デコボコな僕ら

天渡清華

文字の大きさ
上 下
8 / 32
その1

☆☆☆☆☆☆☆☆

しおりを挟む
「どうする? もっと飲む?」
 自分の取り皿に残ったサラダをつまんで、俺の顔をのぞき込む大沼。ドキッとして、どもったような返事になっちまう。
 俺のビールジョッキはほとんど空、大沼のお茶は半分ぐらいか。まだ七時半過ぎ、帰りたくねえなあ。でもせっかく大沼と二人きりになったのにこれ以上酔っぱらいたくねえし、カラオケって気分でもねえ。どうしよっかなあ。
「俺、甘い物食べたいな。この近くのカフェ行かない?」
 迷ってる俺に、大沼が言う。
「おう、そうすっか。俺もコーヒー飲みてえ」
 大沼が言うカフェはたぶん、大きな道路を挟んで向かい側、神社の裏にある店のことだろう。何度か大沼や、営業部の人達と行ったことがある。夜遅くまでやってて、コーヒーも食いもんもうまくて落ち着いた雰囲気。まさにデートにうってつけの店だ。
 もったいねえから、それぞれ微妙に皿に残っていた食いもんを二人で全部平らげて、店を出る。もわっとした熱気は、すっかり暗くなってもなかなか衰えない。銀行がある交差点で横断歩道を渡り、カフェがある路地へと曲がる。
 やっぱり、俺が思ってたのと同じ店だった。訊くまでもなく、足の向く方向が一緒でスムーズに店にたどり着く。そんなちっぽけなことすら、俺にはうれしくて。
「あ、よかった。入れそうだね」
 大沼が先に立ってドアを開ける。ちょうど空いてた、壁際のソファ席に通された。
 昼間は太陽光を取り入れて明るい店内も、夜はガラッと雰囲気が変わる。夜は酒も出してるから薄暗く、あちこちに間接照明が取りつけられてて、テーブルにはキャンドルの炎が揺れる。俺一人だったら、絶対入らねえタイプの店だ。
「アイスコーヒー頼んどいて。ちょっとタバコ吸ってくるわ」
 そう大沼に言うと、俺は一番奥の喫煙ブースに入った。ドアの上半分がガラス張りで、ちょうど大沼の姿が見える。黒革のソファにもたれて座る大沼はなんだかアンニュイな感じで、すげえ様になってる。さすが、かっこいいわ。
 ぼんやりと何口かタバコを吸って、ふと見ると大沼と目があった。少し照れたように笑う大沼に、俺もなんか照れる。
「樹がタバコ吸ってるとこ、なんかいいよね」
 俺が席に戻るなり、大沼が言う。
 は? 樹って俺だよな? なんかいい? この俺のどこが?
 少し酔った頭は大混乱、にこにこしている大沼に俺はなにも言えなくなる。
「かっこいいって言ってんの。樹は自分が小柄なの、気にしすぎだと思うよ」
 かっこいい? 俺が? 誰が見てもイケメンの大沼が、俺をかっこいいって? 嘘だろ?
 あまりに意外すぎてポカーンとしてしまう。でも大沼は優しいけど、見えすいた慰めやお世辞を言うヤツじゃない、はずだ。
「眉をひそめて煙吐き出す顔とかさ。かっこいいよ」
 ほめられた俺は照れてうつむいた。俺なんか、百人中百人がイケメンだと思わない顔だと思ってたのに。かっこいいと言ってくれるヤツがここにいる。それも好きな大沼が、だ。
 大沼が頼んだデザートプレートと、アイスコーヒーが二つ来た。ありがとうございます、と店員を見上げて笑顔ではっきり言う大沼。
 大沼はどこ行ってもこんな感じで、よっぽどしっかり躾けられたんだろうな、と思う。動作も落ち着いてて、がさつな俺なんかとは違う。
しおりを挟む

処理中です...