11 / 18
シークレット9-3
しおりを挟む
「とりあえず、第一段階クリア、お疲れ様。雪」
本当は死んでなんかはいない。
生きている。
あれは、演技であり流れている血は血のりだ。
街の外れにある情報屋カフェ「縁」から依頼が入り、米田家に潜入したのである。依頼人が中学生ということもあって、断りきれなかった。
わがまま放題の愛梨とは違う。
依頼してきた二人の深く愛し合っている関係を、潰したくなかった。
何十年も続くのだから。
道を間違えないように、導くのも大人の役目だ。
死んだと見せかけたあの時。
雪美は屋敷にある牢屋に監禁されたが、懇意にしている情報屋に回収された。
本当は情報屋ではなく、琥珀に迎えに来てほしかっと雪美は桜色の唇をとがらせる。その様子に彼女はクスクスと笑う。
二人とも何というか、色気がだだ漏れである。琥珀と雪美に憧れている女性警察官は多い。
「まぁ、お疲れ様という意味も込めて飲もうよ」
雪美がビールを冷蔵庫から取り出す。かちり、と缶ビールで乾杯をする。
琥珀はできたと言って料理を机に並べた。
出来立てのパスタにアボガドのサラダ。
卵のスープ。
琥珀は料理担当だ。料理はできるものの掃除・洗濯が破滅的にできない。雪美がそれをフォローしていた。いい感じに分担はできている。
いただきます、と言って食べ始める。んー、美味しいと雪美が幸せそうな顔になる。もう一人の同僚の顔が浮かんできたが無視だ。
無視。
彼は真面目で仕事優先である。堅苦しい男に琥珀の料理の美味しさは理解できないだろう。同僚には悪いが、仕事を引き続き頑張ってもらうことにした。
いつも、頑張っているのだ。これぐらいは、許されるだろう。
今日はとことん琥珀と話そうではないか。
「雪はこの後、米田家に一旦戻る予定?」
「うん。そう」
「いいなぁ。そっちの方がおもしろそう」
「こーちゃん、仕事におもしろいも何もないよ」
「私はおもしろい方がいいな。だって規模が大きい分、やり甲斐があるじゃん」
「ーー確かに」
「雪は何で警察官になったの?」
「愛梨への復讐」
雪美はあっらかんと言い放った。
部活の仲間。
過去の恋人。
絵や読書感想文のコンクール。
ピアノの発表会。
全部、全部、愛梨が奪い去っていた。
手にしてきた。
そんな彼女を親は甘やかして、そのまま育ってしまった。蝶や花よと可愛がられて、人の気持ちが分からない子になってしまった。
これ以上は容赦はしない。
ようやく、訪れた復讐の機会。
種まいた花が咲きそうなのである。雪美としてはこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。築き上げてきたものの崩れる怖さを愛梨が知ればいい。
愛梨がこれまで、作り上げてきた世界。
そんなものなど、脆く儚いものだと教えてあげればいい。愛梨がボロボロになるほど叩き潰せればよかった。
これは、愛梨に対する雪美の挑戦状だ。 「姉」から「妹」への贈り物(プレゼント)。
プレゼントと挑戦状を受け取ってもらおうでないか。
早く、早く。
地獄に堕ちていく姿を見てみたい。
その姿を見た時は、どれだけの快楽なのだろうか。
ゾクゾクとしたものが走るに違いない。けれど、愛梨やみずきみたいに、快楽に飲み込まれることはない。こうして、やってくる激しい感情をコントロールできるように、訓練を受けているし、警察官の義務を放棄するなどもってのほかである。
絶対にしたくなかった。
この気持ちは変わることはなく、心の中でくすぶり続けている。
真っ赤に燃え上がる炎のように。
この燃え上がる炎は琥珀ですら気がついていない。雪美は炎を鎮火させるつもりなどなかった。そのため、激しく燃え続けている。これは、自分の中で秘めているようなものだろう。それに、やるとすればやると決めていた。
その意思を変えるつもりはない。
仲間に裏切られたとしても、離れていったとしても一人で戦うつもりでいた。
「意外だわ」
「意外かしら?」
「彼女には興味ないように見えたから」
「私はいつ愛梨をいつ倒すか、ずっと、狙っていたのよ」
「まさに、肉食動物みたいね」
「弱肉強食。そうでなければ、生き残れないわ」
「ーー雪美」
突然、琥珀が雪美の腕を引っ張った。彼女の腕の中にポスリ、とおさまる。
背中を宥めるようにポン、ポンと叩いた。
「琥珀?」
雪美は琥珀の腕の中で、瞳を瞬かせた。
そんなに、怖い顔をしていただろうか?
顔に出ていただろうか?
