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第二部 虚構の楽園
25邪悪な微笑み①
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「すみません、貴方のココが凄すぎて……つい中で出しちゃいました」
ファルクの耳元での囁き声が遠く聞こえる。
ナシェルは全身の緊張を解き、ぐったりと伏した。何か暴言を吐きたかったが、気分が悪く、それどころではない。
手首の戒めが解かれるも、ファルクを殴りつけるほどの気力は出ない。
彼を冷たく一瞥し、ナシェルはそのまま目を閉じた。
とにかく一人になりたかった。
ファルクは頽れおちたナシェルの上に覆いかぶさり、王子の紅潮した頬にへばりつく黒髪を掻きとる。
「でも素晴しかったですよ殿下……。貴方を抱く快感を覚えてしまったら、誰もが虜になってしまいますね。こんなに高貴で清烈な美貌をお持ちでありながら……貴方の躯は陛下によって魔性の淫猥さを植えつけられてしまっているというわけだ」
「……」
放心を装い応えぬ王子の、眦に滲むのは汗か涙か…、その両方か。
長時間の性虐で王子の自尊心を蹂躙し完全に失墜させたことに、公爵は心から満足した。
「さあ、湯を浴びましょう。二人ともべとべとになってしまいましたからね。なんなら洗って差し上げましょうか?」
さらに湯屋へ促そうと伸ばされた手を、ナシェルは瞬時に払いのけた。己に求めぬ精を注いだ者への怒りと、自己嫌悪と、のぼりつめたあとの空虚感の狭間で、ナシェルの心は乱れていた。
「……触るな、もうたくさんだ……。約束のものを出せ」
「おや、さっきまではあんなに私の腕のなかでヨがっておられたのに、急に態度を変えるなんて。気紛れな方ですねぇ」
「……」
起き上がれと云うのは酷だなとファルクですら感じるほど、王子は疲弊しきった様子であり、命令口調とは裏腹にその表情からはいつもの尊大さと気高さは損なわれていた。
ファルクは高飛車な王子をこそ征服したかったのであり、もはや目的を達したあとの彼の脆弱な様は見るに絶えず、何ら興趣をそそられるものではなかった。
「ちょっとお疲れになったみたいですね。じゃあ少しお寝みになってから湯をお使いください」
ファルクは足元に乱れて丸まっていた掛布を引き上げナシェルの躯に被せた。
彼は唐突に、もうひとり客人を待たせていたのを思い出した。
寝室に付属するシャワー室で躯を洗い流した後でもういちど寝台を覗くと、ナシェルは疲れた心そのままに躯を折り曲げて寝入っており、やはり何か悪い夢でも見ているかのように眠りながら時おり貌を歪めているのだった。
達した直後に見せた脆さをかすかに残しつつも、その姿に英邁さが舞い戻っているのを認め、ファルクは満足げに微笑した。
美しき私の死神……、闇に属する神でありながら貴方様の放つ光彩は我々魔族には眩しすぎるのです。
傲然と孤独の王道を歩まれる陛下と、それに寄り添う貴方は、我々と同じ場所に生きていながら、いつも別の次元をその眼に映しておられるかのようだ。
ときにはこうして魔族の精を浴び、我々との距離を埋めることも必要ですよ……。
だから私に抱かれるたびに傷ついたふりなどするのはおやめなさい。
ファルクはナシェルの寝顔を盗み見ながら胸中でそう呼びかけた。
そして彼の枕元に『約束のもの』をそっと置いてから、居室を後にしたのであった。
ファルクは征服感と達成感に満たされながら、踊るような足取りで、もうひとりの客人を待たせている部屋に向かった。
それにしても、今日は千客万来だなぁ。とうとう私の時代が来たかな。
思わず口元がにやけてしまう。
客人の待つ部屋は、ナシェルと事に及んでいた寝室から数室をへだてて同階にあった。この階全体が領主の私的スペースで、召使も呼ばねば来ないほど完璧に人払いされている。
鼻歌交じりに扉を叩き入室すると、たちまち鋭い声が飛んできた。
「遅いよ!!」
円卓を囲む椅子に腰掛けていた客は、椅子を蹴立てて立ち上がり憤然と腕を組む。
