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その2
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アズマは自宅に来てくれた福島に、玄関先で思わず抱きついた。
「なんかあったの?」
心配そうにアズマの顔をのぞきこもうとする、大きく丸い瞳。
あったと言えばあったのかも知れない。アズマはただ黙って、まだ靴も脱いでいない福島の唇に唇を重ねる。福島の指先を右手でぎゅっと握る。
アズマからの深夜の電話にさすがに福島は少し驚いていたが、すぐそっち行くよ、と言ってくれた。二人の家はそう離れていないから、車ならすぐだ。渋谷から終電で帰ってきたアズマが着替える間もなく、チャイムが鳴った。
激しく深い口づけを受け止め、アズマの身体を包みこむ福島。深く抱きあい、衣擦れの音をさせながら、二人は立ったまま何度もキスを交わした。
「……誰かと会ってきたの?」
唾液で濡れたアズマのあごを太い指で拭いながら、福島はまっすぐにアズマを見つめた。さすがに鋭い。
「なんで分かったの……?」
途端に恥ずかしさがこみ上げ、アズマはうつむいた。坂上に抱かれたばかりでもう福島と抱きあっている自分。あまりにも節操がなさ過ぎる。でも福島を求める気持ちを、どうにもできなかった。
「そりゃ分かるよ、外からの電話だったし。それに、部屋着じゃないのに、ボディソープっぽいにおいがするから」
アズマはなんて答えていいか分からなくなった。福島は当然、人と会ってなにをしてきたのか、分かっているだろう。恥ずかしい。そもそも坂上になにかひどいことをされたわけでもないのに、助けを求めるように福島を呼んでしまったのはなぜなのか。
性欲に関する身体のどこかが壊れているとしか思えない自分を、こんなふうに恥ずかしいと思ったのもたぶん初めてだ。アズマは少し混乱し、頭から完全に言葉が逃げ出してしまった自分に呆然とした。
「とりあえず、座ろうか」
福島は靴を脱ぎ、ただうつむいているアズマの手を引いて部屋の一番奥のベッドに向かう。
「よっぽど嫌だったんでしょ?」
アズマをベッドに座らせ、福島は自分もアズマの隣に座った。優しく肩を抱かれる。
「え……?」
意味が分からず、アズマは顔を上げてぼんやり福島を見た。せつなげに微笑んでいる福島の、黒々とした太い眉毛。愛嬌のある瞳を細めて、アズマを見る優しい視線。
「アズマさん、いつもした後シャワー浴びたがらないじゃん。俺の考えすぎだったらいいんだけど」
福島に言われて、アズマの中で自分の気持ちの解像度がさらに上がった。やけに念入りに洗ったのは、嫌だったからか。嫌だという思いすら、正直自覚できていなかった。
「ごめん、こんな頭おかしいヤツで……」
うつむいたアズマを、福島はしっかりと胸に抱く。
「俺はとことんアズマさんにつきあうって決めてるから。したいならしようよ」
こんな自分を、なぜ福島はごく当たり前のように受け入れてくれるのか。泣きたいような気分で、アズマはうなずいた。
「うん、したい。すごくしたい……」
福島はアズマの髪や背中を撫で、軽いキスを唇や肌に落としながらシャツのボタンを外して脱がせた。中に着ていたTシャツも、くすぐったいほど優しく脱がせる。白い肌にぽつり、ぽつりと残された、情事の証。無言で、福島の指先が右肩の赤い刻印に触れる。
「上書きしてくれる?」
やはりまだまともに福島の顔を見られないまま、アズマはつぶやく。
「上書き、って……」
福島は口に手を当て、絶句した。
「えっ、ごめん、俺なんか変なこと言った?」
少し焦って福島の顔を見ると、頬が赤らみあらぬ方を見て子供のようにはにかんでいた。
「いやそれ、殺し文句でしょ」
勢いよくパーカーをインナーごと脱いで、福島はうれしそうに笑う。
「やっと分かったんだ、遅すぎたけど」
福島の素肌の感触を味わうように、アズマはゆっくり腕を回して抱きしめた。肌のにおいに安心する。
「なにが?」
「誰に抱かれるかが、すげえ大事なんだなあって」
福島とは、こうしているだけでも気持ちがいい。アズマは湧き上がる欲情を心地よく感じながら、福島の肩に頭を預けた。胸に感じる福島の鼓動が早い。
「だからもう、拓と寝るのはやめ……っ」
大きな音でベッドがきしむ。いきなり押し倒された。福島がこんなふうに乱暴にすることはないから、アズマは目を見開く。
「めちゃくちゃ上書きしちゃうけど、いい?」
福島は猛った目をしながら、口もとは優しく微笑んでいた。ぶつけるようなキス。
