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一章
出会い
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「翼君、今日は高校の入学式だけど、大丈夫?」
目の前の若い女性が朝食を運び、心配するような声をかける。
この女性はかつての、『僕』の心の拠り所であったが、今はただの『俺』の世話係だ。
「うん。準備も全部終わってる。…いただきます。」
俺は朝食を摂り、最低限の会話を済ませて電車に乗り、学校に向かう。
人が多い。制服姿の人間もいる。
俺の通う私立高校の偏差値はそこまで高くない。でも、俺はそこの特待生だ。無償で通うことができる。まあ、人を信じられないとはいえ、世話になり、恩を感じているのも事実だからな。
俺は校門をくぐり、指定された教室に向かう。この学校は学力順でクラスが分けられる。
俺は一年A組。一番上のクラスのようだ。
…その教室に着いた。そこには誰もいなかった。早く来すぎたか?まあ、いいけどね。この方が、静かで。
俺は自分の席に座る。一番前の列の左端の、窓際の席のようだ。
座席も学力順だったよな?ということは俺が一番上なのか?結構間違った問題を多めに書いたはずなんだが…
俺は自分の席に座り、教室の入り口に目を向けた。瞬間、俺は目を見開いた。
そこに、一人の女子生徒がいた。
その者の容姿は美しく、その所作も見事なものだった。
だが問題はそこではない。
俺が驚いたのは…
俺の右目に何も映らないという事。
…あ、いや、普通の景色は見えている。だが、『色』が目に映らない。
彼女の感情が右目で見えない。
彼女と目が合う。…やはりだ。彼女が俺を見てどう思っているのかが分からない。
俺は『僕』の体を見る。焦り、困惑、不安、そして…期待。
『僕』の感情は見える。目がおかしくなったとかではなさそうだ。まさか、感情の無い人間なんて、いるのか?
俺は彼女を見つめる。彼女は顔を赤くして目を逸らし、そそくさと俺の隣の席に座る。
両者の間に沈黙が流れる。それでも俺は彼女を見つめ続ける。
…さっきは、恥じらった?感情が無い訳でもなく、感情が動いたのに、俺の目で見ることができなかった。どういうことだ?
「あ、あの!」
彼女が俺に上ずった声で呼びかける。
「ん?」
「え、あ、いえ、その…オッドアイなんですね。」
彼女はそう言った。どういうつもりで俺に声をかけたんだ?感情が見えないと全く分からない。
「ん?ああ、そうだよ。昔、ちょっとね…」
俺はそう言った。余計なことを言ってしまったか?だめだ。感情が分からないだけで俺はこんなにも話下手になってしまうのか。
ああ、そうそう。右目が感情を映すようになってから、俺の両目は黒に近い程の、濃い茶色だったが、右目だけ透けるような薄い茶色になっていた。医者は精神的なものと言っていたが、俺はこの目が普通でないことを知っている。おそらくそのせいではないか?
「あ、その、ごめんなさい。」
彼女は申し訳なさそうに俺に謝る。
「気にしなくていいよ。…それより、俺は『新城 翼』。君は?」
俺は話を逸らす。
「わ、私は、『九重 咲良』と言います。よろしくお願いします。」
彼女、九重さんは少し気まずそうに頭を下げた。何を思っているのか、さっぱりだ。顔が真っ赤だが、体調が悪いのか?気まずそうではなく、辛いのではないか?
…まあ、それは九重さんの自己責任だ。俺がとやかく言わない方が良いだろう。
「ああ、よろしく。」
俺は手を差し出す。
「え?あ、えと、はい。」
九重さんは、恐る恐ると手を差し出す。友情の握手だ。
「ふふっ、新城君って、変わっていますね。」
九重さんが笑う。…だめだ。それが本音なのか皮肉なのか全くわからん!
「そう、かな…」
施設で友達を作るときは握手から、と習ったんだが…やはり、施設の価値観と外のそれの間にはかなりの齟齬があるらしい。
その時、扉が開く。
「おっ?お前たち早いな。まだ三十分前だぞ?」
このクラスの担任だろうか、教師らしき人が入ってきた。
「おはようございます。…えっと、気が急いて、早く来すぎてしまいました。」
九重さんが挨拶をする。
「ああ、おはよう。えっと…九重、だよな?私は『杉山 透』。このクラスの担任だ。一年間、よろしくな。」
杉山先生はそう言った。
「おはようございます。俺は『新城 翼』と言います。」
「ああ、君があの…君の事は知っているが、特別扱いはしないよ?」
杉山先生はそういった。やはり俺が施設育ちだという事を知っているか。
…へえ、それでも嫌悪感などは見えないな。ほんの少し、俺の事を心配してくれているのが分かる。良い先生なのだろう。
「はい。よろしくお願いします。」
俺は頭を下げる。
「?」
九重さんはよくわからないようだ。…たぶん。首を傾げているからそうなのではないか?
やはり、感情が見えないのは、不便だなぁ。
…でも、もしかしたら、なんて考えてしまうんだ。
この目は見え過ぎてしまう。見たくないものも、知りたくなかったことも、分かってしまう。だが、彼女のそれを俺は見ることができない。
だから、もしかしたら…知らずに、いられるかもしれない。普通の、人間関係が築けるかもしれない。『僕』を、この孤独感から、助けてくれるのではないか。
高望みが過ぎるかな?
