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第四部 至高の奥園
21冥府神の系譜②
しおりを挟む「じゃあ継母上は、私を……転生するための道具にしたのですか?
私は……それじゃまるで馬鹿みたいだ。ひとりで本気になってセフィを愛したり、貴方がたの仲を勝手に嫉妬したり、あなたとセフィの間で揺れ動いたり、傷ついたり……!」
悄然と呟くナシェルを、冥王は横から掻き抱く。
「そうではない! そうではないのだよナシェル……。
王妃はそなたを愛していた。無論、今でもそうだ。
彼女が転生したのは、ルゥとしてそなたの傍らに存在しつづけるためなのだから」
「分かりません、そんなの……。信じられない」
ナシェルは王の腕の中で頑迷に首を振る。
「なら、どうして父上は最初からセファニアを、私の妻としなかったのですか!」
「――そんなことはできなかった。闇と死を司るそなたと交わればほどなく女神が死ぬと分かっていて、どうしてそなたに娶らせるなどと、そんな惨いことができようか!」
冥王の声は静かであったが、心の内の激情を表すようにかすかに震えた。
「言ったであろう。余との間に混血の娘をもうけて……いずれ成神後にそなたの妻とするつもりで、最初はセファニアを呼んだのだと。
――転生するとはいえ彼女がほどなく消滅すると分かっていて、そなたに『セファニアを妻とせよ、』などと命じることが余にできたと思うか?
……そなたを傷つけたくはなかった。愛した妻を己の神司で病に斃れさせ、看取らねばならぬ、あの衝撃と苦しみと悲しみをそなたに味わわせたくはなかった。
余が、ティアーナを見送ったときのように」
ああ、とナシェルは溜息を漏らす。
……父は父なりに己を、守ろうとしていたのか。
その部分には打算も計画も何もない……、ただただ己への愛があるだけだと、気付く。
鼻の奥にじわりとした痺れが奔る。
「……そなたとて、あらかじめ詳細を告げられたいか?
『そなたと交わればこの女神はほどなく消滅してしまうだろうが、気にせず子を作れ』などと余に命じられたかったか?
……そんなことを言われたら手も出せぬであろう。かといって余が詳しい説明もなしに妻などあてがったら、あのころ特に余に反発していたそなたのことだ、余計にどうなっていたか」
「………」
……それは父の言うとおりだ。父があるとき突然女神を連れてきて「そなたの妻とせよ」と言われたら、それは反発するだろう。父と自分のそれまでの関係から云っても、ありえない話だ。
ナシェルは冥王の腕の中で、でも、と鼻をすする。
「まだ、よく意味が分からない。あなたが黙って傍観しておられた理由も、継母上が転生などしなくてはならなかった理由もです。
セフィも高位神だったはずです。今思えば、ルゥのように結界を張って、疑似天のような世界を作って生き延びることも可能だったのではありませんか?
わざわざ冥界の血を入れて転生などしなくても、私はセファニアがいて下さるだけで良かった。継母上が微笑んで下されば、それで満足だったんです。なのに……」
「……それでは意味がないのだよ。セファニアが冥界に嫁いできた意味が」
冥王の声は囁くように穏やかだった。しかし話が核心に近づいているのだという証に、口調はゆっくりと低いものとなっていた。
「セフィが嫁いできた意味? ……あなたが孤独に耐えられなくなって、攫ってきたのだと思っていました……」
「余の孤独は、そなたがもう充分癒してくれていたよ。そうではないのだ。
余はね、ナシェル。この冥界に『神の系譜』を造り上げねばならなかった……。
セファニアをこの地に呼んだのはそのためだ。そして彼女が、そなたを媒体にして混血に転生したのも……、余がすべてを分かっていて黙っていたのも、そのためだ」
「か、神の……系譜……?」
意味を図りかねてうろたえるナシェルに、冥王は静かに頷いてみせた。
「それはね、ナシェル……余がそなたのために敷いてきた道の「最果て」にあるものだ。
そしてそなたが次の世代に残してゆかねばならぬものだとも云える」
「何です、……次の世代って!!」
ナシェルは弾かれたように王を見上げた。
王は瞼を閉ざし、諭すように続ける。
「……われわれ神は、この冥界を恒久の永きに渡り、三界の土台として維持してゆかねばならぬ。この冥界は人の命の還りつく場所、そして新たな生へと受け継がせるための浄化の地だからだ。
この世界の安寧が崩れれば、それは地上界にたちまち波及し、ゆくゆくは三界そのものを瓦解させることになる。
それは分かっているね?」
「……ええ、勿論です。そのために父上が天を追われてまで、ここを統治しておられるのでしょう」
「そう。……だがそうした恒久の使命を負っているにも関わらず、われわれ神という種族は不死ではない。
創世主は何の気紛れか、神である我々を不死の存在としては造られなかった。これも分かるね」
「……分かります。分かりますが父上、でも」
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