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第35話 第七章 使者
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一瞬、パニックに襲われる。夜煌蟲には、引き戸を動かすことなんてできない。
人間。誰。生き残り。まだいた。味方――敵?
振り向くと、職員室のドアをくぐって、やや大柄ながっしりした人影が、ゆっくりと入って来た。
私はここまで、平静を装っていても、この無数の蟲の群れの中に一人いることに、凄まじい恐怖を感じていた。一坂も斯波方先輩もいなくなり、泣き出したいのを必死に押し殺して、ぎりぎりの状態で、何とか冷静に柚子生先輩と対峙していた。
その忍耐が、吹き飛んだ。ずっと我慢していた悲鳴が、私の口から迸る。
やっぱり、引き止めるべきだった。いくら本人が望んだからと言って、死にたいと言う人から手を離すべきではなかった。あの時私は、必死で組み付いてでも、全ての蟲を払い落すべきだった。
絶叫に、涙が混じった。
こんな、こんな目に遭わせるために、こんなことをさせるために、私は黙って見送ったのではない。
職員室の中に入って来たのは、顔中を赤い畝に覆われ、目を飛び出させ、半開きの口からよだれと夜煌蟲を垂らした、――……
「エリヤちゃん、殺人タイプって名前、シンプルでいいと思うよ。間近で見ても、自殺型との違いに気づかなかったでしょう。蟲自体の外見は同じだから見分けがつかないのよね。その子も、やっと、自殺できると思っただろうにねえ。残念残念」
――その飛び出た赤い目で私を凝視している、斯波方先輩だった。
人間。誰。生き残り。まだいた。味方――敵?
振り向くと、職員室のドアをくぐって、やや大柄ながっしりした人影が、ゆっくりと入って来た。
私はここまで、平静を装っていても、この無数の蟲の群れの中に一人いることに、凄まじい恐怖を感じていた。一坂も斯波方先輩もいなくなり、泣き出したいのを必死に押し殺して、ぎりぎりの状態で、何とか冷静に柚子生先輩と対峙していた。
その忍耐が、吹き飛んだ。ずっと我慢していた悲鳴が、私の口から迸る。
やっぱり、引き止めるべきだった。いくら本人が望んだからと言って、死にたいと言う人から手を離すべきではなかった。あの時私は、必死で組み付いてでも、全ての蟲を払い落すべきだった。
絶叫に、涙が混じった。
こんな、こんな目に遭わせるために、こんなことをさせるために、私は黙って見送ったのではない。
職員室の中に入って来たのは、顔中を赤い畝に覆われ、目を飛び出させ、半開きの口からよだれと夜煌蟲を垂らした、――……
「エリヤちゃん、殺人タイプって名前、シンプルでいいと思うよ。間近で見ても、自殺型との違いに気づかなかったでしょう。蟲自体の外見は同じだから見分けがつかないのよね。その子も、やっと、自殺できると思っただろうにねえ。残念残念」
――その飛び出た赤い目で私を凝視している、斯波方先輩だった。
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