自分では分からない。
感受性が高い琥珀だからこその愛情表現。
大丈夫よ、と言いたいのだろう。私はここにいるよ、と言ってくれているのだろう。
だから、楽にしてねとのメッセージかもしれない。
「大丈夫。大丈夫。私はあなたの味方だよ」
「ねぇ、私に何かあっとしても、同僚兼親友出いてくれる?」
「当然よ。私の一番の親友兼同僚は雪美よ」
琥珀は力強く答える。
力説である。
雪美は思わず笑ってしまった。
「あっ、笑ったな」
「だって、ここまで力説されるとは思っていなかったから。私は幸せ者ね」
「そうよ。あなたは幸せ者よ」
その場の空気が明るくなる。
「ありがとう、琥珀」
「お礼を言うようなことじゃないわ」
「そうかもね」
ーー琥珀がいてくれてよかった。
雪美は小さく息を吐き出した。
本当は死んでなんかはいない。
生きている。
あれは、演技であり流れている血は血のりだ。
街の外れにある情報屋カフェ「縁」から依頼が入り、米田家に潜入したのである。依頼人が中学生ということもあって、断りきれなかった。
わがまま放題の愛梨とは違う。
依頼してきた二人の深く愛し合っている関係を、潰したくなかった。
何十年も続くのだから。
道を間違えないように、導くのも大人の役目だ。
死んだと見せかけたあの時。
雪美は屋敷にある牢屋に監禁されたが、懇意にしている情報屋に回収された。
本当は情報屋ではなく、琥珀に迎えに来てほしかっと雪美は桜色の唇をとがらせる。その様子に彼女はクスクスと笑う。
二人とも何というか、色気がだだ漏れである。琥珀と雪美に憧れている女性警察官は多い。
「まぁ、お疲れ様という意味も込めて飲もうよ」
雪美がビールを冷蔵庫から取り出す。かちり、と缶ビールで乾杯をする。
琥珀はできたと言って料理を机に並べた。
出来立てのパスタにアボガドのサラダ。
卵のスープ。
琥珀は料理担当だ。料理はできるものの掃除・洗濯が破滅的にできない。雪美がそれをフォローしていた。いい感じに分担はできている。
いただきます、と言って食べ始める。んー、美味しいと雪美が幸せそうな顔になる。もう一人の同僚の顔が浮かんできたが無視だ。
無視。
彼は真面目で仕事優先である。堅苦しい男に琥珀の料理の美味しさは理解できないだろう。同僚には悪いが、仕事を引き続き頑張ってもらうことにした。
いつも、頑張っているのだ。これぐらいは、許されるだろう。
今日はとことん琥珀と話そうではないか。
「雪はこの後、米田家に一旦戻る予定?」
「うん。そう」
「いいなぁ。そっちの方がおもしろそう」
「こーちゃん、仕事におもしろいも何もないよ」
「私はおもしろい方がいいな。だって規模が大きい分、やり甲斐があるじゃん」
「ーー確かに」
「雪は何で警察官になったの?」
「愛梨への復讐」
雪美はあっらかんと言い放った。
部活の仲間。
過去の恋人。
絵や読書感想文のコンクール。
ピアノの発表会。
全部、全部、愛梨が奪い去っていた。
手にしてきた。
そんな彼女を親は甘やかして、そのまま育ってしまった。蝶や花よと可愛がられて、人の気持ちが分からない子になってしまった。
これ以上は容赦はしない。
ようやく、訪れた復讐の機会。
種まいた花が咲きそうなのである。雪美としてはこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。築き上げてきたものの崩れる怖さを愛梨が知ればいい。
愛梨がこれまで、作り上げてきた世界。
そんなものなど、脆く儚いものだと教えてあげればいい。愛梨がボロボロになるほど叩き潰せればよかった。
これは、愛梨に対する雪美の挑戦状だ。 「姉」から「妹」への贈り物(プレゼント)。
プレゼントと挑戦状を受け取ってもらおうでないか。
早く、早く。
地獄に堕ちていく姿を見てみたい。
その姿を見た時は、どれだけの快楽なのだろうか。
ゾクゾクとしたものが走るに違いない。けれど、愛梨やみずきみたいに、快楽に飲み込まれることはない。こうして、やってくる激しい感情をコントロールできるように、訓練を受けているし、警察官の義務を放棄するなどもってのほかである。
絶対にしたくなかった。
この気持ちは変わることはなく、心の中でくすぶり続けている。
真っ赤に燃え上がる炎のように。
この燃え上がる炎は琥珀ですら気がついていない。雪美は炎を鎮火させるつもりなどなかった。そのため、激しく燃え続けている。これは、自分の中で秘めているようなものだろう。それに、やるとすればやると決めていた。
その意思を変えるつもりはない。
仲間に裏切られたとしても、離れていったとしても一人で戦うつもりでいた。
「意外だわ」
「意外かしら?」
「彼女には興味ないように見えたから」
「私はいつ愛梨をいつ倒すか、ずっと、狙っていたのよ」
「まさに、肉食動物みたいね」
「弱肉強食。そうでなければ、生き残れないわ」
「ーー雪美」
突然、琥珀が雪美の腕を引っ張った。彼女の腕の中にポスリ、とおさまる。
背中を宥めるようにポン、ポンと叩いた。
「琥珀?」
雪美は琥珀の腕の中で、瞳を瞬かせた。
そんなに、怖い顔をしていただろうか?
顔に出ていただろうか?
自分では分からない。
感受性が高い琥珀だからこその愛情表現。
大丈夫よ、と言いたいのだろう。私はここにいるよ、と言ってくれているのだろう。
だから、楽にしてねとのメッセージかもしれない。
「大丈夫。大丈夫。私はあなたの味方だよ」
「ねぇ、私に何かあっとしても、同僚兼親友出いてくれる?」
「当然よ。私の一番の親友兼同僚は雪美よ」
琥珀は力強く答える。
力説である。
雪美は思わず笑ってしまった。
「あっ、笑ったな」
「だって、ここまで力説されるとは思っていなかったから。私は幸せ者ね」
「そうよ。あなたは幸せ者よ」
その場の空気が明るくなる。
「ありがとう、琥珀」
「お礼を言うようなことじゃないわ」
「そうかもね」
ーー琥珀がいてくれてよかった。
雪美は小さく息を吐き出した。
0
あなたにおすすめの小説
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる