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最近、HEAVENでタダキヨヒトを見かけることが増えたのは、気のせいではないだろう。
これから帰るのか、キヨヒトが店の前でドアマンに付き添われて立っている。そこに裏口の方から、白衣姿のひょろっとした男の腕を小脇に抱えて引っぱるようにして、ステージ衣装を着たシュウが駆け寄ってきた。腕を引かれているのは、確かダイスケとかいうシェフだ。
キヨヒトを見た瞬間に驚いて立ち止まったダイスケを、シュウは満面の笑みで背中を押してキヨヒトのもとに連れていく。まるでちぎれんばかりにしっぽを振っている犬だ。
ケンは舌打ちしたい思いで、その無音の光景から目をそらした。
信号待ちしていた車はハンドルを切り、ビルの地下にある駐車場へと入っていく。通路につけられたライトが照らすケンの横顔は険しく、腕組みした身体から黒々したオーラが漂う。
キヨヒトが前よりも足繁く通ってくるのは、まさかシュウに本気になったのか。同時にシュウは、あのシェフともよろしくやっているのだろう。みんな、最近この街にちょっかいをかけてきている連中の餌食になってしまえばいい。
ケンは大きく息をついた。完全な八つ当たりだ。だいぶいらだっている。助手席に座っている先代からの幹部・ムカイが、ちらりとケンを気にするようなそぶりを見せたが、声はかけてこない。
組織を継いでから今まで、周りとのいざこざもあるにはあったが、さほどではなかった。だが今回は、まず連中の正体がなかなかつかめない。相手が何者か分からないのでは、出方も読めず対策も立てられない。
組織の本部ビルなどの重要な拠点には手を出してこず、支配下にある飲食店や、普段から部下達がよく出入りしている店が狙われているのは、警告のつもりか。用意周到にじわじわ周りから攻めるつもりのようで、気にさわる。
車から降りると、別の車でついてきていた下っ端の若い者数人が、すかさずケンを囲んだ。若い者と言っても、さほどケンと年は変わらない。これは用心のため、最近幹部達が始めさせたことだった。ケンの数倍長くこの世界に生き、経験を積んできた男達から見ても、今回の相手は危険だということなのだろう。とは言え、内部の誰かの裏切りもありえない話ではない。
厳重に護られて駐車場を歩きながら、この街ではなにがあってもおかしくない、と笑ったシュウの声を思い出す。あまりにもこともなげで、あきらめに淡く縁取られていた。
いつ死んでも構わない、と思っているらしいシュウ。だが、そう簡単に死なれてはたまらない。なにがあってもおかしくない街を、うまく支配していかなくてはならない。その姿を、シュウに見ていて欲しいと思う。
「さすがは先代が見込んだだけありますね、肝が据わってらっしゃる」
わずかに笑みが浮かぶケンの横顔に、ふいに部下の一人が声をかけてきた。
「見かけ倒しだよ」
まさかシュウのことを考えていたとは言えないから、ケンはそう言って笑みを深めた。見かけ倒しでいい、本心を悟られるな。器は他人に勝手に作られる。先代のボスは繰り返しケンにそう教えた。
だからと言って、自分にまで嘘をつく必要はないだろう。ケンの笑みに自嘲が混じる。
これから帰るのか、キヨヒトが店の前でドアマンに付き添われて立っている。そこに裏口の方から、白衣姿のひょろっとした男の腕を小脇に抱えて引っぱるようにして、ステージ衣装を着たシュウが駆け寄ってきた。腕を引かれているのは、確かダイスケとかいうシェフだ。
キヨヒトを見た瞬間に驚いて立ち止まったダイスケを、シュウは満面の笑みで背中を押してキヨヒトのもとに連れていく。まるでちぎれんばかりにしっぽを振っている犬だ。
ケンは舌打ちしたい思いで、その無音の光景から目をそらした。
信号待ちしていた車はハンドルを切り、ビルの地下にある駐車場へと入っていく。通路につけられたライトが照らすケンの横顔は険しく、腕組みした身体から黒々したオーラが漂う。
キヨヒトが前よりも足繁く通ってくるのは、まさかシュウに本気になったのか。同時にシュウは、あのシェフともよろしくやっているのだろう。みんな、最近この街にちょっかいをかけてきている連中の餌食になってしまえばいい。
ケンは大きく息をついた。完全な八つ当たりだ。だいぶいらだっている。助手席に座っている先代からの幹部・ムカイが、ちらりとケンを気にするようなそぶりを見せたが、声はかけてこない。
組織を継いでから今まで、周りとのいざこざもあるにはあったが、さほどではなかった。だが今回は、まず連中の正体がなかなかつかめない。相手が何者か分からないのでは、出方も読めず対策も立てられない。
組織の本部ビルなどの重要な拠点には手を出してこず、支配下にある飲食店や、普段から部下達がよく出入りしている店が狙われているのは、警告のつもりか。用意周到にじわじわ周りから攻めるつもりのようで、気にさわる。
車から降りると、別の車でついてきていた下っ端の若い者数人が、すかさずケンを囲んだ。若い者と言っても、さほどケンと年は変わらない。これは用心のため、最近幹部達が始めさせたことだった。ケンの数倍長くこの世界に生き、経験を積んできた男達から見ても、今回の相手は危険だということなのだろう。とは言え、内部の誰かの裏切りもありえない話ではない。
厳重に護られて駐車場を歩きながら、この街ではなにがあってもおかしくない、と笑ったシュウの声を思い出す。あまりにもこともなげで、あきらめに淡く縁取られていた。
いつ死んでも構わない、と思っているらしいシュウ。だが、そう簡単に死なれてはたまらない。なにがあってもおかしくない街を、うまく支配していかなくてはならない。その姿を、シュウに見ていて欲しいと思う。
「さすがは先代が見込んだだけありますね、肝が据わってらっしゃる」
わずかに笑みが浮かぶケンの横顔に、ふいに部下の一人が声をかけてきた。
「見かけ倒しだよ」
まさかシュウのことを考えていたとは言えないから、ケンはそう言って笑みを深めた。見かけ倒しでいい、本心を悟られるな。器は他人に勝手に作られる。先代のボスは繰り返しケンにそう教えた。
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