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第四部 至高の奥園
24悦楽の波間①※
しおりを挟む壁際の暖炉の炎は赤々と燃えあがり、灯りの少ない居室をほどよいぬくもりで満たしつつある。肌を晒されてももうそれほど寒さを感じることはない。
……露わになった肩に、胸に、這わされる滑らかな指と唇。
――だが、やがて王はナシェルの僅かな躊躇いを敏感に感じ取ったようだ。
「……まだ寒いか? 震えている」
「……父上、」
綾布の如き黒髪の上に寝かされたまま、ナシェルの発した声はわずかに、途方に暮れていた。
「その……この期に及んで何ですが……やはり先に湯殿に行かせてください……。
最後に体を清めたのがもう何時のことかも分からないぐらいで……。
貴方に触れられるのが、心苦しいのです」
「ふふ、何だ、そんなことか」
王ははじめ一笑に付した。それどころかそれこそ望むところだと云わんばかりに、ナシェルの肌の匂いを嗅ぐように唇を寄せてくる。そしてなおもたゆまぬ愛撫で彼の躯を占領しようとした。
「いや、いや。父上……お願いですから」
度重なる真剣な乞いを受け、王はとうとう方針を変えて体を起こした。
「……仕方ない。では湯殿へ参ろう……綺麗にしてあげる」
指を指にからめてナシェルの体を引き起こし、悄然としている彼を部屋付きの浴堂へ誘う。
ナシェルはさきほど服に手を掛けられてから急に、己の体がいかに穢されたかを思い出していたのだ。一刻も早く王の神司による浄化を必要としているのに、そもそも王の手が触れるに値せぬほど自分は汚れている、と思うととてもやりきれなかった。
手を借りねば湯殿へも移動できないほど、弱り切った体。
それを静かに湯船につからせたあと、王も己の着衣を解いて傍らに身を滑らせてくる。
一面、黒大理石の荘厳な湯殿。天井までもうもうと立ちこめる靄を、寝台と同じ天蓋の藍が吸い込んでゆく。
湯に混ぜられた滋養のための薬草で、湯船はほんのりと白灰に濁り、瀞んでいた。
さらには王の散らした蒼い花弁が浴槽中に漂い、甘い芳香を醸している。
こちらも疲れを癒す効果のものだった。
広くて円い浴槽の淵に、ナシェルは縋るように掴まって、乳白色の湯気に包まれたまま再び王の優しい口づけを受けた。
ナシェルの唇の奥で、互いの舌先を絡ませ合う。
一切の思考を奪う、蕩かすような口づけ。――全てのものから手を離して、溺れてしまいたい。
そうだ。存分に溺れてしまおう……もう何も、躊躇う理由も拒む理由も、ないのだから。
貴方が支えてくれる。私はただこの時だけは、貴方だけをよすがに、この波間を蕩う花びらの同類にでもなり果てよう。
混じりあう互いの唾液を入念に貪り合ったあと、ナシェルは王の肩にもたれて呟く。
「……父上」
「何だ?」
「……これまで貴方のしてきたことには全て意味があったのですね……。
もしかして、小さかった私を抱いたことにも……何か別の意味があったのですか……? 司を分け与える手段以外にも」
王は片肘を風呂の縁にかけ、指で己の顎を撫でた。自分で聞いておいて怯えたように答を待っている王子に、やわらかな苦笑を投げかける。紅瞳の奥には愉悦が漂っていた。
「そなたと余との繋がりに、愛以外のどんな理由が要るというのだ。
それともそなたは……ただ愛おしいと思う心にさえ、理由を求めるのか?