「あ、すみません、殿下。ちょっと盛り上がっちゃって、つい貴方とのお約束を失念してしまいました」
「ふん、どうせ僕より兄上のほうが征服し甲斐があるとか思ってたんでしょ。僕が先に予約入れてたのに!」
ファルクの視線の先にいるのは髪を逆立てて怒っている第二王子エベール・サロニエルである。
公爵はなんと冥界の王子二人を二重予約していたのだった。
彼は飄々とした表情でいちおう人差し指を立てた。
「しぃーっ。壁を数枚へだてた先で、その兄君がお寝み中なんですよ。聞こえたらマズイでしょう」
「ふん! 聞こえるもんか。貴方にめちゃくちゃ突っ込まれて伸びちゃってる奴なんかに」
「……口が悪いところだけは兄君にそっくりですね」
「やめてよ! あれと一緒にするのは」
エベールは総毛立った。異母兄に対する嫌悪感は相変わらず根深いようだ。
ファルクは精一杯の微笑みとともに近づき、優雅な物腰で膝をついてエベール王子の手をとった。
「申し訳ありません、殿下……。ここから先は貴方様の時間ですよ。ほらね」
手の甲に唇を寄せ、そのまま滑らせた唇で人差し指をちゅっと吸い上げてやる。エベールは切ない声をあげた。
「あん……。もう! さっきまで兄上と鬼畜プレイで長々とヤリまくってたくせに。信じらんない。兄上が貴方にローソク垂らされて身も世もなく喘いでるとこだって、ばっちり、全部水晶玉で見てたんだからね」
見れば円卓の上にはエベールの水晶玉が載っていた。これで一部始終を覗かれていたようだ。
「それは、いやはや、お恥ずかしい……。でもあれをご覧になってたなら貴方もきっとうずうずしてるんじゃありませんか?」
「う……」
エベールは言葉につまった。図星のようだ。
「覗きをして興奮するとは、いけない子ですね。まさか見ながら自分でナニを処理したってことはないでしょうね?」
「し、してないよ、そんなこと……」
「ま、どっちにしてもそんなはしたない子には、お仕置きしてあげなきゃいけないな」
立ち上がったファルクはエベールの手を持ち上げて、指と指の付け根にしつこいキスの雨を降らせた。それだけでエベールは感じ入ったように身悶え、あっけなく寄りかかってくる。
「ああん……」
エベールは我慢強さを演じる異母兄とは正反対のタイプである。
ファルクの耳元での囁き声が遠く聞こえる。
ナシェルは全身の緊張を解き、ぐったりと伏した。何か暴言を吐きたかったが、気分が悪く、それどころではない。
手首の戒めが解かれるも、ファルクを殴りつけるほどの気力は出ない。
彼を冷たく一瞥し、ナシェルはそのまま目を閉じた。
とにかく一人になりたかった。
ファルクは頽れおちたナシェルの上に覆いかぶさり、王子の紅潮した頬にへばりつく黒髪を掻きとる。
「でも素晴しかったですよ殿下……。貴方を抱く快感を覚えてしまったら、誰もが虜になってしまいますね。こんなに高貴で清烈な美貌をお持ちでありながら……貴方の躯は陛下によって魔性の淫猥さを植えつけられてしまっているというわけだ」
「……」
放心を装い応えぬ王子の、眦に滲むのは汗か涙か…、その両方か。
長時間の性虐で王子の自尊心を蹂躙し完全に失墜させたことに、公爵は心から満足した。
「さあ、湯を浴びましょう。二人ともべとべとになってしまいましたからね。なんなら洗って差し上げましょうか?」
さらに湯屋へ促そうと伸ばされた手を、ナシェルは瞬時に払いのけた。己に求めぬ精を注いだ者への怒りと、自己嫌悪と、のぼりつめたあとの空虚感の狭間で、ナシェルの心は乱れていた。
「……触るな、もうたくさんだ……。約束のものを出せ」
「おや、さっきまではあんなに私の腕のなかでヨがっておられたのに、急に態度を変えるなんて。気紛れな方ですねぇ」
「……」
起き上がれと云うのは酷だなとファルクですら感じるほど、王子は疲弊しきった様子であり、命令口調とは裏腹にその表情からはいつもの尊大さと気高さは損なわれていた。
ファルクは高飛車な王子をこそ征服したかったのであり、もはや目的を達したあとの彼の脆弱な様は見るに絶えず、何ら興趣をそそられるものではなかった。
「ちょっとお疲れになったみたいですね。じゃあ少しお寝みになってから湯をお使いください」
