愛を知る

天渡清華

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その1

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「んっ……」
 鼻にかかった、快感に思わず漏れる声。アズマの頭に置かれている大きく厚みのある福島の右手に、少し力がこもる。
 深夜、福島のマンション。寝室の暗がりの中で、アズマは福島をベッドに座らせて自分はその前にひざまずき、股間に顔を埋めていた。福島のジーンズの前を性急にはだけ、一刻も早くそれを愛撫したくてむしゃぶりつくようにしたせいで、最初福島を痛がらせてしまったほどだった。
 最近、福島が欲しい、抱かれたいという気持ちに歯止めがきかない。これを愛というのか。とまどいながらも、アズマの情欲はもう福島一人にしか向かなくなっている。
 あっという間に口の中で育っていく、福島の熱。楽しく、うれしい。硬くなっていくモノに、うっとりと目を閉じて舌を這わせる。先走りの味を感じて、もっと味わいたくて先端の割れ目を舌先で刺激する。先端だけを強く吸う。
「あっ!」
 福島の背中がびくりと反り返った。荒い呼吸。感じてくれている、そう思うとさらに福島を快感で追いつめたくなる。福島の吐き出す白を受け止め、飲みたい。
「気持ちいい……? でもまだイっちゃダメだよ、もっとしゃぶらせて」
 イカれている。自分でもそう思うが、これが愛だ。自分にはこうするしか、愛というものを表現できない。そう分かった途端、福島とのセックスは変わり始めた。これまではほぼ愛撫される一方だったが、自分の手でも福島に快感を与えたくなった。福島の全身を舐め、やがてこの身体を貫いてくれるものを自ら育てたい、そう思う。
 こんな自分にも、福島は眉をひそめることもなくつきあってくれる。誘って抱いておきながら、陰ではセックス依存症だの狂ってるだの言う人間もいたが、福島はそうではない。何人も寝る相手がいることも知っていて、気持ちが自分一人に向くのを待っていてくれた。
「それならアズマさんの顔見たいから、常夜灯だけでもつけていい?」
 アズマの髪をゆっくり撫でながら、福島。福島が言っていたが、おそらく二人ともどこか壊れている。どこか壊れている同士だから、身体も心もこんなに深く求めあえるのだろう。
「いいよ」
 福島のモノに下から上へと舌を這わせながら、アズマは答えた。福島がベッドヘッドに手を伸ばし、リモコンで部屋の常夜灯をつける。廊下の照明が差しこむだけだった部屋が、少しオレンジがかった闇に浮かび上がった。
 エレキギターとアコースティックギターが二本ずつ、壁際にスタンドに立てられて置かれている。どちらも思い入れのあるギターらしい。それにギターアンプ。それ以外の物は作りつけのクローゼットにしまわれ、ダブルベッドがあるだけの部屋。リビングはごちゃごちゃしているが、寝室には見える範囲にはギターしか置いていない。
「こういう暗い中で見るアズマさんの顔、すげえいいよね」
 福島は両手で優しくアズマの顔を包みこみ、少し上を向かせる。アズマは自分の想いまでも、すくい取られたような気がした。
 唾液で唇やあごがてらてらと光り、長いまつげの下で瞳が濡れている。そんなアズマを目を細めて見下ろす福島。身体の芯を震わせる視線。
「正直、自分のどこがいいのかよく分からないんだよね」
 アズマは想いをこめて、限界まで勃ち上がっている福島のモノの先端についばむようなキスを繰り返した。
「はっきり言っちゃうけど、無自覚なのが一番ヤバいよ」
 言葉とは裏腹に、福島はアズマの顔を包んだ指先でそっと撫でる。
「……そう、なんだ」
