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第三章 アイドルと怪異!6
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キエロは、きゅるるる、ってうなりながらランド・ハーピーをにらみつけてる。
「目障りな。よかろう、あのうさぎの上にいる人間は、貴様の主人だったな。吸血鬼の主人の小娘とともに、貴様の目の前で始末してや……」
ランド・ハーピーの言葉が途中で止まった。
そして、私も、マリカちゃんも、時雨さんまで、目を丸くして、ランド・ハーピーの足元を見てた。
いつの間にか、シュンくんがランド・ハーピーの隣まで来て、その羽毛だらけの足にしがみついてる。
「し、シュン……くん?」
「あいね……」
「そうだよ、私が分かる?」
「分かる……おれ、ずっとこいつに……アイドルとしてもっと成長して、人気が出るようにって……それがおれの弱みで、逆らえなくて……」
「そ、そんなの弱みじゃないよ! つけこむほうが悪いんだよ! シュンくんそこ離れて、危ないから!」
「こいつに、あいねを傷つけさせたりしない……おれがアイドルになろうと思ったのは、あいねのためなんだから……」
え?
シュンくんは、まだ完全に正気じゃないのか、どこかぼうっとした様子でしゃべってる。
「昔、あいねがクラスで嫌がらせされてた時、おれ、役に立てなくて……」
「そんなことないよ!? シュンくんとメイだけはずっと私と仲良くしてくれて、シュンくんはクラスの子にも注意してくれたって、メイから聞いたよ!」
それを知った時に、どんなにうれしかったか。
私は一人じゃないんだって、確かに感じられたんだから。
「でも、完全に嫌がらせをなくすことはできなかった……あの時に思ったんだ、おれ、世の中に人を傷つけるやつがどうしても出てくるんなら、おれは傷つけられた人たちを元気づけられる人間になろうって……それでアイドルを目指したんだよ……」
そんなの、全然知らなかった。
幼馴染として、仲のいいクラスメイトとして、シュンくんはじゅうぶん私を励ましてくれたのに。
「なのに、そのせいで……あいねをこんな、危険な目に合わせて……。せめて、こいつがあいねを傷つけることだけは、絶対……」
「はっはあ。絶対、なにかな!?」
とうとう、ランド・ハーピーが足を振り上げた。
「シュンくん!」
でも、すんでのところで時雨さんがシュンくんを捕まえて、ガルちゃんのところまでひとっ飛びで連れてきてくれた。
ついでに、キエロも合流して、ぴょんとマリカちゃんの足の横に座る。
「ぼくとやつの戦いは、少々長引きそうです。さっきみたいなことをさせないよう、ガルに乗ってもっと離れていてください」
シュンくんはぐったりしちゃってて、時雨さんがガルちゃんの上に横たわらせる。
「シュン殿はむりやりランド・ハーピーの支配を断ち切ったようなので、その反動がきているのしょう。休ませてあげてください。……しかし、思ったより難敵ですね」
「やっぱり、強いんですか?」
雷を撃ち込もうにも、今の状況ではタイミングも威力も心もとないですね、って時雨さんが苦笑する。
「爪の攻撃力や翼の機動力も厄介ですが、やつには気配察知の能力があって、ぼくの攻め気を読まれてしまい、なかなかこちらの攻撃が当たりません。不意打ちのような形でならばチャンスがあるかもしれませんが、正面切っての戦いは、今のぼくでは少々分が悪いですね」
「不意打ち……」
うつむく私の肩を、時雨さんがぽんと軽くたたいて撫でた。
「あいねさんは心配しないでください。ぼくがなんとかしますから」
「で、でもっ。そうだ、前みたいに、私を半吸血鬼にしてくれれば!」
「こんな昼日中に太陽の真下で吸血鬼化しても、いいことはありません。それにあれは、あいねさんのためにならなかったかもしれないと、ぼく自身反省しています」
「うう……でも、時雨さんが全力で戦えないのって、私のせいですよね!? 私が主人じゃなければ、時雨さんは疲れてなんかない状態で戦えたし、ううん、そもそもこんな戦いしなくて済んだんですからっ」
すると時雨さんは、今度は肩じゃなくて私の頭をさらさらと撫でてくれた。
「し、時雨さん?」
「どうやら、この丸くてかわいらしい頭の中で、いろんなことを考えてくださったようですね。なら、忘れないでください。あなたはぼくに、守るべき人のために戦うことの喜びを教えてくれたのだということも」
私は、頭に置かれた時雨さんの手を握った。
「時雨さん、私に、なにかできることないんですか……?」
「もうじゅうぶんしてくれていますよ。それに、勝ち目がないわけでもありません。たとえば、このまま、夜まで粘るとかね」
そうは言うけど、太陽は少しは傾いてるものの、まだまだ空高く輝いてる。
時雨さんなりに、私を安心させたくて、なんとかひねり出した言葉なんだろう。それが、無力な私には切ない。
なにか。本当に、今の私にできることはないの?
