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<第一章 子作り契約はしたたかに>
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「ユーフィニア様、鏡をご覧にならないのなら返していただき――」
「す、すみませんっ! 今見ます!」
意を決して、私はくわっと鏡を覗き込んだ。
すると、そこに映っていた顔は。
「……えっと」
「ユーフィニア様?」
「……んん……?」
「いかがなさいました?」
「……これ……誰?」
鏡の中にあったのは、見覚えのない女性の顔。
年のころは、私より年下で、二十代前半くらい。
やっぱり、私の元の姿とは全然違う。シルバーブロンドのロングヘア、アイスブルーの瞳、雪のように真っ白な肌。
とんでもない美人だった。
そういえば少し視界が高いと思ったら、私の身長は百六十センチもなかったのに、今はヒールのせいもあってか、たぶん百七十センチ近い。
それはいいんだけど、顔にまったく見覚えがない。
サブキャラにも思い当たる人はいないので、……オリジナルキャラとして転生したんだろうか。
それか、キャライラストも用意されていないようなサブ中のサブキャラとか、かな?
「だとしたら、キャラとしての自由度は高いのかもだけど……でもそれにしてはあまりにも美人過ぎるような……。って、あれ? マティルダさんてもしかして、さっきのお話からすると、私つきのメイドさんだったりします?」
マティルダさんはため息をついた。
「不幸ながら、そうですね。鏡、もうよろしいですか?」
「あ、はい。ありがとうございました」
手鏡を返しつつ。
ということはこの私は結構高い身分にあるっぽいな、と考える。
もしこの先もこの世界で生きていくのなら、ちゃんと今の自分の境遇を把握しておかないといけない。
マティルダさんにもう少し私のことを訊こうと思ったところで、足首にさらりとした感触のなにかが触れた。
「ひゃっ!? なに!? ……あ、猫?」
そこにいたのは、つややかな毛並みの黒猫だった。
ハイグラは、よく猫が登場する。猫好きのプレイヤーは、よくレアな猫を飼い猫としてコレクションしていた。黒猫は人気があって、私も飼ってたなあ。
なつかしさとかわいらしさに、私はついしゃがみこんで黒猫の頭をなでてしまう。
その拍子に、黒猫はぴょんと伸び上がって、私のシルバーの髪にがぎっと爪を立ててきた。
「あ、痛っ」
黒ねこはそのまま、髪で爪を研ぐように、ばりばりと両前足で私の髪を引っかき出す。
すると、だん、と音が聞こえた。マティルダさんが私に向かって踏み込んできた音だった。
「ユ、ユーフィニア様! 短気をお起こしにならないよう! 猫にも人と同じく命があり、それは尊いものだと思われませんか! 少しばかり気に入らないからといって、草を摘むがごとく猫の命を散らすようなことをなさるのは、どうかお思いとどまりを!」
「そ、そんな血相変えて詰め寄らなくても、これくらいでなんとも思わないですよ!? でも、ちゃんと爪を研がせてあげたいな。……あれ、よく見ると左の後ろ足を引きずってるみたい。……マティルダさん、私の家って、たぶんそれなりに大きいですよね?」
メイドを雇っているくらいなんだから、比較的余裕のある暮らしをしているだろう。
「は? はあ、大きいもなにも……それなり、といえばそれなりでしょう。比べる対象にもよりますが」
「なら、この子連れて帰って、お医者さんに見せてあげられないかな」
私は、なんとか猫を髪から引き剝がして、腕の中に抱いた。
ハイグラの世界では獣医のキャラは見たことがないけど、いてくれるといいな。
「ユーフィニア様……? なにか、悪いものでもお召し上がりになられたのですか? ユーフィニア様が、弱い者を救済するかのようなことをおっしゃるなんて」
……なんとなく、この体の持ち主がどういう人間性なのか、察せられてしまうけど。
でも、今は私の体だもんね。
「とにかく、この子を介抱します。さあ、獣医さんのところへ案内をお願いします、マティルダさん」
「は、はあ……。では、門を開けてもらって中へ入りましょう」
「え? 門? 中? どこのですか?」
「そこの門ですとも」マティルダさんは、目の前の城門を指さした。「城つきの獣医様がおられますから」
うわ、お城つき。それは名医っぽくていいな。近くなのも助かった。
あ、でも。
「お城のお医者さんが、野良猫なんて診てくれるかな。私が飼ってることにすればなんとかなるかな? 私ってそれくらいの地位あります?」
「……あなた様がお命じになれば、野良だろうが家畜だろうが、診療しない医師はこの国にいないでしょうね」
「え、そうなんですか? 凄い」
いよいよもって、私の素性を具体的に聞いておかないと、行動にかなり支障が出そうな気がしてきた。
もうこうなったら、どんなにいぶかしまれても、はっきり聞き出してしまおう。
「マティルダさん、あなたの言ったとおりです。私、記憶喪失なんです。だから名前だけじゃなくて、私のことをもっといろいろ教えてください。私は何者で、どういう立場の――」
ぶうん!
