レイヤー少女の魔界謳歌

七海かおる

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 アルフレートと一緒に会場に足を踏み入れる。

 その瞬間、周囲がざわめきを増した。多くの視線が私たちに、というよりもアルフレートの方に向いている。
 何を言っているのかはよく聞こえないから分からないが注目されているみたいだ。

「アルフって有名なの?」
「ふん…………さあな」

「それよりも食事をするんだろう?」と促される。触れられたくないことなのかもしれない。
 夜会というからには、壁の方に立食形式の料理が置いてあるものだと思って、会場内を見渡してみる。
 みんなグラスを片手に談笑しているが、何か食べているような人は見つからない。

「ようこそおいでくださいました銀狼殿。まさかあなたにお越しいただけるとは」

 食べ物を探しながらアルフレートと会場内を回っていると、燕尾服を着た男性に声をかけられた。
 頭には羊のような角が生え、腰から蝙蝠の翼が伸びている男性で、目を細めてにこやかな微笑みを浮かべながら、片手を胸に当てて一礼した。
 先ほどの給仕の男性とは別人だが、同じ燕尾服を着ているので主催者側だろうか。
 男性に視線を向けて考えていると、肩に置かれた手に力がこもった。アルフレートの顔を見上げると若干目を細めていて不機嫌そうな表情になっていた。
 その男性はこちらに目をとめて「おや」という顔になった。

「あなたが誰かと一緒にいるなんて珍しいこともあるものですね。失礼ですがレディ、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ラキアです」

「ラキア殿、ですか」と男性はこちらに面白がるような視線を向けてきたので、少しアルフレートの方に身を寄せる。
 もしかして、招待されていないのにここにいるのが分かってしまっただろうかと不安になる。

「これは……面白い魔力をなさっていらっしゃいますね。我が同胞にこれほど可愛らしい方がいらっしゃったとは失念しておりました。一体どこに隠れていらしたのです?」

 にこやかに訊ねられたが、異世界から来ました、なんて本当のことが言えるわけもない。ましてや、同胞認識を受けたようだが本当は私は人間だ。
 答えようがないので、にこり、と愛想笑いを浮かべて誤魔化しておく。

「食事はいつ出る。これが腹を空かせている」
 唐突にアルフレートが口を挟んだ。男性の視線がアルフレートの方に向き、ほっと安堵する。

「ああ、それは申し訳ございません。今宵の食事は趣向を凝らしておりますので、少し時間がかかっているのです。食事の時間を早めるよう言っておきましょう。きっとお楽しみいただけると思いますよ」

「では、失礼いたします」と男性は優雅に一礼して、人波に紛れて去っていった。
 男性が去ってからも、隣からピリピリとした空気が伝わってきた。
 さすがに気になってアルフレートを見上げる。アルフレートはまだ男性が去っていった方を睨んでいた。心なしか瞳に不機嫌さが滲んでいる。

「アルフ」

 声をかけて、アルフレートの顔の方へ手を伸ばす。アルフレートはこちらに素直に顔を伸ばしてきてそのまま、すり、と私の手のひらに擦り寄ってきた。
 アルフレートの両頬の短い毛をがしがしと掻く。段々とアルフレートの雰囲気が柔らかくなってきたので笑みがもれる。
 もっと、というようにアルフレートが私の手に顔を押しつけてきたので、両手でわしゃわしゃと掻き回した。

 そうこうしていると、会場の照明が落ちて暗くなった。すぐに会場中央に光が当てられ、先ほどの燕尾服の男性が立っていた。
 
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより、本日のメインイベントに移りたいと思います。───皆様の元に仮面は届いておりますでしょうか?」

 そう言われて、気づくと目の前に仮面が浮いていた。仮面はちょうど顔の高さで浮いて静止していた。
 全然気がつかなかった……。これはもしかして魔法、だろうか。
 目から鼻にかけて顔の上半分のみを覆うタイプの仮面で、蝶を模してあるようで羽のような意匠がかわいらしい。
 ひとりひとり違う仮面が届いているようで、アルフレートの仮面は同じタイプの仮面でも何かの花を模してあるようだった。

「では、早速お手に取ってお付けくださいませ。その仮面が今宵の……」

 男性の言葉が半分も耳に入らないうちに、仮面に思わず手が伸びた。あまりの精巧さに魅せられる。目の前の仮面を手に取ってよく見たいという気持ちでいっぱいになる───。

「ラキア!!!!!」

 なぜか遠くから、アルフレートが私を呼んでいる声が聞こえた気がして振り向く。
 しかし、気づけばそこはもう私が今までいた場所ではなかった……。
「ど、どこここーーー!?」


「……今宵のパートナーの元へと導いてくれます。───良い夜をお過ごしください」





 
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