「時雨さん、……夜なら、勝てるんですか?」
「まず間違いなく。夜でなくても、せめて太陽が陰ってくれれば、ずいぶん違うんですけどね。……さて、ないものねだりはこのくらいにして」
時雨さんが、ランド・ハーピーのほうを向く。
「心ゆくまで戦おうか、ハーピー。多少優位にあるからといって、思い上がるなよ。吸血鬼の底力を知るがいい」
時雨さんの体がふわっと浮いて、ガルちゃんから離れ、怪異に向かっていく。
私たちを乗せたガルちゃんも、今までよりもさらに時雨さんたちから離れる。
そして、また二人の怪異は戦い始めた。
でも、爪の一撃を防ぐたびに、時雨さんの体はよろめいて、傷が増えていく。
屋上の床に、時雨さんの血のしずくが落ちた。
やっぱり、夜までなんて待てるわけない。
「……マリカちゃん」
「ん?」
「お願いがあるの」
私は、マリカちゃんに耳打ちした。
マリカちゃんは口をあんぐり開けて、
「……本気?」
って言ってきた。
私は深くうなずく。
「あんた、あの吸血鬼の主人なんでしょ? それが、自分の身を危険にさらそうっていうの? 吸血鬼は、そうさせないために、さっきより距離取らせたんでしょうに」
「危険なんて。……時雨さんのほうが、ずっと危険だもん」
「いや、だからそれは吸血鬼があんたを守る立場だから……。うん、いや、いいや。やりたいんだよね?」
「うん。私にできることをしたい」
「分かった」
マリカちゃんがキエロを抱き寄せた。その耳に小声でなにか言ってる。
ありがとう、マリカちゃん。
私は、ガルちゃんの上で大きく深呼吸した。
大丈夫。
きっとうまくいく。
スマホをポケットから取り出して、空にかかげて。
「スカイ・イビル」
その名前を唱えると、スマホの画面にスカイ・イビルの姿が現れて、私の体が宙に浮く。
「わっ。ひえ、わっ、と」
時雨さんが言ってた通り、少し練習したくらいじゃ、空を飛ぶって難しい。
転ばないように(空中なんだけど)姿勢を保つのも一苦労だったけど、なんとか、少しずつ前に進んだ。
そして、ランド・ハーピーに向けて、思いっきり体当たりをしてやるつもりで強い視線を送る。
時雨さんと激しく戦ってるランド・ハーピーが、ぴくんと体を震わせるのが、時雨さんの肩越しに見えた。
「なんだ……人間め、妙な動きを……」
よしっ。
ランド・ハーピーは気配を察知して、攻め気を読むって言ってたもんね。
私がなにかしようとしてるのに気づいたはず。
「ひ弱な小娘が! なにをしておるか!」
ランド・ハーピーが、時雨さんの横を素早く通り過ぎた。
だって、私のほうが、絶対に時雨さんよりやっつけやすいから。
私がおかしな動きをすれば、私に向かってくるはずだと思った。その通りだった。
「なっ!? ……えっ、あいねさん!? なにをしてるんです!」
時雨さんが慌ててランド・ハーピーの後を追ってくる。
時雨さんは、ちゃんと自分の出せるスピードを計算して、ランド・ハーピーが私たちを襲おうとしても追いつけるくらいの距離と位置取りをしてくれてた。
でも、私からもランド・ハーピーに向かっていけば、時雨さんよりも先に私のほうがランド・ハーピーにぶつかる。
それを、ランド・ハーピーも分かってる。
私も分かってる。
ごめんなさい、時雨さん。
私は、慣れない飛行能力で、なんとか全速力を出した。思いっきり走るのと、あんまり変わらないくらいのスピードにはなってくれた。
私とランド・ハーピーの距離がぐんぐん縮まっていく。
このまま、あの羽毛に覆われた胸元に、頭からぶつかるんだ。