安心せよ、そこには隠された事実などない。
神格を上げるために司を分け与える必要があったというのは……それは余のそなたへの想いに比すれば、付随的な事情に過ぎぬ」
神司を与えるために抱いたのではない。愛おしさから抱いたのだと。
開き直ったように胸を逸らす王はそのとき眩しく、威厳に満ちていた。己の渇望を満たしてくれる普段の王がそこにはいた。
――何も理由などない。ただ一つ、愛以外には。……その言葉は真実、自分の求めていたものだとナシェルは気づく。
――嬉しいと思うのは変かもしれないけれど、……嬉しかった。
「どうした?」
「……いえ。何というかもう……いいです……貴方には敵わないと思っただけで」
「敵わぬと悟ったなら、もう無駄な足掻きはするものではないよ。そろそろ従順になることも覚えねばな」
「……はい」
王にぶつけた言葉の数々を思い起こし、ナシェルは目を伏せ、湯の中に隠れるように顔半分まで浸かる。
今宵は従順に……。素直になる覚悟が、やっとできていた。
「お利口にできたら後でたっぷり注いであげる。まずはそなたを清めてからだよ」
王は片腕でナシェルを引きよせ、浴槽に沈めた拭布でその象牙色の肌を清めはじめる。
まるで産湯につけるが如き手加減だった。
湯の中で体のそこかしこを撫でられて、もう早速、気が変になりかける。
柔らかい布越しに、乳輪をことさらゆっくりと嬲られた。
「あ、……ん……」
僅かに頬を上気させ、吐息を上ずらせ始めた王子の様子を観察しながら、王はそこ以外にも、これから苛もうという様々な部分を洗い清めてゆく。
脇腹や内腿など、弱く敏感な部分をこすり上げられる感触。
縁をつかむ指の力が思わず抜けてしまうほど。
全身が王の動きに共鳴する。
「あ………ぁっあ………」
ナシェルは身をよじり、息をとめてくすぐったさに耐える。放ったしどけない美声が、湯船をわたって浴室に響き渡った。
……やがてたっぷりと時間をかけて洗い終わると、王の指から拭布が手放されて、今度はじかに体に触れられる。
片手でナシェルの背を支え、典雅な指が、乳輪に沿ってまるく円を描いてゆく。
「愛らしい果実だ。まだ食すには少し小ぶりだね。だが色づきは良くなってきている。早く味わいたいよ……」
尖りはじめたつぼみを指先で紙縒りのように搾り、さらに膨らませてゆきながら、王は賛美の呟きを落とす。
王の手から放たれた布が、蒼い花びらをかきわけかなたへ漂流してゆく。
「ん……あ……ッ」
仰向かされたナシェルは風呂の縁から手を離さざるを得ず、掴まる場所を求めて父の首に手を廻した。
鏡に額をつけるが如く向きあい、双眸を絡ませ合う。
くりくりと指で揉まれ、充分に胸の果は熟していた。
「あっぁ……父上……早く……舐めて……」
そう愛らしい懇願をこぼすナシェルの白磁の肌は、湯にあてられてのぼせはじめたからなのか……それとも恥らいからなのか、ほんのり薄桃に色づいていた。細った上体を王に向け、柳の如くしならせ、媚びを売る。
強情さをかなぐり捨てた半身が、そうして淫猥な本性をさらけ出してせがむのを、王は喜ばしげに目を細めて観察する。
「可愛いよ……ナシェル……猥らな子だ……。
では言葉に甘えて……ひとつ味見しよう、」
焦らすように胸の尖りを入念に清めたあと、王はゆっくりとそこへ向けて唇を落としてきた。
そして熱く柔らかい舌全体を莟に圧しつけ、獣の毛繕いの如く舐めはじめる。
「ひぅ………っ」
身の毛が弥立つほどの快美に、内なる焔が溶け上がる。
ぞくりと躯を跳ねさせると、湯が漣のようにあふれて流出していった。
不思議なもので、胸の蕾と下肢の根茎はどんな神経で繋がっているのか……つぼみを嬲られれば嬲られるほど、下半身に感ずる疼きが高まってゆく。
ちゅ、ちゅ……と淫らな音を立ててむしゃぶり吸われた。
「あん………あぁ……父上……」
ナシェルが扇情的な声をあげはじめたのを聞き、王は胸に埋めていた顔を上げてにやりと笑む。
下肢の逼迫した昂りを悟ってもらえたようだ。
王は胸への舌啜を切り上げ、ナシェルの体を湯から半ば浮かせたかと思うと、尻の下に太腿を入れた。
正面から正対し湯船の中で抱き支えられる形となる。
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