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第一章 ずっとずっと好きだったけれどもういけない
青四季海と、養護教諭の女良陽菜1
しおりを挟む今はもうほぼ使われていない旧校舎の部屋は、どこも埃まみれだった。
たった今海が足を踏み入れた、三階の端のとある教室だけが例外だった。適当に掃除がされている――海がしている。
まだ傾きかけただけで威勢のいい太陽の光が、薄いカーテンを通り抜けて室内に突き刺さってくる。。
それでも旧校舎はまれに校内行事などで利用することがあるため、電気が通ったままにされており、エアコンが使えるのはありがたかった。
さすがにベッドは置いていないが、清潔なシーツとマットレスは用意してある。人目に触れそうなときは、適当に丸めて端に押しやってしまえば、いかにも適当に放り込まれた無用品に見えるだろう。
「待ってた」
「いいんですか、保健室にいなくて」
「こんな日に誰も来ないでしょう、保健室なんて」
女良陽菜は、明るい茶色の髪を両手で少し持ち上げて整えた。
養護教諭、いわゆる保健室の先生である彼女は、百六十センチにわずかに足りない身長で小柄だったが、体つきにはめりはりがある。特に胸が豊かで、下品な男子生徒からはよく遠慮のない視線を向けられているのは、周知の事実だった。
もっとも、陽菜の場合は体だけでなく顔だちも秀でていたため、生徒から一定の人気が出てしまうのは毎年のことだった。
女良先生は確か今年で二十六歳のはずだ、と海は胸中で思い出す。この学校に勤めだしてから数年で、数えきれないほどSNSのアカウントや連絡先を男子たちから聞かれ、時には手紙を受け取ることもあるらしい。……のだが。
「あー、ほんとに養護教諭って精神衛生に悪いよー。いくら迫られたって、まともに生徒を相手にできるわけないじゃない?」
「告白でもされたんですか? 今日?」
陽菜はふくれっ面で答える。
「されたよぅ。やんわり断ったら、おれが生徒だから取り合ってくれないんですか、未成年でも真剣に先生を好きなんです、って。でもさ、はっきり言って恋愛対象として見れるわけないじゃん? 悪いけど、子供通してサルだよ、校内の男子なんて」
「……おれも校内の男子なんですが」
ああ、と笑ってから、陽菜は白衣のボタンをはずした。
「青四季くんは別。私の恩人だしね」
夜の街で、陽菜がSNSで買った男娼が海だったのは、偶然だった。
陽菜にすれば、多少目立つとはいえ、何百人といる生徒の一人でしかない海の顔など覚えていないのは無理のないことだった。
海のほうが、てっきり生活指導の一環としてはめられたのだと勘違いして、ホテルの部屋に入ってマスクとサングラスを外した彼女を見てた時、「女良先生!?」と思わず声に出してしまった。
あの時の、陽菜の絶望的な顔は今でも忘れられない。性欲処理のために男を買って、それが未成年、おまけに自分の学校の生徒を手にかけようとしたとなれば、くびは免れないだろう。
「でもね、青四季くんとのあの時、もうこれで学校辞めてもいいかなってちょっと思ったんだ。けっこう追い詰められてたからさ」
校庭の脇にある倉庫の隅に転がっていたのを持ってきたコート掛けに、ハンガーで白衣が吊るされる。
傍らにあった机の天板に、陽菜が座った。足が緩く開かれている。
「男子生徒のせいですよね。すみません」
頭を下げて、海が近づく。
「うん……気持ちがうれしい、って思ってた時期もあったんだけどね。さすがにしんどいよ。好意を向けられて、それを断るって、意外にきついから。生徒傷つけるのって、胃に来るんだよね」
「なかなか、相談もできなさそうですよね。もてすぎて困っちゃうんです、っていうのは」
「……ふっふ」
「……なんです?」
「いいなあ、青四季くん。本気で言ってくれてるっぽい」
陽菜が腰を浮かせ、けげんな顔をしている海の目の前で、白い下着を脱いだ。
「青四季くん。私、シャワー浴びたから」
この学校には、部活動用と別に、職員用のシャワー室がある。首から下を洗うだけなら、急げば五分程度で着替えまで済ませられた。
「はい。いいにおいしますね」
「だから……指でとか、周りからじらしてとかじゃなくて……服も、着たままでいいから……」
海はさらに歩み寄り、陽菜の足の間に入った。
完全に開いた足の間の奥が、スカートにまだかろうじて隠れてはいるものの、無防備に外気にさらされている。
海は、陽菜の耳元でささやく。
「いきなり、口でしてもいい?」
陽菜は声を出さずに、しかしはっきりとうなずいた。
海がすっとしゃがみ込む。
