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第36話 第八章 羊の歌 1
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姉さんの葬儀の後、先生があたしのことをユズキと名前で呼ぶようになるまでに、時間はかからなかった。
姉さんを失ったあたしの心に開いた穴を埋めてくれたのは、先生だけだった。
教師と生徒の関係であることは、あたしを煽りこそすれ、冷静にさせたりはしなかった。
自分の全てを、先生に話した。
物心ついた頃にはもう母親しかおらず、父親が、どんな人なのかを知らないまま育ったこと。
外国人らしいというだけで、欧米人なのか、アジア人なのか、それ以外なのかさえ不明なこと。
母に父の素性を何度か訊いても、その度はぐらかされたこと。
誰からも必要とされていないのではないかと思いながら、生きて来たこと。
それが、大きな恐怖だったこと。
そのお陰で、愛想ばかり良くなったこと。
自分がいじめられていると気づいた時には、遅かったこと。
みじめで仕方なくなるような痛みに晒されたこと。
当時の教師も、一緒になって嗤っていたこと。
その笑い声の中で暮らすうちに、心の温度が失われて行ったこと。
人形のように生きようとしたこと。
けれど、寂しさという感情に、結局は抗い切れなかったこと。
そのせいで癇癪持ちになったあたしを、姉さんが救ってくれたこと。
それと二次性徴で女らしくなって来ていたのが重なったため、あたしは急に周りからちやほやされだしたこと。
なのに、その姉さんに、何もしてあげられなかったこと――……
これまで誰にも話したことのなかった吐露を、先生は穏やかに微笑みながら聞いてくれた。
この人に出会うために自分は産まれて来たのだ、と思った。
信頼関係なんて全く無い母親の下で暮らすのにうんざりして、あたしは中学を卒業する前に家出して、先生のアパートに転がり込んだ。
母親は、それを問題にしなかった。あたしを、探しにも来なかった。代わりに、知らない男を家に引っ張り込んだ。
それでも、あたしは幸せだった。母親とは最低限の連絡だけを取り、受験をして、高校が決まって、家族などいなくても十分生きて行けると思える程度には、順調だった。
姉さんを失ったあたしの心に開いた穴を埋めてくれたのは、先生だけだった。
教師と生徒の関係であることは、あたしを煽りこそすれ、冷静にさせたりはしなかった。
自分の全てを、先生に話した。
物心ついた頃にはもう母親しかおらず、父親が、どんな人なのかを知らないまま育ったこと。
外国人らしいというだけで、欧米人なのか、アジア人なのか、それ以外なのかさえ不明なこと。
母に父の素性を何度か訊いても、その度はぐらかされたこと。
誰からも必要とされていないのではないかと思いながら、生きて来たこと。
それが、大きな恐怖だったこと。
そのお陰で、愛想ばかり良くなったこと。
自分がいじめられていると気づいた時には、遅かったこと。
みじめで仕方なくなるような痛みに晒されたこと。
当時の教師も、一緒になって嗤っていたこと。
その笑い声の中で暮らすうちに、心の温度が失われて行ったこと。
人形のように生きようとしたこと。
けれど、寂しさという感情に、結局は抗い切れなかったこと。
そのせいで癇癪持ちになったあたしを、姉さんが救ってくれたこと。
それと二次性徴で女らしくなって来ていたのが重なったため、あたしは急に周りからちやほやされだしたこと。
なのに、その姉さんに、何もしてあげられなかったこと――……
これまで誰にも話したことのなかった吐露を、先生は穏やかに微笑みながら聞いてくれた。
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母親は、それを問題にしなかった。あたしを、探しにも来なかった。代わりに、知らない男を家に引っ張り込んだ。
それでも、あたしは幸せだった。母親とは最低限の連絡だけを取り、受験をして、高校が決まって、家族などいなくても十分生きて行けると思える程度には、順調だった。
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