…まあ、いいよね?ずっと苦しんできたんだ。
少しくらい、期待しても。
目の前の若い女性が朝食を運び、心配するような声をかける。
この女性はかつての、『僕』の心の拠り所であったが、今はただの『俺』の世話係だ。
「うん。準備も全部終わってる。…いただきます。」
俺は朝食を摂り、最低限の会話を済ませて電車に乗り、学校に向かう。
人が多い。制服姿の人間もいる。
俺の通う私立高校の偏差値はそこまで高くない。でも、俺はそこの特待生だ。無償で通うことができる。まあ、人を信じられないとはいえ、世話になり、恩を感じているのも事実だからな。
俺は校門をくぐり、指定された教室に向かう。この学校は学力順でクラスが分けられる。
俺は一年A組。一番上のクラスのようだ。
…その教室に着いた。そこには誰もいなかった。早く来すぎたか?まあ、いいけどね。この方が、静かで。
俺は自分の席に座る。一番前の列の左端の、窓際の席のようだ。
座席も学力順だったよな?ということは俺が一番上なのか?結構間違った問題を多めに書いたはずなんだが…
俺は自分の席に座り、教室の入り口に目を向けた。瞬間、俺は目を見開いた。
そこに、一人の女子生徒がいた。
その者の容姿は美しく、その所作も見事なものだった。
だが問題はそこではない。
俺が驚いたのは…
俺の右目に何も映らないという事。
…あ、いや、普通の景色は見えている。だが、『色』が目に映らない。
彼女の感情が右目で見えない。
彼女と目が合う。…やはりだ。彼女が俺を見てどう思っているのかが分からない。
俺は『僕』の体を見る。焦り、困惑、不安、そして…期待。
『僕』の感情は見える。目がおかしくなったとかではなさそうだ。まさか、感情の無い人間なんて、いるのか?
俺は彼女を見つめる。彼女は顔を赤くして目を逸らし、そそくさと俺の隣の席に座る。
両者の間に沈黙が流れる。それでも俺は彼女を見つめ続ける。
…さっきは、恥じらった?感情が無い訳でもなく、感情が動いたのに、俺の目で見ることができなかった。どういうことだ?
「あ、あの!」
彼女が俺に上ずった声で呼びかける。
「ん?」
「え、あ、いえ、その…オッドアイなんですね。」
彼女はそう言った。どういうつもりで俺に声をかけたんだ?感情が見えないと全く分からない。
「ん?ああ、そうだよ。昔、ちょっとね…」
俺はそう言った。余計なことを言ってしまったか?だめだ。感情が分からないだけで俺はこんなにも話下手になってしまうのか。
ああ、そうそう。右目が感情を映すようになってから、俺の両目は黒に近い程の、濃い茶色だったが、右目だけ透けるような薄い茶色になっていた。医者は精神的なものと言っていたが、俺はこの目が普通でないことを知っている。おそらくそのせいではないか?
「あ、その、ごめんなさい。」
彼女は申し訳なさそうに俺に謝る。
「気にしなくていいよ。…それより、俺は『新城 翼』。君は?」
俺は話を逸らす。
「わ、私は、『九重 咲良』と言います。よろしくお願いします。」
彼女、九重さんは少し気まずそうに頭を下げた。何を思っているのか、さっぱりだ。顔が真っ赤だが、体調が悪いのか?気まずそうではなく、辛いのではないか?
…まあ、それは九重さんの自己責任だ。俺がとやかく言わない方が良いだろう。
「ああ、よろしく。」
俺は手を差し出す。
「え?あ、えと、はい。」
九重さんは、恐る恐ると手を差し出す。友情の握手だ。
「ふふっ、新城君って、変わっていますね。」
九重さんが笑う。…だめだ。それが本音なのか皮肉なのか全くわからん!
「そう、かな…」
施設で友達を作るときは握手から、と習ったんだが…やはり、施設の価値観と外のそれの間にはかなりの齟齬があるらしい。
その時、扉が開く。
「おっ?お前たち早いな。まだ三十分前だぞ?」
このクラスの担任だろうか、教師らしき人が入ってきた。
「おはようございます。…えっと、気が急いて、早く来すぎてしまいました。」
九重さんが挨拶をする。
「ああ、おはよう。えっと…九重、だよな?私は『杉山 透』。このクラスの担任だ。一年間、よろしくな。」
杉山先生はそう言った。
「おはようございます。俺は『新城 翼』と言います。」
「ああ、君があの…君の事は知っているが、特別扱いはしないよ?」
杉山先生はそういった。やはり俺が施設育ちだという事を知っているか。
…へえ、それでも嫌悪感などは見えないな。ほんの少し、俺の事を心配してくれているのが分かる。良い先生なのだろう。
「はい。よろしくお願いします。」
俺は頭を下げる。
「?」
九重さんはよくわからないようだ。…たぶん。首を傾げているからそうなのではないか?
やはり、感情が見えないのは、不便だなぁ。
…でも、もしかしたら、なんて考えてしまうんだ。
この目は見え過ぎてしまう。見たくないものも、知りたくなかったことも、分かってしまう。だが、彼女のそれを俺は見ることができない。
だから、もしかしたら…知らずに、いられるかもしれない。普通の、人間関係が築けるかもしれない。『僕』を、この孤独感から、助けてくれるのではないか。
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