その時、いきなり、異様な音が耳に響いた。
「――えっ、な、なに!? こ、この音ってまさか」
土地は見慣れなくても、この音は分かる。蜂だ。
しかも、かちかちという小さな音まで聞こえる。これって、スズメバチが顎を鳴らしてるんじゃなかったっけ?
マティルダさんも、音の発信源を探してきょろきょろしている。
「わ、わっ!? どうしようっ」
「ユーフィニア様、蜂です。御身をかがめてください。近いですが、どこに……」
すると今度は、ぱしっ! という音が聞こえた。続いて、なにか固いものが地面に落ちる音。
「そこでなにをしているんだ?」
乾いた低い声が、少し離れたところから、凛として響いてきた。
私とマティルダさんがそちらを見ると、黒い馬にまたがった、均整の取れた体つきの男の人が近づいてくるところだった。
……あ。
あ、ああ。
少し長めの黒い髪。黒いマントに、腰には黒い剣の鞘、黒い軍服――肌は白くて、しかも王子様だっていうのに、黒曜将軍とか、辺境の黒豹なんて呼ばれていて。
そして黒ずくめの中、遠目でもわかる、意志の強そうな金色に輝く瞳。
ハイグラの中で、この風貌の人は一人しかいない。
「リ……リル……! 本物!? 本物の、リルだ……!」
「す、すみませんっ! 今見ます!」
意を決して、私はくわっと鏡を覗き込んだ。
すると、そこに映っていた顔は。
「……えっと」
「ユーフィニア様?」
「……んん……?」
「いかがなさいました?」
「……これ……誰?」
鏡の中にあったのは、見覚えのない女性の顔。
年のころは、私より年下で、二十代前半くらい。
やっぱり、私の元の姿とは全然違う。シルバーブロンドのロングヘア、アイスブルーの瞳、雪のように真っ白な肌。
とんでもない美人だった。
そういえば少し視界が高いと思ったら、私の身長は百六十センチもなかったのに、今はヒールのせいもあってか、たぶん百七十センチ近い。
それはいいんだけど、顔にまったく見覚えがない。
サブキャラにも思い当たる人はいないので、……オリジナルキャラとして転生したんだろうか。
それか、キャライラストも用意されていないようなサブ中のサブキャラとか、かな?
