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カツカツカツカツ───と自身のヒールの音だけが響いている。
さっきまでいた会場にどうしても戻れない。衣装のままなので、スマホを持っていないから友人に連絡もできない。
歩けども歩けども人に会わず、自分が今どこにいるのかもわからない。こんなに広い会場ではなかったと思うのだが。
(ううう、これはもしや迷子……いやいやいやこの年になって迷子とか恥ずかしすぎる……!)
なんとしても出入口を見つけなければ……!と焦っていたとき、通路の奥からざわめきが聞こえてきた。会場に戻ってきたのかもしれないと思い、中を確かめずに一目散に飛び込む。
「う、わぁあ……」
踏み入れた会場はさっきまでと一変していた。広く開放的な会場だったのが、天井からのシャンデリアの輝きで目が眩むしっとりとした空間になっていたのだ。
なにより全員が本格的なコスプレ衣装を纏っていることに目がいく。友人がやっていたゲームで見かけたようなキャラクターに扮した人々がドレスや燕尾服に身を包んで談笑していた。
なんか中世貴族の夜会っぽい雰囲気……!
どこか違和感を感じるのは、一般の参加者たちやカメラを持っていた人が一人も見えないからだろうか。
(もしかして同じ会場内でやってたゲームイベントに来ちゃったとか。ああいうのって招待券とか要るんじゃなかったっけ)
ううう、でもちょっとテンション上がる!
逸る気持ちのまま足を踏み出す。もしかしたら、元いた会場の場所を知っている人がいるかもしれないし……!
「レディ、お飲み物はいかがですか?……レディ?」
「あ、ああ、ごめんなさい。遠慮します」
「かしこまりました」と一礼して燕尾服を着た男性は、今度は壁際でおしゃべりしている猫耳と尻尾をつけた女性たちに声をかけに行った。
驚いた。ついつい顔に見とれてしまって反応が遅くなってしまった。頭の角や尖った耳、口から覗く八重歯と真っ青な肌色のメイクがすごくて声が出なかった。ここはこんなにレベルが高い人ばかりなのだろうか。
ざっと見てみるだけでも、バラエティー豊かな人たちでいっぱいだ。私と同じように蝙蝠の翼をつけた男性や大きな鳥の翼をつけた男性、胸元や背中をざっくりと開けたドレスを着こなす額に丸い水晶をはめたようなメイクの女性など、まるでゲームに出てくるキャラクターたちがドレスアップしたような雰囲気だ。
なるほど。上級者ともなると、好きなキャラクターに合った衣装を自分で考えて着せるのかも。
今後の参考にしようと周囲を観察していたら声をかけられた。
「失礼します、レディ。先程から辺りを見渡しているようですが、どうかなさいましたか?」
今度は中世貴族の衣装のようなきらびやかな服装の男性だ。ついついよく見ようときょろきょろしていたので、目立ってしまったらしい。
男性は衣装と同じような華やかな容姿だった。さらさらの金髪が綺麗だけど、地毛なんだろうか。もしかしたら外国の方かもしれない。
「すみません、友人とはぐれてしまいまして」
当たり障りないよう答える。すると男性はなるほど、と得心したように頷いた。
「では、一度外に出てみませんか?風に当たれば気も晴れるやもしれません」
「!いいですね、ぜひ」
外に出れば今どこにいるのかもわかるかもしれない。そう思い、思わずふにゃり、と顔が緩む。男性は一瞬はっと目を見開き、青白い顔色のメイクの顔に赤味が差したように見えた。「で、では行きましょうか」と男性は少し急かすように、私の腰に手を添えて分厚いカーテンの方へ歩き出した。
何重にも重なったカーテンを避けながら進む。カーテンの波を抜け外に出ると、そこには───
「え!?」
「嘘でしょう……?」と思わず呟きが漏れる。
「レディ、どうかしましたか?」と男性が驚いて声をかけてくるが、あいにくとそれに答えられるほど余裕がない。
───会場の外に出てみると夜でした。
( え!?いやいや待って待って。さっきまで私、外で太陽の陽に焼かれながら写真撮られてたんだけど!さまよってるうちに夜になってましたって?……そんな馬鹿な!!)