 きれいだきれいだと繰り返す、坂上の顔が一瞬浮かんだ。同時に憂いに飾られるアズマの顔。アズマは憂いを振り払いたくて、福島をすがるように上目遣いで見つめながら先端を口に含む。自分に愛というものを教えてくれた男の顔を、しっかりと見つめる。
「そんなに見ないでよ」
 福島は照れ、うれしそうに笑いながらアズマのうなじのあたりの髪を撫でる。福島の笑顔と優しい手の感触に、背筋がぞくぞくする。感じてしまう。アズマは口の奥深くまで福島の熱を迎え入れた。ぶるっ、と福島の身体が震える。
「ああ、やっぱ顔見ながらだとすげえくるわ。もうイっていい?」
 うわずる声に、アズマは微笑んだ。
「健介の飲みたいから、遠慮なく出して」
 そう言ってアズマはまた福島を深くくわえこみ、音を立ててしゃぶりながら根元を指で扱く。目を閉じ、夢中で福島のモノを愛撫するあごから、唾液がしたたり落ちる。
「ああ、出るっ……」
 福島が身体を震わせ、アズマの口の中に白を吐き出す。アズマは目を閉じたまま、なんの躊躇もなくそれを飲みこんだ。苦いが、なんだかうれしい。吐情した後のモノも丁寧にしゃぶってきれいにする。
「もういいよ、アズマさん。次はどうしたいの?」
 ぐっと口もとを拭うアズマに、福島の低く耳あたりのいい声が降る。
「服脱いで。あちこち舐めたいし、今度は顔に出して欲しい」
「えっ、次は俺の番でしょ?」
 さすがに福島は驚き、アズマに引き出したティッシュを差し出しながら首をかしげた。受け取ったティッシュで、雑に口の周りを拭うアズマ。
「俺のことは最後でいいから。今もぞくぞくしっぱなしで、それで充分気持ちいいから」
 そう、と言うと福島は少しアズマから離れ、裸になった。
「ならアズマさんも脱いでよ」
 いつの間にか秋も深まり、部屋は少し肌寒い。福島はリモコンで暖房をつけた。
「感じてるの、見せて」
 福島はいつも、とことんつきあおうとしてくれる。むしろ楽しんでいるようでもあった。どこまでも互いに溺れて、それでもなにくわぬ顔で生きていける強さが、福島にはある。
 アズマは恥ずかしそうに唇を噛みしめながら、福島の前で裸になった。白くほっそりとした身体の中心、腹につきそうなほど勃ち上がったモノの先端で、雫がきらめいてこぼれそうになっている。
「ホントだ、やらしいね」
 うれしそうに福島は笑い、ベッドに座ったままアズマを引き寄せた。
「お互い気持ちよくしようよ」
 抱きしめられて背中を撫でられただけで、びくりと反応するアズマの身体。福島はアズマをベッドに横たわらせると、自分は頭を下にしてアズマに覆いかぶさった。
「ほらどう、これで?」
 アズマのモノを、福島はそっと口に含む。これまでさんざん抱きあってきたが、やったことのない行為。妙に胸が高鳴る。
「ダメだって、俺すぐイキそう」
「いいんだよ、イって。俺にもアズマさんの飲ませてよ」
 今さらだが、あられもない格好で福島が自分のモノをしゃぶってくれている、それだけでアズマはやけに昂ぶってしまい、福島のモノをうまくくわえられない。
「ダメ、俺フェラできない……」
 アズマの声が聞こえていないのかわざと無視しているのか、福島は愛撫をやめない。たっぷりと唾液を絡めながら、いやらしい音を立ててアズマのモノをしゃぶる。肌を流れ落ちていく唾液が、最奥を濡らす。
 目の前には、興奮し育っていく福島の熱。それをくわえたくても、湧き上がる快感はもう限界だ。
「あ、イクっ……!」
 白を吸い上げる音がアズマの耳を打つ。さっき自分がしたように、達した後のモノをきれいにしてくれる福島の舌や指の感触。半分放心しながら、感じる。
「ごめん、うまくできなくて」
「最近前にも増して感じてくれて、俺はうれしいけど」
 アズマの身体の上からどいた福島は、ホントまずいよね、と口もとを拭いながら笑った。アズマは起き上がり、そんな福島にキスする。