「ははははは! けなげだな、しもべを助けるために自分を犠牲にするのか!」
鳥そのものみたいな丸い目が、もうすぐ目の前。
「やめなさいあいねさん! 戻れ、ハーピー! 相手はぼくだ! やめろおおおっ!」
私の体当たりが届く寸前。
ランド・ハーピーが足を振り上げて、にやりと笑ったように見えた。
その長い爪が、私の頭に向かって振り下ろされる。
これは、かわせない。
私一人じゃ。
その時、わき腹に、強い衝撃が走った。
「ごふうっ!」
私はうめき声をあげて、真横に吹っ飛ぶ。
そのおかげで、ランド・ハーピーの爪が空振りした。
「なに!? ……また貴様か、化け猫!」
私に激突した――してくれたキエロが、猫の短い指で器用にピースサインを作った。
時雨さんを吹っ飛ばせるくらいだから、私なんて簡単だ。
まだ宙に浮いてる私は、ランド・ハーピーと距離はそんなに離れてない。せいぜい三メートルくらい。
今、さらに攻撃されたら、うまくかわせるとは思えない。
でも。
「あいねさんっ!」
今の一瞬の間に、ランド・ハーピーのすぐ後ろに、時雨さんが到着した。
さすがにこれは無視できなくて、ランド・ハーピーが振り返る。
その瞬間に、私はスマホをかかげてもう一度怪異の名前を呼んだ。
「ダーク・インプ!」
先に使ってたスカイ・イビルの能力が解けて、私は一メートルくらいの高さから、べちっと地面に落ちる。
その代わりに、私たち――私、ランド・ハーピー、キエロ、そして時雨さん――を、光一筋も差さない暗闇が包んだ。
私にはもう、なにも見えない。でも、時雨さんなら。
「時雨さんっ! 太陽、さえぎりましたっ! どうですか!?」
暗闇の向こうから、声が聞こえてくる。
「あいねさん……あなたという人は……」
「思った通りにいきました! 普通に私がランド・ハーピーに近づいても、やられちゃうだけなので、不意打ちで! どうでしょうかっ!?」
「どうって……決まっているではないですか……」
ぎしゃああああ、ってランド・ハーピーが叫ぶのが聞こえた。
全然見えないけど、時雨さんと向き合ってるんじゃないかと思う。
「くはははは、闇で包んだからどうした! これくらいの闇が、見通せんと思ったか!」
「ランド・ハーピー……お前が弱いとは言わないが――」
ランド・ハーピーとは反対に、時雨さんの声は落ち着いてた。それが静かに響く。
「――よもや、闇の中で、夜の王たる吸血鬼に勝てるなんてうぬぼれてはいないだろうな」
「ぬ……いや、そうか、……くそ」
ばさっ、と羽音。
ランド・ハーピーが飛ぼうとしてる? ……逃げようとしてる!?
「目障りな。よかろう、あのうさぎの上にいる人間は、貴様の主人だったな。吸血鬼の主人の小娘とともに、貴様の目の前で始末してや……」
ランド・ハーピーの言葉が途中で止まった。
そして、私も、マリカちゃんも、時雨さんまで、目を丸くして、ランド・ハーピーの足元を見てた。
いつの間にか、シュンくんがランド・ハーピーの隣まで来て、その羽毛だらけの足にしがみついてる。
「し、シュン……くん?」
「あいね……」
「そうだよ、私が分かる?」
「分かる……おれ、ずっとこいつに……アイドルとしてもっと成長して、人気が出るようにって……それがおれの弱みで、逆らえなくて……」
「そ、そんなの弱みじゃないよ! つけこむほうが悪いんだよ! シュンくんそこ離れて、危ないから!」
「こいつに、あいねを傷つけさせたりしない……おれがアイドルになろうと思ったのは、あいねのためなんだから……」
え?
