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本当は、シュウをどこにも出したくない。ステージにも立たせたくないし、一刻も早く男娼なんて仕事はやめさせたい。自分だけのものでいて欲しい。シュウの身体を知る男達がどれほどいるのかと思うと、頭をかきむしりたくなる。
狂気じみた思いだと分かっている。今のシュウの売れっ子ぶりを誇らしく思えない心の狭さを、自分でもどうにもできない。シュウをすぐ目の届くところに置かなければよかったのか。だが、どこの誰が客なのかも分からないのも嫌だ。
そんな気持ちを、シュウには悟られたくないと思い続けてやってきた。部屋に自由に出入りさせているのもシュウ一人だけだという意味を、おそらくシュウは真面目に考えていないだろう。
ケンは事務所で幹部達と話しあいをした後、最上階の自分の部屋に帰った。玄関にはシュウのスニーカーが転がり、リビングから明かりが漏れている。
肩に入っていた余計な力が抜け、心が緩む。たとえ互いの認識が噛みあっていなくても、愛する者がいるところに帰れるのは、やはり幸せだ。
バスルームで物音がする横を通り、ケンはリビングに入るとまっすぐ窓際へ向かった。そばのソファへ手にしていたジャケットを放り投げ、ネクタイを勢いよく外す仕草から、色気が飛び散る。
窓の外には、遠くまで一面に光が敷きつめられたかのような夜景。
このビルは、組織のシマのほぼ真ん中にある。最上階のここから見ると、シマもこんなものかと思うほど小さく感じられる。だがちっぽけなようで、そこには多くの人がひしめき、生きている。守らなければならない。
「……ヒーロー気取りかよ」
感傷めいた思いに、思わずつぶやいて笑う。ビールでも飲むかと振り返ると、風呂上がりのシュウがTシャツにスウェット姿でバスタオルを首にかけ、リビングに入ってきたところだった。
「おう、ビール飲むだろ?」
頼むわ、という声を聞きながらケンはキッチンへと向かい、冷蔵庫から缶ビールを二本取り出した。冷蔵庫のそばに置いてあったつまみの袋も持ってきて、テーブルに置く。
二人はしばらく無言で、ソファに並んで座ってビールを飲んだ。テレビもつけない広い部屋で、喉が鳴る音やつまみの小袋を開けては食べる音だけが響く。いつもシュウが流している音楽もなく、店であったことなどをにぎやかに話すシュウが、今日は妙におとなしい。
テーブルに飲み干した缶を置く乾いた音を響かせると、シュウは無言のままケンとの距離を詰めて肩に頭を預けてきた。太ももが密着し、左腕にシュウの右腕が絡む。珍しく恋人らしい仕草をするシュウに、胸がうずく。
「なにかあったのか?」
さっき店の前で見た笑顔は、どこに行ってしまったのか。シュウは身じろぎもせず、問いにも答えない。目を伏せ、じっとなにかを考えているようにも見える表情。どこかはかない。疲れているのか。
ケンはシュウの方に顔を傾け、そっと唇で唇を探るようにして、軽くひそやかな口づけをした。シュウが肩に顔を埋めてくる。
狂気じみた思いだと分かっている。今のシュウの売れっ子ぶりを誇らしく思えない心の狭さを、自分でもどうにもできない。シュウをすぐ目の届くところに置かなければよかったのか。だが、どこの誰が客なのかも分からないのも嫌だ。
そんな気持ちを、シュウには悟られたくないと思い続けてやってきた。部屋に自由に出入りさせているのもシュウ一人だけだという意味を、おそらくシュウは真面目に考えていないだろう。
ケンは事務所で幹部達と話しあいをした後、最上階の自分の部屋に帰った。玄関にはシュウのスニーカーが転がり、リビングから明かりが漏れている。
肩に入っていた余計な力が抜け、心が緩む。たとえ互いの認識が噛みあっていなくても、愛する者がいるところに帰れるのは、やはり幸せだ。
バスルームで物音がする横を通り、ケンはリビングに入るとまっすぐ窓際へ向かった。そばのソファへ手にしていたジャケットを放り投げ、ネクタイを勢いよく外す仕草から、色気が飛び散る。
窓の外には、遠くまで一面に光が敷きつめられたかのような夜景。
このビルは、組織のシマのほぼ真ん中にある。最上階のここから見ると、シマもこんなものかと思うほど小さく感じられる。だがちっぽけなようで、そこには多くの人がひしめき、生きている。守らなければならない。
「……ヒーロー気取りかよ」
感傷めいた思いに、思わずつぶやいて笑う。ビールでも飲むかと振り返ると、風呂上がりのシュウがTシャツにスウェット姿でバスタオルを首にかけ、リビングに入ってきたところだった。
「おう、ビール飲むだろ?」
頼むわ、という声を聞きながらケンはキッチンへと向かい、冷蔵庫から缶ビールを二本取り出した。冷蔵庫のそばに置いてあったつまみの袋も持ってきて、テーブルに置く。
二人はしばらく無言で、ソファに並んで座ってビールを飲んだ。テレビもつけない広い部屋で、喉が鳴る音やつまみの小袋を開けては食べる音だけが響く。いつもシュウが流している音楽もなく、店であったことなどをにぎやかに話すシュウが、今日は妙におとなしい。
テーブルに飲み干した缶を置く乾いた音を響かせると、シュウは無言のままケンとの距離を詰めて肩に頭を預けてきた。太ももが密着し、左腕にシュウの右腕が絡む。珍しく恋人らしい仕草をするシュウに、胸がうずく。
「なにかあったのか?」
さっき店の前で見た笑顔は、どこに行ってしまったのか。シュウは身じろぎもせず、問いにも答えない。目を伏せ、じっとなにかを考えているようにも見える表情。どこかはかない。疲れているのか。
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