 福島の苦い口中を舌でかき回し、そのまずさを共有する。福島とは、こういうふうに不幸も分かちあって、一緒に生きていける気がする。そんな想いは、イカれた頭が生む幻想だろうか。でもそれができることが、愛しているということではないか。
 長く濃厚なキスを終え、福島は本当に愛しそうにアズマの髪を撫でた。
「なにか飲んで、口直ししない?」
 福島の言葉にうなずくと、福島は部屋の明かりをつけた。全裸のままキッチンに行き缶チューハイを持って来て、一本をアズマに渡す。
「拓から連絡ない? 会うのはやめた方がいいからね?」
 二人並んでベッドに座り、毛布を腰から下にかけ、缶チューハイを飲みながら福島が言う。福島は本当に大事にしてくれる。我ながらイカれているとしか思えない、こんな自分を。
 まだ最終的な結論は出ていないらしいが、坂上とは解散の話もしたと、福島は言った。福島はアズマさんのせいじゃないから気に病まないで、と言ってくれたが、自分が二人と同時に関係を持った、それが大きな引き金になっているのは間違いない。
「着拒否もしたから、大丈夫」
 部屋の隅にあるビンテージのエレキギターを眺めながら、アズマは言った。着信拒否をしたのは本当だが、たぶん大丈夫ではないから嘘をついたことになるだろう。
 あのビンテージギターは、デビューが決まった時にかなり無理をして買ったと聞いている。俺とギターだけ、そんな空間で寝るのがいいんだと福島は言う。一生音楽をやっていきたいと願っている福島は、そうやって常に自分を奮い立たせているのだろうか。
 そんな福島と自分が一緒にいたら、邪魔をしてしまうのではないかと恐れを感じる。でも、離れたくはない。とことんつきあうと言ってくれる福島と、自分もとことん一緒にありたい。
「でも仕事にかこつけるとか、あるかも知れないから」
 さすがに福島は気が回る。まさに事務所を通じて坂上から、ツアーでやる曲のアレンジで相談に乗って欲しいと仕事として依頼が来ていた。
 福島に言われるまでもなく、口実だろう。アズマはどうやっても坂上が自分と会いたいなら、会って直接ケリをつけようと決めた。すでに福島と関係を持っていたのに、坂上からの誘いを断らなかった過去は、もうどうにもできない。だからせめてなんとか、自分でちゃんとこの問題を片づけたい。
「なんかあったら、すぐ言ってよ? あいつしつこいから」
 心配げな福島に、アズマは笑ってうなずいた。
「うん、大丈夫。ありがとう」
 笑顔でうなずき返し、ごくごくとチューハイを飲む、福島の喉仏の動き。福島を見ているだけで、なんだかほっとする。
「飲まないの? 酒じゃない方がよかった?」
「いや、ちょっと見とれてた」
 えっ、と喉に詰まったような声を出す福島。アズマが無言で首をかしげると、福島は照れたように笑った。
「俺、見とれるってルックスじゃないよ」
「なに言ってんの、ファンの子なんてみんな健介に見とれてるじゃん」
 福島は飲み終えた空き缶をベッドの足もとに置き、照れた表情のまま、まいったな、と小さくつぶやく。
「ファンの子とアズマさんじゃ、見とれるの意味が違うよ」
「好きとか愛してるって意味では、同じじゃないの?」
 まだよく、愛というものは分からない。ただ、これだけいろんな相手と寝てきて、部屋に入れようと思ったのは福島だけだったのも、前から福島には愛情を感じていたということなのかも知れない。本当に、気づくのが遅すぎる。
「まあ、そうだけど……」
 なにか言いたげな福島にぐっと近づき、アズマはしなやかにその身体に腕を回した。唇をふれあわせるだけのキス。
「さっきので終わりじゃないよね?」
 もちろん、という福島の言葉とともに、アズマの身体はベッドに沈んだ。
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