愛を知る

天渡清華

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その1

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 相棒の坂上から一度ソロでやってみたいと言われ、その間に自分はなにをしようかと考えた時、福島が思いついたのは他人とのコラボレーションだった。個人的に好きだったり気になっているボーカリストに声をかけて共演し、ミニアルバムを作ることにした。スタジオミュージシャンも同じ基で、これまで一緒にやったことがないメンバーを集め、とにかく趣味に走り好き勝手にやる。そう決めた。
 売れるかどうかは正直どうでもよかったが、ゲストボーカリストとして呼んだメンバーは人気者ばかりだから、そのおかげでそれなりに売れるだろう。
 この先、ユニットとしての活動休止や解散となった時のために、人脈を広げておこうという意図もあった。どんな形であれ、音楽は続けていきたい。だが、ずっと坂上と一緒にやっていけないだろうとも思っている。
 アズマから坂上とも関係を持っていると告げられた時、福島はその覚悟を強くした。そう遠くない未来に、ユニットとしての終わりが来るだろうと。つまり、アズマの方を選ぶつもりでいた。そしてその時は、思ったよりも早く来そうだ。
 やはりアズマには、愛というものが分からないらしい。ようやく、抱きあう相手によって感じ方が違うことに気づいたのは、それまでは好きだと思える相手に出会わなかったということなのか。そんな欠落すら愛しいと思う。
 アズマになら破滅させられてもいい。アズマの気持ちが自分一人に向かいつつある今、福島はそう思い始めていた。坂上もアズマに執着しているが、そこまでではないはずだ。そもそも、自分以外の人間と肉体関係を持っていることを許せないだろう。
 アズマはこの前言ったとおりに、坂上との関係を切ろうとしているようだ。アズマが関係を切ろうとしていること、もしくは自分との関係を坂上が知った時、どうなるか。福島は流れに任せようと思っていた。
 レコーディングスタジオのガラスの向こう、ヘッドホンをつけて椅子に座り、うっすら笑みを浮かべてエレキギターを弾いているのは、かつて好きだったバンドのボーカリスト兼ギタリストだった男。穏やかな笑みを浮かべ、よく指が動く、テクニックを駆使した圧巻のプレイを見せている。この人に弾かれるギターは幸せだろう、そう思うほどうまく、同時にギターを扱う手は優しい。
 その穏やかな雰囲気とはギャップのある、かなりひずませた音がギタリストの好みであり持ち味で、福島も中学生の頃その音に惚れた。弾いているギターは、福島がギタリストを知った時にはもう使っていたビンテージのエレキギターで、一台のギターをずっと使い続けるのもかっこよく思えた。
 同じタイプのギターが欲しくて福島も一台持っているが、同じエフェクターを使ってもまったく同じ音にはならないし、あんなふうにはとても弾けない。永遠の憧れだ。
 スタジオにいる全員が、ガラス越しにギタープレイを黙ってじっと見つめ、聴き入っている。福島もいつかはレコーディングに呼びたいという念願がかない、紡がれる音色に酔いしれながらも、笑みを浮かべて弾くのがアズマと同じで、ついアズマのことを考えてしまった。作る曲や演奏がいわゆる玄人受けするタイプで、職人的なのもアズマに似ている。
「ありがとうございます、さすがですね。しびれました」
 曲が終わると、福島はガラスの向こうにトークバックで声をかけた。
「こんなんでよかったかな?」
 はにかむように笑って答え、ギターをスタンドに立てかけて立ち上がる。いかにも人がよさそうな、目尻の皺をくしゃくしゃにした笑顔。
「いや、めちゃくちゃかっこよかったです。プレイバックしましょう」
 こんなふうに生きられたらと思う、誠実な音楽人生を歩んできたギタリストを、福島は尊敬をこめて立ち上がって迎えた。
 アズマになら破滅させられてもいいと思っている時点で、もうそんな生き方はできない。分かっている。でも、そう思うほどの存在に出会えたことは、幸せだ。たとえこの先、坂上とのユニットとしての活動に早々に終わりが来たとしても。
 福島の隣に座り、自分の演奏を集中して聴く横顔は、演奏中とは違い厳しい。それもアズマを思わせた。だいぶアズマさんにハマってるな、と内心苦笑しながら、福島は憧れていた人と音楽を作れた喜びに浸る。
「参加してもらえて、本当にうれしいです。最高でした」
 曲を聴き終えると、福島はギタリストに握手を求めた。骨張った指とぬくもりを、ただのファンに戻って噛みしめる。
「こっちこそ、呼んでくれてありがとう。好きに弾かせてもらって楽しかったよ。でもちょっと、弾き直させて欲しいとこがあるんだけど……」
「分かりました」
 どこが気に入らなかったのか、福島には分からないレベルだ。一日一緒に作業して、一貫して真摯な姿勢が、思っていたとおりでうれしかった。
 このアルバムは、意識していなかったが思い出作り的なものになるかも知れない。そんな予感を抱えつつ、またガラスの向こうに戻っていく背中を、福島は見送った。
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