シークレット・ラブ

朝海

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シークレット9-3

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「とりあえず、第一段階クリア、お疲れ様。雪」
   本当は死んでなんかはいない。
  生きている。
   あれは、演技であり流れている血は血のりだ。
  街の外れにある情報屋カフェ「縁」から依頼が入り、米田家に潜入したのである。依頼人が中学生ということもあって、断りきれなかった。
  わがまま放題の愛梨とは違う。
依頼してきた二人の深く愛し合っている関係を、潰したくなかった。
   何十年も続くのだから。
   道を間違えないように、導くのも大人の役目だ。
   死んだと見せかけたあの時。

   雪美は屋敷にある牢屋に監禁されたが、懇意にしている情報屋に回収された。
   本当は情報屋ではなく、琥珀に迎えに来てほしかっと雪美は桜色の唇をとがらせる。その様子に彼女はクスクスと笑う。
  二人とも何というか、色気がだだ漏れである。琥珀と雪美に憧れている女性警察官は多い。

「まぁ、お疲れ様という意味も込めて飲もうよ」
  雪美がビールを冷蔵庫から取り出す。かちり、と缶ビールで乾杯をする。
  琥珀はできたと言って料理を机に並べた。        
  出来立てのパスタにアボガドのサラダ。        
  卵のスープ。                       

  琥珀は料理担当だ。料理はできるものの掃除・洗濯が破滅的にできない。雪美がそれをフォローしていた。いい感じに分担はできている。 
  いただきます、と言って食べ始める。んー、美味しいと雪美が幸せそうな顔になる。もう一人の同僚の顔が浮かんできたが無視だ。                   
無視。                     

  彼は真面目で仕事優先である。堅苦しい男に琥珀の料理の美味しさは理解できないだろう。同僚には悪いが、仕事を引き続き頑張ってもらうことにした。
いつも、頑張っているのだ。これぐらいは、許されるだろう。
今日はとことん琥珀と話そうではないか。
  
「雪はこの後、米田家に一旦戻る予定?」
「うん。そう」
「いいなぁ。そっちの方がおもしろそう」
「こーちゃん、仕事におもしろいも何もないよ」
「私はおもしろい方がいいな。だって規模が大きい分、やり甲斐があるじゃん」
「ーー確かに」
「雪は何で警察官になったの?」
「愛梨への復讐」
  雪美はあっらかんと言い放った。
  部活の仲間。
  過去の恋人。
  絵や読書感想文のコンクール。
 ピアノの発表会。

  全部、全部、愛梨が奪い去っていた。
  手にしてきた。
  そんな彼女を親は甘やかして、そのまま育ってしまった。蝶や花よと可愛がられて、人の気持ちが分からない子になってしまった。
  これ以上は容赦はしない。
  ようやく、訪れた復讐の機会。
  種まいた花が咲きそうなのである。雪美としてはこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。築き上げてきたものの崩れる怖さを愛梨が知ればいい。
  愛梨がこれまで、作り上げてきた世界。
  そんなものなど、脆く儚いものだと教えてあげればいい。愛梨がボロボロになるほど叩き潰せればよかった。

 これは、愛梨に対する雪美の挑戦状だ。 「姉」から「妹」への贈り物(プレゼント)。
プレゼントと挑戦状を受け取ってもらおうでないか。
 早く、早く。
 地獄に堕ちていく姿を見てみたい。
 その姿を見た時は、どれだけの快楽なのだろうか。
ゾクゾクとしたものが走るに違いない。けれど、愛梨やみずきみたいに、快楽に飲み込まれることはない。こうして、やってくる激しい感情をコントロールできるように、訓練を受けているし、警察官の義務を放棄するなどもってのほかである。
 絶対にしたくなかった。
 この気持ちは変わることはなく、心の中でくすぶり続けている。
 真っ赤に燃え上がる炎のように。
 この燃え上がる炎は琥珀ですら気がついていない。雪美は炎を鎮火させるつもりなどなかった。そのため、激しく燃え続けている。これは、自分の中で秘めているようなものだろう。それに、やるとすればやると決めていた。
 その意思を変えるつもりはない。
 仲間に裏切られたとしても、離れていったとしても一人で戦うつもりでいた。

「意外だわ」
「意外かしら?」
「彼女には興味ないように見えたから」
「私はいつ愛梨をいつ倒すか、ずっと、狙っていたのよ」
「まさに、肉食動物みたいね」
「弱肉強食。そうでなければ、生き残れないわ」
「ーー雪美」
 突然、琥珀が雪美の腕を引っ張った。彼女の腕の中にポスリ、とおさまる。
 背中を宥めるようにポン、ポンと叩いた。
「琥珀?」
 雪美は琥珀の腕の中で、瞳を瞬かせた。
 そんなに、怖い顔をしていただろうか?
 顔に出ていただろうか?
 自分では分からない。
 感受性が高い琥珀だからこその愛情表現。
 大丈夫よ、と言いたいのだろう。私はここにいるよ、と言ってくれているのだろう。
 だから、楽にしてねとのメッセージかもしれない。

「大丈夫。大丈夫。私はあなたの味方だよ」
「ねぇ、私に何かあっとしても、同僚兼親友出いてくれる?」
「当然よ。私の一番の親友兼同僚は雪美よ」
 琥珀は力強く答える。
 力説である。
 雪美は思わず笑ってしまった。
「あっ、笑ったな」
「だって、ここまで力説されるとは思っていなかったから。私は幸せ者ね」
「そうよ。あなたは幸せ者よ」
その場の空気が明るくなる。
「ありがとう、琥珀」
「お礼を言うようなことじゃないわ」
「そうかもね」
 ーー琥珀がいてくれてよかった。
 雪美は小さく息を吐き出した。





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