「当たり前じゃん」
ゆったり笑って、アズマは福島を受け入れた。
「なんかあったの?」
心配そうにアズマの顔をのぞきこもうとする、大きく丸い瞳。
あったと言えばあったのかも知れない。アズマはただ黙って、まだ靴も脱いでいない福島の唇に唇を重ねる。福島の指先を右手でぎゅっと握る。
アズマからの深夜の電話にさすがに福島は少し驚いていたが、すぐそっち行くよ、と言ってくれた。二人の家はそう離れていないから、車ならすぐだ。渋谷から終電で帰ってきたアズマが着替える間もなく、チャイムが鳴った。
激しく深い口づけを受け止め、アズマの身体を包みこむ福島。深く抱きあい、衣擦れの音をさせながら、二人は立ったまま何度もキスを交わした。
「……誰かと会ってきたの?」
唾液で濡れたアズマのあごを太い指で拭いながら、福島はまっすぐにアズマを見つめた。さすがに鋭い。
「なんで分かったの……?」
途端に恥ずかしさがこみ上げ、アズマはうつむいた。坂上に抱かれたばかりでもう福島と抱きあっている自分。あまりにも節操がなさ過ぎる。でも福島を求める気持ちを、どうにもできなかった。
「そりゃ分かるよ、外からの電話だったし。それに、部屋着じゃないのに、ボディソープっぽいにおいがするから」
アズマはなんて答えていいか分からなくなった。福島は当然、人と会ってなにをしてきたのか、分かっているだろう。恥ずかしい。そもそも坂上になにかひどいことをされたわけでもないのに、助けを求めるように福島を呼んでしまったのはなぜなのか。
性欲に関する身体のどこかが壊れているとしか思えない自分を、こんなふうに恥ずかしいと思ったのもたぶん初めてだ。アズマは少し混乱し、頭から完全に言葉が逃げ出してしまった自分に呆然とした。
「とりあえず、座ろうか」
福島は靴を脱ぎ、ただうつむいているアズマの手を引いて部屋の一番奥のベッドに向かう。
「よっぽど嫌だったんでしょ?」
アズマをベッドに座らせ、福島は自分もアズマの隣に座った。優しく肩を抱かれる。
「え……?」
意味が分からず、アズマは顔を上げてぼんやり福島を見た。せつなげに微笑んでいる福島の、黒々とした太い眉毛。愛嬌のある瞳を細めて、アズマを見る優しい視線。
「アズマさん、いつもした後シャワー浴びたがらないじゃん。俺の考えすぎだったらいいんだけど」
福島に言われて、アズマの中で自分の気持ちの解像度がさらに上がった。やけに念入りに洗ったのは、嫌だったからか。嫌だという思いすら、正直自覚できていなかった。
「ごめん、こんな頭おかしいヤツで……」
うつむいたアズマを、福島はしっかりと胸に抱く。
「俺はとことんアズマさんにつきあうって決めてるから。したいならしようよ」
こんな自分を、なぜ福島はごく当たり前のように受け入れてくれるのか。泣きたいような気分で、アズマはうなずいた。
「うん、したい。すごくしたい……」
福島はアズマの髪や背中を撫で、軽いキスを唇や肌に落としながらシャツのボタンを外して脱がせた。中に着ていたTシャツも、くすぐったいほど優しく脱がせる。白い肌にぽつり、ぽつりと残された、情事の証。無言で、福島の指先が右肩の赤い刻印に触れる。
「上書きしてくれる?」
やはりまだまともに福島の顔を見られないまま、アズマはつぶやく。
「上書き、って……」
福島は口に手を当て、絶句した。
「えっ、ごめん、俺なんか変なこと言った?」
少し焦って福島の顔を見ると、頬が赤らみあらぬ方を見て子供のようにはにかんでいた。
「いやそれ、殺し文句でしょ」
勢いよくパーカーをインナーごと脱いで、福島はうれしそうに笑う。
「やっと分かったんだ、遅すぎたけど」
福島の素肌の感触を味わうように、アズマはゆっくり腕を回して抱きしめた。肌のにおいに安心する。
「なにが?」
「誰に抱かれるかが、すげえ大事なんだなあって」
福島とは、こうしているだけでも気持ちがいい。アズマは湧き上がる欲情を心地よく感じながら、福島の肩に頭を預けた。胸に感じる福島の鼓動が早い。
「だからもう、拓と寝るのはやめ……っ」
大きな音でベッドがきしむ。いきなり押し倒された。福島がこんなふうに乱暴にすることはないから、アズマは目を見開く。
「めちゃくちゃ上書きしちゃうけど、いい?」
福島は猛った目をしながら、口もとは優しく微笑んでいた。ぶつけるようなキス。
「当たり前じゃん」
ゆったり笑って、アズマは福島を受け入れた。
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