20 / 32
第二章 変わらないはずだと信じたものさえ遠ざかるから
青四季海と、先輩の折露杏子3
しおりを挟む親は深夜まで帰ってこない。
それだけはまず確認した。
杏子の家は一戸建てで、二階にある杏子の部屋は、化粧品や服など生活に必要そうなものと全くそんなことはなさそうなもので溢れかえっていた。
ベッドの上はほかの空間よりも比較的整然としていたが、人間の赤ん坊ほどの大きさのぬいぐるみが三四個置かれている。
「お待たせ。シャワー浴びてきたよ」
部屋に戻ってきた杏子は、部屋着姿だった。丈の長いTシャツで、腿の半ばまでが隠れている。
ブラジャーは着けていないのが、胸のあたりを見ると分かった。
「はい。では、そこに寝てください」
杏子は慣れた様子で、うつ伏せに寝る。
いくら今親がいないとはいっても、なにかの都合で、ふいと帰ってくることはあり得る。
あまり時間はかけられない、のだが。
海はこれまでの経験上、知っていた。女の様子がおかしい場合、体を満足するよう求められても、それだけを真に受けてはいけない。どんなに懸命に尽くしても、尽くした分だけ醒めさせてしまうことが往々にしてある。
杏子は性欲はそれなりに旺盛かもしれないが、ショッピングセンターの時のような要求の仕方は、普段しない。
なにかある、と思えた。
そしてそれは、直接聞くのが最善手だ。
「折露先輩。なにかあったんですか?」
「……彼氏がさあ」
うつ伏せのまま、杏子がくぐもった声を出す。
確か処女が好きとかなんとか言っていたな、いや少し違ったか、と海が記憶をさらった。
「言ってましたね、彼氏さん。はい」
「すげえすけべだった」
……。
十数秒、沈黙が訪れる。
「ええと、それは……」海が控えめに言った。「いいこと、だったですか?」
「最初はそう思った。でもなんかあいつ、全然童貞同然のくせに、おもちゃとか使いたがって」
海は、そうしたものを使ったことがない。
しかし、人間には到底できない動きをして、指や舌とはまた別物の快感をもたらすというのは聞いていた。
「不愉快、ですか?」
「まあね。男なら自分の体だけで勝負しろよ。なに道具に頼ってんだよ」
この辺りの価値観は人によって千差万別だが、同時に、言葉通りにとるのもあまりよろしくない。なにか、単に道具を使うのとは別の理由で杏子が傷ついている可能性もある。
肯定も否定もせずに、海は先を促した。まだなにかあるはずだ。
「しかも、しかもさあ……あたしが結構やってるってことが分かったら、あいつ、いろんな可能性を追求したいとか言い出して……」
「道具以外にも?」
杏子の後頭部が小さく沈んでうなずく。
ここはこちらから訊くべきところか、と海が察した。
「たとえば? 訊いてもいいですか?」
「うん。……3Pとか」
「……それはまた」
「ほかはともかくさあ……3Pっておかしくない? 三人ってことは、もう一人いるんじゃん。そいつ、男? 女? コスプレとか変わった場所でやりたいとかなら分かるよ、でもほかの人入れようってさあ。あいつあたしとなにがしたいわけ?」
海は、一度、その彼氏と会ってみたいと思った。
性に目覚め始めて、浮かれているのかもしれない。未知の場所にいきなり足を踏み入れて、舞い上がってしまっているのではないか。
それなら、少しくらいは役に立つ助言ができると思う。
もちろん、実行には移せないが。歯がゆい。
「そんなわけで、いらいらしてさ……海くんに、すっきりさせてもらおうと思ったのに。全然会ってくんないし」
「彼氏とのそういう不満を抱えている時に、おれが入り込むような真似は、よくないですよ……」
「いいんだよ。だってあたしあいつとじゃ全然いけないんだもん」
これ以上どこまで聞いていいのか判断がつきにくくなり、ひとまず海は、奉仕を開始した。
服の上から、服と肌をこすれさせないように気をつけながら、手のひらを広く使って触れていく。
肩甲骨やわき腹を指でなぞり、やがてTシャツの裾にたどり着いた。
杏子は、ブラジャーだけでなく、下にもなにも穿いていなかった。
中心部分に直接ではなく、その周囲から触れていく。
「あー、やっぱいい……気持ちいい」
性的な快感以前に、安心させるような触り方が大事なのだと、海は経験の中で気づかされていった。
杏子の彼氏は、おそらくそうはいかないのだろう。
杏子はすぐに濡れてきた。
指を一本だけ、ゆっくりと入れていく。
奥に行くほど、濡れ方は激しい。
指を伝って、すぐに手がびしょ濡れになってきた。
海は、杏子の腰をつかみ、少し浮かせた。
素直に従う杏子の、下半身とシーツの間にできた隙間に、海は仰向けになって顔を入れる。
そして、舌で杏子の硬くなった部分を包み前後に動かした。
「う、……んん……あ、それいい……」
徐々に舌の動きを大きくして、陰唇のほうまで、唾液で濡らしながら広く舐め上げる、
指を二本に増やして、つるつると滑らせるように出し入れした。
杏子の腰が動き、声も激しくなってくる。
前もって杏子に要してもらっていたバスタオルを、海はそっとシーツの上に広げた。
濡れてしまうと、今日の杏子の寝床がなくなる。この分では、今日の杏子はそうとう濡らすだろう。
「あー、いい、いいよ、その、べろってやってるやつ……あ、あ、凄い、細かい……」
舌全体を使いながら、舌先だけは少し硬くして、杏子の尖りを弾いてやる。
時折それを細かく早くしてやると、杏子が耐えかねたように腰を落としてきた。
「折露先輩、……彼氏さんの名前、呼んでもいいですよ……」
