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王子さまはごちそう?
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しおりを挟むしかし花たちは王子さまたちをすんなり帰すつもりはないようでした。
ケタケタと、奇妙な笑い声を上げながら、二人に向かって黄色い花粉をまきちらしてきたのです。
王子さまの前にいて、思い切り花粉を吸い込んだヴァニオンはよろよろと足をふらつかせ、その場にへたりこみました。
「ヴァニオン!どうしたの!?」
「吸い込……ねむ……」
「こんなところで寝ちゃだめだよ!」
「ナシェル、先に、逃げ……て……」
ヴァニオンはそう言うと、ぐうぐうといびきをかいて眠りはじめてしまいました。
「ヴァニオン!? 起きて」
揺り起こそうと服や腕をひっぱりましたが、ヴァニオンはもうぴくりとも動きません。……王子さまはどっと冷や汗が噴き出してくるのを感じました。
どうしよう。どうやったら二人とも助かるかな? 判断をまちがうと、ふたりとも食人花のエサになってしまいます。
ここはすぐに戻って、おとなたちを呼んでくるのが一番の良策でしょう。
けれどヴァニオンをここに置いていくのはあまりにも心配です。
ふと、頭の上を飛んでいるものに目がとまりました。
「そうだ!」
死の精たちがいるではありませんか! 王子さまは、ご自分にいつもくっついてくる精霊たちに聞いてみることにしました。
「精霊たち、今きた道を戻って誰か呼んできてくれない?」
王子さまにお仕えする死の精たちは答えました。
『でも主さま、我々には帰り道が分かりませんし、この花の出す匂いで通ってきた残り香も消えてしまいました。いったん離れたら、たぶんもう探せません。いま主さまから離れるわけにはいきません』
「そんなぁ…」
子どもの神さまが精霊たちを意のままにできないのは、まさにこれが理由なのでした。精霊たちは、神さまの「盾」の役割を果たしているのですから、幼いあるじの「あっち行ってて」とか「離れて」という命令は聞かないようになっているのです。精霊たちを呼んだり散らしたりと、完全に扱えるようになるのが一人前の神さまの証と言われていますが、王子さまにはあと数百年かかるでしょう。それまでは、精霊たちは王子さまの周りを絶対離れずにふわふわ漂って、護衛をしているのです。
「だめかぁ……いい案だとおもったのに。父さまみたいに精霊たちを使えたらよかったのになぁ!」
王子さまはしょんぼりと肩を落としました。
ええと……それならば、と王子さまは気持ちを切り替え、覚悟を決めます。
「道をあけて! じゃないと手足を刈り取っちゃうよ」
王子さまは短剣を横に一閃させ、周囲の草を斬り払いました。
葉先が宙を舞い、どこかから
「ぎゃあ!」
という悲鳴が聞こえました。
短剣の威力におびえたように、ずざざ、と周囲が割れてとたんに道が拓けましたけども、王子さまが一歩二歩と踏み出すと、また再び草が生い茂って道をふさぎました。
どうやら素直に森から出してもらうことはできないようです。
王子さまはぶん、ぶんと短剣で周囲を薙ぎ払いながら前に進もうとしました。けれども周囲の草がすぐに伸びてきて、取り囲まれてしまいます。
なんとか数歩進んで振り返ると、もう、眠りこけたヴァニオンの姿は見えなくなっていました。一人きりでは心ぼそく、彼を置いておとなを呼びにいくという決断に急に自信がなくなってきました。
「ヴァニオン! 一緒にここから出よう。起きて!」
王子さまが叫んだのは、ちょうど花たちが、こちらにむけてふたたび花粉をまき散らしたのと同じタイミングでした。
花の薫りが胸いっぱいに入って来、頭がくらくらしてきました。急激な眠気が襲ってきます。
王子さまは眠気と闘いながら、やみくもに短剣を振り回しました。気を抜けばウトウトしてしまいそうです。ふらついて方向転換したせいで、視界はぐるぐる。もうどちらから来たのか、どちらに進めばよいのかも分からなくなっていました。
「あわわ……?」
目印になりそうな、大きな立ち枯れの木があります。それを目指して進んでいくうちに、その大木の根っこでしょうか、地面が盛り上がっているところに足を取られて前のめりに転んでしまいました。
すると木の根っこの下には獣の巣のような穴ができていて、王子さまはちょうどすっぽりと、そこへ嵌まってしまったのです。しかも頭から。
その穴は、意外にもおとなの背丈ぐらいの深さがあったでしょうか? いいえ、もっと深いようです。穴底が見えないぐらいに……。王子さまはズザザ……ドサッ!と音を立てて、あたりの崩落とともに、木のウロの内部へ落ちました。
そしてあたまから落ちた衝撃なのか、眠気に抗えなかったのか……そのままそこで気を失ってしまったのでした。
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