「だとしたら、キャラとしての自由度は高いのかもだけど……でもそれにしてはあまりにも美人過ぎるような……。って、あれ? マティルダさんてもしかして、さっきのお話からすると、私つきのメイドさんだったりします?」
マティルダさんはため息をついた。
「不幸ながら、そうですね。鏡、もうよろしいですか?」
「あ、はい。ありがとうございました」
手鏡を返しつつ。
ということはこの私は結構高い身分にあるっぽいな、と考える。
もしこの先もこの世界で生きていくのなら、ちゃんと今の自分の境遇を把握しておかないといけない。
マティルダさんにもう少し私のことを訊こうと思ったところで、足首にさらりとした感触のなにかが触れた。
「ひゃっ!? なに!? ……あ、猫?」
そこにいたのは、つややかな毛並みの黒猫だった。
ハイグラは、よく猫が登場する。猫好きのプレイヤーは、よくレアな猫を飼い猫としてコレクションしていた。黒猫は人気があって、私も飼ってたなあ。
なつかしさとかわいらしさに、私はついしゃがみこんで黒猫の頭をなでてしまう。
その拍子に、黒猫はぴょんと伸び上がって、私のシルバーの髪にがぎっと爪を立ててきた。
「あ、痛っ」
黒ねこはそのまま、髪で爪を研ぐように、ばりばりと両前足で私の髪を引っかき出す。
すると、だん、と音が聞こえた。マティルダさんが私に向かって踏み込んできた音だった。
「ユ、ユーフィニア様! 短気をお起こしにならないよう! 猫にも人と同じく命があり、それは尊いものだと思われませんか! 少しばかり気に入らないからといって、草を摘むがごとく猫の命を散らすようなことをなさるのは、どうかお思いとどまりを!」
「そ、そんな血相変えて詰め寄らなくても、これくらいでなんとも思わないですよ!? でも、ちゃんと爪を研がせてあげたいな。……あれ、よく見ると左の後ろ足を引きずってるみたい。……マティルダさん、私の家って、たぶんそれなりに大きいですよね?」
メイドを雇っているくらいなんだから、比較的余裕のある暮らしをしているだろう。
「は? はあ、大きいもなにも……それなり、といえばそれなりでしょう。比べる対象にもよりますが」
「なら、この子連れて帰って、お医者さんに見せてあげられないかな」
私は、なんとか猫を髪から引き剝がして、腕の中に抱いた。
ハイグラの世界では獣医のキャラは見たことがないけど、いてくれるといいな。
「ユーフィニア様……? なにか、悪いものでもお召し上がりになられたのですか? ユーフィニア様が、弱い者を救済するかのようなことをおっしゃるなんて」
……なんとなく、この体の持ち主がどういう人間性なのか、察せられてしまうけど。
でも、今は私の体だもんね。
「とにかく、この子を介抱します。さあ、獣医さんのところへ案内をお願いします、マティルダさん」
「は、はあ……。では、門を開けてもらって中へ入りましょう」
「え? 門? 中? どこのですか?」
「そこの門ですとも」マティルダさんは、目の前の城門を指さした。「城つきの獣医様がおられますから」
うわ、お城つき。それは名医っぽくていいな。近くなのも助かった。
あ、でも。
「お城のお医者さんが、野良猫なんて診てくれるかな。私が飼ってることにすればなんとかなるかな? 私ってそれくらいの地位あります?」
「……あなた様がお命じになれば、野良だろうが家畜だろうが、診療しない医師はこの国にいないでしょうね」
「え、そうなんですか? 凄い」
いよいよもって、私の素性を具体的に聞いておかないと、行動にかなり支障が出そうな気がしてきた。
もうこうなったら、どんなにいぶかしまれても、はっきり聞き出してしまおう。
「マティルダさん、あなたの言ったとおりです。私、記憶喪失なんです。だから名前だけじゃなくて、私のことをもっといろいろ教えてください。私は何者で、どういう立場の――」
ぶうん!
その時、いきなり、異様な音が耳に響いた。
「――えっ、な、なに!? こ、この音ってまさか」
土地は見慣れなくても、この音は分かる。蜂だ。
しかも、かちかちという小さな音まで聞こえる。これって、スズメバチが顎を鳴らしてるんじゃなかったっけ?
マティルダさんも、音の発信源を探してきょろきょろしている。
「わ、わっ!? どうしようっ」
「ユーフィニア様、蜂です。御身をかがめてください。近いですが、どこに……」
すると今度は、ぱしっ! という音が聞こえた。続いて、なにか固いものが地面に落ちる音。
「そこでなにをしているんだ?」
乾いた低い声が、少し離れたところから、凛として響いてきた。
私とマティルダさんがそちらを見ると、黒い馬にまたがった、均整の取れた体つきの男の人が近づいてくるところだった。
……あ。
あ、ああ。
少し長めの黒い髪。黒いマントに、腰には黒い剣の鞘、黒い軍服――肌は白くて、しかも王子様だっていうのに、黒曜将軍とか、辺境の黒豹なんて呼ばれていて。
そして黒ずくめの中、遠目でもわかる、意志の強そうな金色に輝く瞳。
ハイグラの中で、この風貌の人は一人しかいない。
「リ……リル……! 本物!? 本物の、リルだ……!」
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