この街で

天渡清華

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 鼓動が跳ね、シュウは思わず反射的に聞き返す。きつく抱きしめられたままで、ケンの表情は見えない。
「うん。もう大丈夫だ」
 腕を解いてシュウから離れると、両手でがっしりとシュウの肩をつかみ、ケンは笑った。久々にこんなふうに晴れやかに笑うケンを見たような気がする。
「それは、勝ったってことか……?」
「まあ、勝ち負けで言ったら、勝ちだな。ドンパチもやらずに済んだし、落とし前としてヤツらは実質うちの傘下に入った」
 勝ったのに、どうしてあんなに深刻そうな顔をしていたのか。脱力してシュウは思わずベッドに倒れこんだ。
「なんだよ、心配させんなよ。お前がそんなんだから、負けたかと思っただろ」
「すまん、相手の申し出があまりに意外だったし、緊張がなかなか解けなくて……」
 申し訳なさそうに笑う顔が、どこか子供っぽい。わざとベッドを弾ませるようにして、ケンもシュウの隣に寝転んだ。
「生きてて、よかったわ」
 ぽつりとつぶやく言葉に、実感がこもっていた。ベッドに半分顔を埋めて見る、ケンの横顔。すがすがしい表情で、しっとりと輝く瞳に力がみなぎっている。
「お前と抱きあって、生き返った気がしたよ」
 ちらりとシュウを見て、ケンははにかむように笑う。
「なっ……。なんか、恥ずかしいわ」
 シュウは照れて、ベッドに完全に顔を埋める。ケンのシュウへの接し方は、明らかに変わった。ケンは間違えたと言った。それを取り返そうとしているかのようだ。
 間違えたのは自分も同じだと、シュウは思う。ケンにとって自分は特別らしいという自覚がありながら、その想いを軽く見て、ケンが与えてくれるものを気まぐれに食い散らかしてきたのだから。
「なあ、ケン」
 シュウはケンの方に身体を向けた。寝転んだままで言う。
「これからもあの街で、一緒に生きていこうか」
 不意打ちを食らい、声もなくシュウを見るケン。見つめていると、じわじわと広がる喜びを噛みしめるかのように微笑む。
「おう、そうしよう」
 ケンと抱きあった時、ダイスケを思い出さなかった。だからたぶん、大丈夫だ。ケンをダイスケの身代わりにしてしまわないか、それが少し怖かった。長年そばにいたケンよりも、出会ったばかりのダイスケを選ぼうとした自分すら許してくれるケンに、申し訳なくて。
「腹減ったな、ホテルの中のレストランでいいか?」
「俺はいいけど、食事なんてどうでもいいお前にはもったいねえだろ」
 起き上がりながらいつもの調子で軽口をたたくシュウに、ケンはうれしそうだ。
「……なんだよ?」
「いや、なんでも。なんか急に腹減ってきた、早く行こう」
 ケンは開けていたワイシャツのボタンを留め、ジャケットを羽織った。シュウもストールを巻き直し、部屋を出る。
「さて、なに食おうか」
「無事済んだことを祝うべき日だろ、お前が食いたいものにしろよ」
「俺はお前が食いたいものでいいよ」
 ホテルの廊下を肩を並べて歩く。こんなたわいない会話だけ積み重ねて、生きていけたらいい。ダイスケといる時にも思ったことを、シュウはあの時とは違う気持ちで噛みしめる。
 いつどうなるか分からない世界で、いつなにがあってもおかしくない裏社会のボスとして生きているケン。気づくのが遅すぎたかも知れないが、一緒に過ごす時間を大事にしなければ。
「じゃ、俺天ぷらがいいな」
 申し訳なさを隠して、ことさらに明るくシュウは笑った。
「ホント、お前は贅沢だよな」
「うまいもん食って、楽しく生きた方がいいに決まってんだろ」
 シュウは肩をすくめるケンの背中を力強くたたき、ちょうど来たエレベーターに押しこむように乗せた。
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