シュンくんは、まだ完全に正気じゃないのか、どこかぼうっとした様子でしゃべってる。
「昔、あいねがクラスで嫌がらせされてた時、おれ、役に立てなくて……」
「そんなことないよ!? シュンくんとメイだけはずっと私と仲良くしてくれて、シュンくんはクラスの子にも注意してくれたって、メイから聞いたよ!」
それを知った時に、どんなにうれしかったか。
私は一人じゃないんだって、確かに感じられたんだから。
「でも、完全に嫌がらせをなくすことはできなかった……あの時に思ったんだ、おれ、世の中に人を傷つけるやつがどうしても出てくるんなら、おれは傷つけられた人たちを元気づけられる人間になろうって……それでアイドルを目指したんだよ……」
そんなの、全然知らなかった。
幼馴染として、仲のいいクラスメイトとして、シュンくんはじゅうぶん私を励ましてくれたのに。
「なのに、そのせいで……あいねをこんな、危険な目に合わせて……。せめて、こいつがあいねを傷つけることだけは、絶対……」
「はっはあ。絶対、なにかな!?」
とうとう、ランド・ハーピーが足を振り上げた。
「シュンくん!」
でも、すんでのところで時雨さんがシュンくんを捕まえて、ガルちゃんのところまでひとっ飛びで連れてきてくれた。
ついでに、キエロも合流して、ぴょんとマリカちゃんの足の横に座る。
「ぼくとやつの戦いは、少々長引きそうです。さっきみたいなことをさせないよう、ガルに乗ってもっと離れていてください」
シュンくんはぐったりしちゃってて、時雨さんがガルちゃんの上に横たわらせる。
「シュン殿はむりやりランド・ハーピーの支配を断ち切ったようなので、その反動がきているのしょう。休ませてあげてください。……しかし、思ったより難敵ですね」
「やっぱり、強いんですか?」
雷を撃ち込もうにも、今の状況ではタイミングも威力も心もとないですね、って時雨さんが苦笑する。
「爪の攻撃力や翼の機動力も厄介ですが、やつには気配察知の能力があって、ぼくの攻め気を読まれてしまい、なかなかこちらの攻撃が当たりません。不意打ちのような形でならばチャンスがあるかもしれませんが、正面切っての戦いは、今のぼくでは少々分が悪いですね」
「不意打ち……」
うつむく私の肩を、時雨さんがぽんと軽くたたいて撫でた。
「あいねさんは心配しないでください。ぼくがなんとかしますから」
「で、でもっ。そうだ、前みたいに、私を半吸血鬼にしてくれれば!」
「こんな昼日中に太陽の真下で吸血鬼化しても、いいことはありません。それにあれは、あいねさんのためにならなかったかもしれないと、ぼく自身反省しています」
「うう……でも、時雨さんが全力で戦えないのって、私のせいですよね!? 私が主人じゃなければ、時雨さんは疲れてなんかない状態で戦えたし、ううん、そもそもこんな戦いしなくて済んだんですからっ」
すると時雨さんは、今度は肩じゃなくて私の頭をさらさらと撫でてくれた。
「し、時雨さん?」
「どうやら、この丸くてかわいらしい頭の中で、いろんなことを考えてくださったようですね。なら、忘れないでください。あなたはぼくに、守るべき人のために戦うことの喜びを教えてくれたのだということも」
私は、頭に置かれた時雨さんの手を握った。
「時雨さん、私に、なにかできることないんですか……?」
「もうじゅうぶんしてくれていますよ。それに、勝ち目がないわけでもありません。たとえば、このまま、夜まで粘るとかね」
そうは言うけど、太陽は少しは傾いてるものの、まだまだ空高く輝いてる。
時雨さんなりに、私を安心させたくて、なんとかひねり出した言葉なんだろう。それが、無力な私には切ない。
なにか。本当に、今の私にできることはないの?
「時雨さん、……夜なら、勝てるんですか?」
「まず間違いなく。夜でなくても、せめて太陽が陰ってくれれば、ずいぶん違うんですけどね。……さて、ないものねだりはこのくらいにして」
時雨さんが、ランド・ハーピーのほうを向く。
「心ゆくまで戦おうか、ハーピー。多少優位にあるからといって、思い上がるなよ。吸血鬼の底力を知るがいい」
時雨さんの体がふわっと浮いて、ガルちゃんから離れ、怪異に向かっていく。
私たちを乗せたガルちゃんも、今までよりもさらに時雨さんたちから離れる。
そして、また二人の怪異は戦い始めた。
でも、爪の一撃を防ぐたびに、時雨さんの体はよろめいて、傷が増えていく。
屋上の床に、時雨さんの血のしずくが落ちた。
やっぱり、夜までなんて待てるわけない。
「……マリカちゃん」
「ん?」
「お願いがあるの」
私は、マリカちゃんに耳打ちした。
マリカちゃんは口をあんぐり開けて、
「……本気?」
って言ってきた。
私は深くうなずく。
「あんた、あの吸血鬼の主人なんでしょ? それが、自分の身を危険にさらそうっていうの? 吸血鬼は、そうさせないために、さっきより距離取らせたんでしょうに」
「危険なんて。……時雨さんのほうが、ずっと危険だもん」