その顔が、陽菜の腰の高さまで下りた。
海の手は陽菜の両膝をつかみ、優しく広げる。
スカートが隠していた部分が、完全に露出した。
耐え切れず、陽菜が顔をそらす。ああ、と吐息が聞こえた。
海には、陽菜がして欲しいことが分かっていた。今日の陽菜は、いきなり、最初の接触で、最大限の衝撃を与えて欲しがっている。そのためには、足を完全に開いて、最初からむき出しにすることが必要だった。奥まった状態の部分に向かって進んでいく動作さえ、今はノイズでしかない。
目の前に、陽菜の欲望が詰め込まれた部分がある。すでに赤らんで膨らみ、濡れているのがはっきりと分かった。ここまで露出していれば、最大限の刺激を与えられる。
下準備の最後として、海は、陽菜の硬くしこり切った中身をくるんでいる包皮を、芯に触れないように、周りを抑えてむき上げた。
支度が整った。
ゼロから百への快感を、最も敏感な場所へ打ち込むために、海は下端から一気に舐め上げた。舌に込めた力は、いつもより強い。
「ああッ!」
待ちわびた、そして切望していた快感を望みどおりに与えられて、陽菜がのけぞる。
海は容赦しなかった。舌の根まで使い、ざらついた粘膜の全面で陽菜を責める。
細やかに動く舌の先端でひだをからめとり、力を込めやすい分厚い舌の根を強く押し当てて、一定の速度で何度も舐め上げた。
陽菜の体が一気に汗ばんでいく。ストレスと欲求不満をため込んだ体に、許容量いっぱいの快感を全開で打ち込まれたのだから、ひとたまりもなかった。
「あああああッ! あーッ!」
特に、舌の根の動きがたまらない。
完全にとがりきってしまった陽菜の中心をぴったりと包み、休みなく上下に揺さぶってくる。
舌が下がりきり、一息つこうとしたところで、カウンターのように舐め上げられて、その度に悲鳴を上げて顎が跳ね上がってしまう。
これを休みなく繰り返されるのだから、陽菜は耐久力も我慢も、あっという間に完全に打ち崩されてしまった。
「あ、ううっ! あ、青四季くん! 海くん!」
この快感を、どう伝えていいのか分からない。
代わりに陽菜は、自分の下半身に顔をうずめている男子生徒の頭をつかみ、なで回した。
痛がらせていないことを陽菜の反応から確認して、海はその動きを続けた。とどめを刺す直前までは、あれこれ変わった愛撫に移行するよりも、最も気に入ってくれた動きを繰り返すほうが喜んでもらえる。これは海の経験則だった。
とうに快楽の天井に打ちつけられ続けていた陽菜の体が、その限界を超えようとしている。
ずっとこうして欲しかった。海に会えない夏休みの間、海の舌と唇を思い浮かべながら、自分の指だけで我慢していた。
新学期が始まる直前になると、憂鬱が陽菜の上に重くのしかかってきていた。また、望まない相手に、一方的に好意を向けられる日々が始まる。それを同性からは羨ましがられ、異性の教師からは下手をすると生徒以上に下卑た視線で見られる。
耐えられない。そんな生活は、なんのご褒美もなくては。
絶対に、最初の日に青四季くんにお願いしよう。そう決めていた。
そして待ちに待った瞬間が、まさに陽菜に訪れようとしている。
「ああ、ううッ、青四季くん、……ゆ、……」
指、と言おうとしたのと同時に、舌の荒々しさが嘘のように、海の中指が優しく入り込んできた。
その感覚で、陽菜は、自分がどんなになっているのかを否応なく知らされる。
嘘のように濡れていた。
海の指は、穏やかに、陽菜の求める場所にたどり着いた。そして、ほんの少しだけ指先が曲げられた。
「ああっ!?」
それだけで、陽菜は、全身をくまなく海に抱きしめられているように感じた。猛禽類の爪につかまれた餌のように、もうなされるがままになるしかない。
海の舌が、上下運動から、わずかに横の動きを加えてきた。直線ではなく、縦長の楕円のような軌道が描かれる。
楕円はだんだんと真円に近づいていった。
こうなると、動きによどみや一時の停止がなくなり、いよいよ責めが途切れることなく連続する。
「あ、あ、あ……」
陽菜は、高まった快感を落ち着かせる間を与えられず、ひたすら上昇するだけにさせられてしまった。
怖い。
でも、絶対にやめて欲しくない。
「そう……あお、……そう、お願い……おね……」
陽菜は、海の顔が見たかった。
どんな顔をして、こんなことをしているんだろうと思った。
しかし体中の力を振り絞ろうとしても、起き上がるどころか、逆に背中はどんどん反り返っていく。
「あ……あ……」
海は海で、そんな陽菜の様子を察していた。
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