転生したらいろんな意味で兄に可愛がられています～ヴァルハラで死合いましょう～

第１章～あなたを目指して～

第４０話

「なんだこれは……！」

　殺されたイノシシの子供が大木に吊されている。しかも首と胴体が切断されており、その血を擦り付けるように幹が汚されていた。

　嫌な予感がして一〇〇メートル先も確認してみたのだが、案の定、同じような罠が仕掛けられていた。さすがに気分が悪くなった。

　――これが罠なのかよ……。

　胃の辺りがむかむかする。

　ランゴバルトは一体何を考えているのか。こんなのただの殺生――もっと言えば悪ふざけではないか。一体何のためにこんなことをしているのだろう。さっぱり理解できない。

　さすがにこれは一言くらい意見した方がいいんじゃないか……と思いかけた時、

「……！？」

　ずん……と、大地を揺るがすような地響きが伝わってきた。一瞬、地震かと思った。

　――何だ……！？

　慌てて抜刀して前方に目をやる。イノシシの血の臭いで鼻が利かなかったが、凄まじく巨大な生き物の気配は感じていた。

　これは……こいつは、まさか……。

「っ……！」

　周囲の小木を薙ぎ倒し、巨大なイノシシが姿を現した。

　全長は一〇メートル……いや、十五メートルはある。高さも二、三メートルはあり、鋭い牙は四本も生えていた。

　アクセルは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。自分一人でどうにかできる相手ではない。

　何かを考えている余裕もなく、身を翻して元の広場まで走った。

　――このためだったのか……！

　あの残虐な罠は、全てこいつを誘(おび)き出すため。ランゴバルトの意図がようやくわかった。

　わかったが、これはリアルに命の危機だ。死合い中ならともかく、こんなところで死んだらどうなるかわからない。死体を食われでもしたら復活できなくなる。