そう言ったのは、先日、亜由歌のことを思い浮かべた自分が、かつてない快感を味わったからだった。
しかし、杏子は「ううん、いい……」と断ってきた。
「だってあいつ、絶対こんなことできないもん……」
杏子が体をずらしてきた。
仰向けの海の顔のすぐ上に、杏子の顔が来る。
「先輩?」
杏子が、海の首筋に顔をうずめ、唇と舌をで首を何度も舐め上げる。
「せ、先輩っ」
「ねえ、キスしたい。いいでしょ? だめ?」
奉仕をする当初からの約束だった。本番とキスはしない。
「だ、だめです。しません」
「じゃあ、入れて」
杏子が、右手で海の下半身をつかんだ。
いくら冷静であろうと努めても、当然、そこは完全に張りつめている。
「あっ!? だめです、先輩」
杏子は手慣れていた。片手で器用にシッパーを下ろし、パンツの合わせ目から、するりと指を滑り入れて、あっという間にそれをつかんでしまう。
「うっ……!」
それだけで、先端から、とろりと雫がこぼれた。
杏子は、見ずとも、それを指先で知覚してしまう。
「ほら、こんなじゃん。海くんなら、いいよ。気持ちよくしてあげる。ね? 知らないでしょ、入り口で締めるやり方。あたしできるんだよ。入り口だけで、すっごい気持ちよくできるから」
しかし、海はかぶりを振った。
「だめ、です。彼氏が、いるでしょ……」
「今ここにはいないよ。ね? 入り口の所だけ……ひっかけるみたいに……。いいって言って、海くん」
杏子が腰の角度を合わせた。あとは触れるだけで入ってしまう。
だが、海は自失しなかった。
体を起こして杏子と入れ替え、自分が上になる。
「あっ、海くん」
「目を閉じて。彼氏でも、誰でもいいです。こうされたい相手を思い浮かべてください」
杏子は、言われたとおりに目を閉じた。
だめだ、嫌だと言われている限りキスも挿入もしない。言われたことには、問題がなさそうならとりあえずつき合ってくれる。海はそうした杏子の性格を理解していた。だから奉仕の相手から除外しなかったし、今も会っている。
海は、再び指を二本、浅めに入れた。
前後に動かしていく。
「あ……はあ……」
杏子は濡れやすい。しかし、今までのどの時よりも濡れていた。
「海、くん……」
「はい」
閉じたままの杏子の目じりに、涙が溜まっている。
「お願い、入れて……」
「それは……すみません」
「海くんの、大きいから……あいつの……彼氏の、来てほしいところまで来ないの……これじゃ、あたし……ずっとあれじゃ、いつか……」
「大きいのが、いいんですか?」
「うん、好き……前はだめだったけど、今は大きいのがいい。海くんので、奥突いて欲しい……」
「奥、ですね」
奥とはいっても、杏子の言う奥というのは、本当に最奥のことではない。
奥側にある個所で、さほど大きくないペニスでも届きうるところ。海はすでにそれを知っていた。数度触れれば、杏子の様子を見ていてそれくらいは察せる。
なのに、なぜ、交際相手がそれを分からないのか。腹立たしい気持ちになる。
海は、それまで浅めに入れていた指を、ゆっくりと奥まで入れた。
杏子が一番乱れるその場所に、中指の腹が触れる。
ひっかくような動きにならないように気をつけて、動きを速めた。
一見激しい動きに見えるが、力を強くするのではなく、速さだけを上げる。卵の黄身に触れるつもりで、と「仕事」の先輩に教わったことがあった。
杏子は、あっという間に、ものをしゃべれなくなった。
「あああ……! そ、あっ、かい……く、あ、そっ、あー……!」
尻が動き、背中が反り、汗の玉が肌に浮かんでくる。
こするのではなく、押す。
雑な動きにならないよう気をつけながら、舌で杏子の尖りをとらえ、右手で中心へ出し入れし、左手は杏子の右手とつないだ。
「ぐっ、あ、うああああああ……あ、たし、あああ……!」
ぱしっ、となにかの液体が一瞬だけしぶいた。
そして弓なりになった杏子の体が、こわばって制止する。
それからすぐに、どっとバスタオルの上に倒れてきた。
ぐったりとした杏子とは対照的に、海のほうは、どうしようもないほど勃起していた。
入れてしまいたい。その気持ちがないと言えばうそになる。きっと杏子も喜びこそすれ、怒ったりはしない。
でも、だめだ。
これが、超えられるけれど超えてはいけない一線だ。
海は苦労して、まったく収まる様子のないペニスをズボンの中に収めた。
杏子のシャツを直し、別に出しておいてもらったフェイスタオルで、弛緩した体を拭いていく。
「着替えますか?」
杏子はゆるゆると首を横に振った。
「いい」
「そうですか。……おれは、こういうの、これで最後にします。だから、これっきりです」
「うん……。学校の外で、おばさんとやってんでしょ? それも?」
「やめます。……おれにはもう、……いや、少し前から、必要がなくなっていたんです。でも、喜んでくれる人がいたから……そう思って続けてきましたけど……」
「そんなに悪いことだとは思わないけど、なくすものともらえるもののつり合いが、とれなくなったかな」
海は驚いて杏子を見た。
まさに、言われたとおりの感覚だったからだ。
「そうです、けど……なんだか、折露先輩らしからぬセリフですね」
「あたしがパパ活してたころ、一緒にやってた子がやめる時に言ってた。そしたらもう、やる意味ないよね」
意味。
意味か。
ないなあ、意味。
海は胸中で苦笑した。しかしその笑いはすぐに顔にも出た。
杏子もそれを見て、笑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