「いや、だからそれは吸血鬼があんたを守る立場だから……。うん、いや、いいや。やりたいんだよね?」
「うん。私にできることをしたい」
「分かった」
マリカちゃんがキエロを抱き寄せた。その耳に小声でなにか言ってる。
ありがとう、マリカちゃん。
私は、ガルちゃんの上で大きく深呼吸した。
大丈夫。
きっとうまくいく。
スマホをポケットから取り出して、空にかかげて。
「スカイ・イビル」
その名前を唱えると、スマホの画面にスカイ・イビルの姿が現れて、私の体が宙に浮く。
「わっ。ひえ、わっ、と」
時雨さんが言ってた通り、少し練習したくらいじゃ、空を飛ぶって難しい。
転ばないように(空中なんだけど)姿勢を保つのも一苦労だったけど、なんとか、少しずつ前に進んだ。
そして、ランド・ハーピーに向けて、思いっきり体当たりをしてやるつもりで強い視線を送る。
時雨さんと激しく戦ってるランド・ハーピーが、ぴくんと体を震わせるのが、時雨さんの肩越しに見えた。
「なんだ……人間め、妙な動きを……」
よしっ。
ランド・ハーピーは気配を察知して、攻め気を読むって言ってたもんね。
私がなにかしようとしてるのに気づいたはず。
「ひ弱な小娘が! なにをしておるか!」
ランド・ハーピーが、時雨さんの横を素早く通り過ぎた。
だって、私のほうが、絶対に時雨さんよりやっつけやすいから。
私がおかしな動きをすれば、私に向かってくるはずだと思った。その通りだった。
「なっ!? ……えっ、あいねさん!? なにをしてるんです!」
時雨さんが慌ててランド・ハーピーの後を追ってくる。
時雨さんは、ちゃんと自分の出せるスピードを計算して、ランド・ハーピーが私たちを襲おうとしても追いつけるくらいの距離と位置取りをしてくれてた。
でも、私からもランド・ハーピーに向かっていけば、時雨さんよりも先に私のほうがランド・ハーピーにぶつかる。
それを、ランド・ハーピーも分かってる。
私も分かってる。
ごめんなさい、時雨さん。
私は、慣れない飛行能力で、なんとか全速力を出した。思いっきり走るのと、あんまり変わらないくらいのスピードにはなってくれた。
私とランド・ハーピーの距離がぐんぐん縮まっていく。
このまま、あの羽毛に覆われた胸元に、頭からぶつかるんだ。
「ははははは! けなげだな、しもべを助けるために自分を犠牲にするのか!」
鳥そのものみたいな丸い目が、もうすぐ目の前。
「やめなさいあいねさん! 戻れ、ハーピー! 相手はぼくだ! やめろおおおっ!」
私の体当たりが届く寸前。
ランド・ハーピーが足を振り上げて、にやりと笑ったように見えた。
その長い爪が、私の頭に向かって振り下ろされる。
これは、かわせない。
私一人じゃ。
その時、わき腹に、強い衝撃が走った。
「ごふうっ!」
私はうめき声をあげて、真横に吹っ飛ぶ。
そのおかげで、ランド・ハーピーの爪が空振りした。
「なに!? ……また貴様か、化け猫!」
私に激突した――してくれたキエロが、猫の短い指で器用にピースサインを作った。
時雨さんを吹っ飛ばせるくらいだから、私なんて簡単だ。
まだ宙に浮いてる私は、ランド・ハーピーと距離はそんなに離れてない。せいぜい三メートルくらい。
今、さらに攻撃されたら、うまくかわせるとは思えない。
でも。
「あいねさんっ!」
今の一瞬の間に、ランド・ハーピーのすぐ後ろに、時雨さんが到着した。
さすがにこれは無視できなくて、ランド・ハーピーが振り返る。
その瞬間に、私はスマホをかかげてもう一度怪異の名前を呼んだ。
「ダーク・インプ!」
先に使ってたスカイ・イビルの能力が解けて、私は一メートルくらいの高さから、べちっと地面に落ちる。
その代わりに、私たち――私、ランド・ハーピー、キエロ、そして時雨さん――を、光一筋も差さない暗闇が包んだ。
私にはもう、なにも見えない。でも、時雨さんなら。
「時雨さんっ! 太陽、さえぎりましたっ! どうですか!?」
暗闇の向こうから、声が聞こえてくる。
「あいねさん……あなたという人は……」
「思った通りにいきました! 普通に私がランド・ハーピーに近づいても、やられちゃうだけなので、不意打ちで! どうでしょうかっ!?」
「どうって……決まっているではないですか……」
ぎしゃああああ、ってランド・ハーピーが叫ぶのが聞こえた。
全然見えないけど、時雨さんと向き合ってるんじゃないかと思う。
「くはははは、闇で包んだからどうした! これくらいの闇が、見通せんと思ったか!」
「ランド・ハーピー……お前が弱いとは言わないが――」
ランド・ハーピーとは反対に、時雨さんの声は落ち着いてた。それが静かに響く。
「――よもや、闇の中で、夜の王たる吸血鬼に勝てるなんてうぬぼれてはいないだろうな」
「ぬ……いや、そうか、……くそ」
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