ぐるぐると混乱する頭で必死に現状を理解しようとするができるわけがない。今立っている場所はどう見たって見慣れたコンクリートジャングルなんかじゃない。
ゆるく風が吹き、さわさわと周りの植物が揺れているのが、月明かりに見えた。
「あ、の、つかぬことをお聞きしますがここはどこなんでしょう?」
「?……ここ一帯を治めているアハト様の城ですが」
「あなたも今宵の夜会に招待されたのでは?」と聞き返されてしまい焦る。アハト様なんて知らないし分からない。
「そう、でしたね。すみません。少し混乱してしまって」
「いいえ?そんなあなたも大変お可愛らしい」
「え?」
今のはもしかして口説かれた、のだろうか。
「よろしければ、互いに軽く食事にしませんか?」
「食事、ですか?」
「ええ。ここまで付いてきてくださったのです。あなたのお眼鏡に私はかなったということでよろしいですよね?」
そう言いながら、男性はゆっくりと私の方に体を寄せてきた。男性の両目が妖しく輝いている。
食事という単語が自分の中でぐるぐる回って、ハッとした。
そうだ、自分は今サキュバスだ!淫魔の食事といえば、いえば……。
「!?!?!?……まっ、待って!!」
慌てて男性の胸を押し返す。それでも男性は止まってくれない。男性の開いた口から鋭い八重歯が見えた。
(……もしかして、牙!?)
首筋に牙をたてられそうになって閃いた。このシチュエーションには覚えがある。彼はまさかファンタジーでよく出てくる吸血鬼なのでは───!
ツプ、と皮膚が裂ける感覚がした。もうだめだ、と目をつぶったときーーー
ガウッッッッ!!!
空気が裂けるような咆哮が轟く。余韻で空気がびりびりと震えた。
さっきまでいた会場にどうしても戻れない。衣装のままなので、スマホを持っていないから友人に連絡もできない。
歩けども歩けども人に会わず、自分が今どこにいるのかもわからない。こんなに広い会場ではなかったと思うのだが。
(ううう、これはもしや迷子……いやいやいやこの年になって迷子とか恥ずかしすぎる……!)
なんとしても出入口を見つけなければ……!と焦っていたとき、通路の奥からざわめきが聞こえてきた。会場に戻ってきたのかもしれないと思い、中を確かめずに一目散に飛び込む。
「う、わぁあ……」
踏み入れた会場はさっきまでと一変していた。広く開放的な会場だったのが、天井からのシャンデリアの輝きで目が眩むしっとりとした空間になっていたのだ。
なにより全員が本格的なコスプレ衣装を纏っていることに目がいく。友人がやっていたゲームで見かけたようなキャラクターに扮した人々がドレスや燕尾服に身を包んで談笑していた。
なんか中世貴族の夜会っぽい雰囲気……!
どこか違和感を感じるのは、一般の参加者たちやカメラを持っていた人が一人も見えないからだろうか。
(もしかして同じ会場内でやってたゲームイベントに来ちゃったとか。ああいうのって招待券とか要るんじゃなかったっけ)
ううう、でもちょっとテンション上がる!
逸る気持ちのまま足を踏み出す。もしかしたら、元いた会場の場所を知っている人がいるかもしれないし……!
