、勉強して、話したいけれどちらっ、と覗かせるくらいに取り繕って。
あの子は、自分ができないことができる人が好きなのだ。
入部早々好みのタイプなんてものをお題に短編をかけと言われた時はサークルの座長を恨んだが、そのおかげで彼女のタイプがわかった。
どちらかと言えばいわゆるイケメンになる俺の周りには、女の子がわらわら集まるからそんなに静かだったことは今まであんまり無かったけれど。
彼女が書いた短編は、図書室で静かに本を読む男女の、高校図書部の切ない恋物語だった。
奈々ちゃん、こんな人好きなの?
と聞いた時、
うん、初恋の人をイメージして書いたの。
と、はにかみながら答えた君が。
本当に、可愛かった。
俺を見る時、ポーッとならないのに、部室ではぽけーっとしながら本を読んだり、レポート書きながらうめいてたり。
今までの女の子と違ってまるで自分を取り繕わない、素直な女の子。
彼女が描く短編はまぁ、言葉は拙いけれど、その分素直で実直な表現が溢れていて、そこも好感が持てた。
そのあとはもう、めちゃくちゃアタックした。
流星群が見えるとSNSで話題になれば夜景を見に2人ででかけ。
彼女が甘いものが大好きだと知ってからはコンビニお菓子をちょくちょくあげて餌付けし。
和食を好むと知ってからはご飯行く時は必ず和食の店を選んだ。
そんなこんなで半年経ったが。
全く進捗は、なかった。
「雅俊、あんた、奈々に惚れてるでしょ」
ある日、部室に他に誰もいないなか、部長は俺に向けて言い放った。
「へ…っ!?」
「見りゃわかるってのよ、ほんとわかりやすいんだから。
見たところ初恋でしょ?全くウブなんだから。
奈々はめちゃくちゃ鈍いから全く気づいてないけど、他にもちらほら気づいてるやつはぜったいいるわよ」
秋の学祭で出す文集の原稿をチェックしながら、俺にざくざく言い放つ。
「そんなあんたにアドバイス。今のとこ奈々は全く気づいてないんだから2人でどっか行ってから口説きなさい。あーそうだ、でも好きですなんで実直に言ったってあの子には届かないわよ。
なにしろ自分みたいな理系女、ていうわけのわからない自己卑下してるからねあの子は。」
うぐ。
そう、2人でご飯に行っても夜景を見に行ってもちっともロマンチックな雰囲気にもならない。
それは彼女の初恋が関係しているようだった。
どうやら、相手は一つ年上の、高校の頃の文芸部の先輩だったらしい。
それも俺と同じ文系男子。
だが、告白した時、彼女は、
「お前とは話が合わないから無理だ」
みたいなことを要約すると言われたらしい。
それからは、ジョークも言えないし…人との会話苦手だし…とずっと本の世界に没頭してきたようだった。
それによって彼女が誰からの好意にも鈍くなってしまったのは彼女を囲いやすかったからいいとして、
この状態ではアタックしても無意味だとこの頃思い悩んでもいた。
「まぁそうね、どっか理由こじつけて2人で京都でもいってらっしゃいな。
あんたなら知ってると思うけど、嵐山に二尊院ていうお寺があるんだけど、そこからすごい綺麗に京都見えるの。で、そこでね、藤原定家が百人一首を選定したという謂れがあるのよ。
あの子は自分がそういうことに疎い分そういうことに詳しい男には弱いから、このネタ使って口説いてみたら?
百人一首なんて百個も歌あるし、その殆どが恋の歌なんだから」
ああでも、2人で京都はさすがに気づいて嫌がるだろうからタイミング合わせて同期で行くとかにしたらいいんじゃない?
とか、
全く知らない歌選んで口説いてもだめよ。そうね、中学くらいで百人一首は授業でやったろうし、有名どころで選ぶならあんたの場合式子内親王の歌なんかいいんじゃない。
とか。
原稿チェックなどという大事な作業と並行しながら、いろいろとアドバイスをしてくれて。
おれは部長のそのアドバイスに目からうろこをポロポロ落としながら聞いた。
最後に、
「あーやっと終わり。あーでもそうね、あんた同期のミサトちゃんと大概仲悪いからねー、4回生くらいになるまでこのネタ使ってのデートはできないんじゃない?
あとはい、これ全部やり直し」
と、アドバイスの締めくくりの後、指摘の書き込みで真っ赤になったおれの原稿をくれたのだった。
「やっぱあんたの原稿むかつくわー。モテる奴が書いたやつってかんじで一般人にわかりづらいのよもうちょっとモブになりなさいなこの人生主人公やろう」
などという理不尽な言葉付きで。
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