ファルクは足元に乱れて丸まっていた掛布を引き上げナシェルの躯に被せた。
彼は唐突に、もうひとり客人を待たせていたのを思い出した。
寝室に付属するシャワー室で躯を洗い流した後でもういちど寝台を覗くと、ナシェルは疲れた心そのままに躯を折り曲げて寝入っており、やはり何か悪い夢でも見ているかのように眠りながら時おり貌を歪めているのだった。
達した直後に見せた脆さをかすかに残しつつも、その姿に英邁さが舞い戻っているのを認め、ファルクは満足げに微笑した。
美しき私の死神……、闇に属する神でありながら貴方様の放つ光彩は我々魔族には眩しすぎるのです。
傲然と孤独の王道を歩まれる陛下と、それに寄り添う貴方は、我々と同じ場所に生きていながら、いつも別の次元をその眼に映しておられるかのようだ。
ときにはこうして魔族の精を浴び、我々との距離を埋めることも必要ですよ……。
だから私に抱かれるたびに傷ついたふりなどするのはおやめなさい。
ファルクはナシェルの寝顔を盗み見ながら胸中でそう呼びかけた。
そして彼の枕元に『約束のもの』をそっと置いてから、居室を後にしたのであった。
ファルクは征服感と達成感に満たされながら、踊るような足取りで、もうひとりの客人を待たせている部屋に向かった。
それにしても、今日は千客万来だなぁ。とうとう私の時代が来たかな。
思わず口元がにやけてしまう。
客人の待つ部屋は、ナシェルと事に及んでいた寝室から数室をへだてて同階にあった。この階全体が領主の私的スペースで、召使も呼ばねば来ないほど完璧に人払いされている。
鼻歌交じりに扉を叩き入室すると、たちまち鋭い声が飛んできた。
「遅いよ!!」
円卓を囲む椅子に腰掛けていた客は、椅子を蹴立てて立ち上がり憤然と腕を組む。
「あ、すみません、殿下。ちょっと盛り上がっちゃって、つい貴方とのお約束を失念してしまいました」
「ふん、どうせ僕より兄上のほうが征服し甲斐があるとか思ってたんでしょ。僕が先に予約入れてたのに!」
ファルクの視線の先にいるのは髪を逆立てて怒っている第二王子エベール・サロニエルである。
公爵はなんと冥界の王子二人を二重予約していたのだった。
彼は飄々とした表情でいちおう人差し指を立てた。
「しぃーっ。壁を数枚へだてた先で、その兄君がお寝み中なんですよ。聞こえたらマズイでしょう」
「ふん! 聞こえるもんか。貴方にめちゃくちゃ突っ込まれて伸びちゃってる奴なんかに」
「……口が悪いところだけは兄君にそっくりですね」
「やめてよ! あれと一緒にするのは」
エベールは総毛立った。異母兄に対する嫌悪感は相変わらず根深いようだ。
ファルクは精一杯の微笑みとともに近づき、優雅な物腰で膝をついてエベール王子の手をとった。
「申し訳ありません、殿下……。ここから先は貴方様の時間ですよ。ほらね」
手の甲に唇を寄せ、そのまま滑らせた唇で人差し指をちゅっと吸い上げてやる。エベールは切ない声をあげた。
「あん……。もう! さっきまで兄上と鬼畜プレイで長々とヤリまくってたくせに。信じらんない。兄上が貴方にローソク垂らされて身も世もなく喘いでるとこだって、ばっちり、全部水晶玉で見てたんだからね」
見れば円卓の上にはエベールの水晶玉が載っていた。これで一部始終を覗かれていたようだ。
「それは、いやはや、お恥ずかしい……。でもあれをご覧になってたなら貴方もきっとうずうずしてるんじゃありませんか?」
「う……」
エベールは言葉につまった。図星のようだ。
「覗きをして興奮するとは、いけない子ですね。まさか見ながら自分でナニを処理したってことはないでしょうね?」
「し、してないよ、そんなこと……」
「ま、どっちにしてもそんなはしたない子には、お仕置きしてあげなきゃいけないな」
立ち上がったファルクはエベールの手を持ち上げて、指と指の付け根にしつこいキスの雨を降らせた。それだけでエベールは感じ入ったように身悶え、あっけなく寄りかかってくる。
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