「レディ、お飲み物はいかがですか?……レディ?」
「あ、ああ、ごめんなさい。遠慮します」
「かしこまりました」と一礼して燕尾服を着た男性は、今度は壁際でおしゃべりしている猫耳と尻尾をつけた女性たちに声をかけに行った。
驚いた。ついつい顔に見とれてしまって反応が遅くなってしまった。頭の角や尖った耳、口から覗く八重歯と真っ青な肌色のメイクがすごくて声が出なかった。ここはこんなにレベルが高い人ばかりなのだろうか。
ざっと見てみるだけでも、バラエティー豊かな人たちでいっぱいだ。私と同じように蝙蝠の翼をつけた男性や大きな鳥の翼をつけた男性、胸元や背中をざっくりと開けたドレスを着こなす額に丸い水晶をはめたようなメイクの女性など、まるでゲームに出てくるキャラクターたちがドレスアップしたような雰囲気だ。
なるほど。上級者ともなると、好きなキャラクターに合った衣装を自分で考えて着せるのかも。
今後の参考にしようと周囲を観察していたら声をかけられた。
「失礼します、レディ。先程から辺りを見渡しているようですが、どうかなさいましたか?」
今度は中世貴族の衣装のようなきらびやかな服装の男性だ。ついついよく見ようときょろきょろしていたので、目立ってしまったらしい。
男性は衣装と同じような華やかな容姿だった。さらさらの金髪が綺麗だけど、地毛なんだろうか。もしかしたら外国の方かもしれない。
「すみません、友人とはぐれてしまいまして」
当たり障りないよう答える。すると男性はなるほど、と得心したように頷いた。
「では、一度外に出てみませんか?風に当たれば気も晴れるやもしれません」
「!いいですね、ぜひ」
外に出れば今どこにいるのかもわかるかもしれない。そう思い、思わずふにゃり、と顔が緩む。男性は一瞬はっと目を見開き、青白い顔色のメイクの顔に赤味が差したように見えた。「で、では行きましょうか」と男性は少し急かすように、私の腰に手を添えて分厚いカーテンの方へ歩き出した。
何重にも重なったカーテンを避けながら進む。カーテンの波を抜け外に出ると、そこには───
「え!?」
「嘘でしょう……?」と思わず呟きが漏れる。
「レディ、どうかしましたか?」と男性が驚いて声をかけてくるが、あいにくとそれに答えられるほど余裕がない。
───会場の外に出てみると夜でした。
( え!?いやいや待って待って。さっきまで私、外で太陽の陽に焼かれながら写真撮られてたんだけど!さまよってるうちに夜になってましたって?……そんな馬鹿な!!)
ぐるぐると混乱する頭で必死に現状を理解しようとするができるわけがない。今立っている場所はどう見たって見慣れたコンクリートジャングルなんかじゃない。
ゆるく風が吹き、さわさわと周りの植物が揺れているのが、月明かりに見えた。
「あ、の、つかぬことをお聞きしますがここはどこなんでしょう?」
「?……ここ一帯を治めているアハト様の城ですが」
「あなたも今宵の夜会に招待されたのでは?」と聞き返されてしまい焦る。アハト様なんて知らないし分からない。
「そう、でしたね。すみません。少し混乱してしまって」
「いいえ?そんなあなたも大変お可愛らしい」
「え?」
今のはもしかして口説かれた、のだろうか。
「よろしければ、互いに軽く食事にしませんか?」
「食事、ですか?」
「ええ。ここまで付いてきてくださったのです。あなたのお眼鏡に私はかなったということでよろしいですよね?」
そう言いながら、男性はゆっくりと私の方に体を寄せてきた。男性の両目が妖しく輝いている。
食事という単語が自分の中でぐるぐる回って、ハッとした。
そうだ、自分は今サキュバスだ!淫魔の食事といえば、いえば……。
「!?!?!?……まっ、待って!!」
慌てて男性の胸を押し返す。それでも男性は止まってくれない。男性の開いた口から鋭い八重歯が見えた。
(……もしかして、牙!?)
首筋に牙をたてられそうになって閃いた。このシチュエーションには覚えがある。彼はまさかファンタジーでよく出てくる吸血鬼なのでは───!
ツプ、と皮膚が裂ける感覚がした。もうだめだ、と目をつぶったときーーー
ガウッッッッ!!!
空気が裂けるような咆哮が轟く。余韻で空気がびりびりと震えた。
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