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第四章「再会、最後の詞(ことば)」
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「状況はどうだ?」
「今のところ変わりはありません」
葵は蓮にレーザー銃を受け取り、腰に装着した。茜と孝則が動きやすさを考えて発案した武器である。その武器開発の研究を、科学班が動きやすさを重視して完成させたものだった。
研究が引き継がれたとういうことは、茜と孝則は隊員たちに慕われていたのだろう。
持ち主である楓の気配を察知したのか――。
不意にブラッディ・ルージュがし涼やかな音をたてた。楓の手の中に戻ることを望んでいるはずである。
待ち望んでいるはずである。
早く楓に渡したかった。
『各隊員、戦闘準備に入れ』
耳につけているイヤホンから先発隊の声が聞こえてくる。爆発音がまじっていることから、すでに戦闘が開始されていた。カチャリとレーザー銃を構える。
「一つだけ、言わせてほしい。抜けたい者は帰ってもいい」
「私たちは最後まで付き合います。ここまで来て逃げることはしません」
家族・恋人――国民を守るために、ここに終結した。何があっても、見届けると決めている。それが、アンドロイド部隊に所属する者のプライドと誇りでもあった。
「それに、楓副隊長も含めて幸せになってほしい。今の私たちの願いです」
「お前たち」
「生き残りましょう――絶対に」
「五、四、三、二、一――撃て!」
蓮は息を吸って、お腹から号令を出した。レーザー銃で入り口を破壊する。パラパラとコンクリートの破片が落ちてきた。
ようやく、黒煙がはれて、視界が鮮明になってくる。
その向こう側には、田川冬樹の姿があった。
「アンドロイド研究施設にようこそ」
「田川冬樹だな?」
「知っていてくれたとは、光栄だな」
蓮と葵を認識した冬樹が立ち上がる。複数のナイフが向かってきた。それを、後方にいた隊員たちがレーザー銃で弾き飛ばす。
それでも、残ったナイフが壁や床に突き刺さっていく。
近距離が得意な者は、一息でアンドロイドたちを倒していく。
「お前たちは人間の命をどう思っている?」
「人間の命なんて、脆いものだと思ったよ。それに、作られた命なんて、気持ち悪いと考えているだろう?」
「作られた命でも立派な生命だわ」
「説教や理想論なんて嫌いだ」
そう言いながら、冬樹は武器を捨てた。先ほどの葵の言葉が胸に響いたからである。冬樹は降参と両手をあげた。レーザー銃の容赦ない攻撃を受けて、冬樹は足元から崩壊していく。
最初から戦うつもりなどなかったのかもしれない。
命を捨てるつもりだったのだろう。
冬樹はもう、武器を構成することはなかった。
これは、大和たちへの反逆だと言ってもいいだろう。
大和に殺されるよりも、自ら命を放棄した方がいいと考えたのか――。
楽になると思ったのか。
冬樹はまっすぐ蓮と葵を見つめる。
透明な瞳と――力強い眼差し。
静かで落ち着いた瞳だった。
その瞳は不思議と心と気持ちを安定させてくれる。
気分が穏やかになっていく。
こんな思いになるのは、初めてだった。
久しく感じたことがない感覚だった。
まるで、冬樹のことを一人の「人間」として見てくれているような思いになる。
冬樹はそのことに気がついた。
同情でも何でもない。
どちらにしろ、敵に向ける視線ではなかった。
この二人なら、上司の――大和の暴走を止めてくれる。
戦争を終わらせてくれるかもしれない。
冬樹は二人は一縷の希望を見いだす。
(変な奴ら)
味方として手を組めていたら――一緒に戦うことができていれば、きっと心を許していた。もっと、話をしてみたいという欲望にかられる。
できるなら――できるなら、この手を取りたかった。
ともに駆け抜けたかった。
だが、その願いが叶うことはない。
届くことはないだろう。
**********
「――田川」
「あんたたちにもっと早く出会いたかった」
「未来は変えられない。これは、あなたが選んだ未来だ」
蓮の言葉に冬樹の瞳が揺れた。本来なら、素直な性格なのだろう。今のような素顔を取り戻すまでどれだけもがいてきたのか――。
足掻いてきだのだろう。
記憶を奪われ――しがらみから抜けだすのに、どれだけの時間が過ぎていったのだろう。
「田川さん」
葵はしゃがみ込んで冬樹を抱きしめる。
「あなたはよく頑張った――よく頑張ったわ。だから、もういいの。戦わなくてもいいのよ」
「どうして、どうして――敵にそこまで優しくなれる?」
冬樹はポロポロと涙を流す。
自然に流れてきた涙だった。
「元は同じ人間同士だ――甘いと言われようと、俺はいつか、いつの日か――その手をとれる時が来ると思っている。信じている」
「お前たちの弟は地下牢だ」
冬樹は涙を拭う。
「厳しい訓練を受けているのよ。楓ならそろそろ脱出しているでしょう」
生きていることには、間違いないと葵は言いきる。
「羨ましい。信用しているのか?」
冬樹と大和の間に、信頼などなかった。切れそうな細い糸に、ぶらさがっていただけである。ただ、利用されていただけのだと――自分が犯した罪――過ちに気がついた時には遅かった。
遅すぎたのである。
手の施しようがなかった。
大和を止めることができずに、何もかもが狂っていった。
後戻りが出来なくなっていた。
「家族だから当然だ」
「もう少し、生きてみたかった。お前たちが作る未来を見てみたかった」
「――そうだろうな」
「お前たちに未来を託してもいいだろうか?」
そう思ったのは初めてのことだった。
全てから、解放された気持ちになる。
「ああ――俺たちが未来を変えていく」
「あなたの気持ちは忘れない」
「あり……う」
ゆっくりと冬樹の崩壊が始まった。
停止したアンドロイドがその場に残る。
彼が――冬樹が生きた『証』でもある。
蓮と葵は目を閉じて黙祷を捧げた。
「今のところ変わりはありません」
葵は蓮にレーザー銃を受け取り、腰に装着した。茜と孝則が動きやすさを考えて発案した武器である。その武器開発の研究を、科学班が動きやすさを重視して完成させたものだった。
研究が引き継がれたとういうことは、茜と孝則は隊員たちに慕われていたのだろう。
持ち主である楓の気配を察知したのか――。
不意にブラッディ・ルージュがし涼やかな音をたてた。楓の手の中に戻ることを望んでいるはずである。
待ち望んでいるはずである。
早く楓に渡したかった。
『各隊員、戦闘準備に入れ』
耳につけているイヤホンから先発隊の声が聞こえてくる。爆発音がまじっていることから、すでに戦闘が開始されていた。カチャリとレーザー銃を構える。
「一つだけ、言わせてほしい。抜けたい者は帰ってもいい」
「私たちは最後まで付き合います。ここまで来て逃げることはしません」
家族・恋人――国民を守るために、ここに終結した。何があっても、見届けると決めている。それが、アンドロイド部隊に所属する者のプライドと誇りでもあった。
「それに、楓副隊長も含めて幸せになってほしい。今の私たちの願いです」
「お前たち」
「生き残りましょう――絶対に」
「五、四、三、二、一――撃て!」
蓮は息を吸って、お腹から号令を出した。レーザー銃で入り口を破壊する。パラパラとコンクリートの破片が落ちてきた。
ようやく、黒煙がはれて、視界が鮮明になってくる。
その向こう側には、田川冬樹の姿があった。
「アンドロイド研究施設にようこそ」
「田川冬樹だな?」
「知っていてくれたとは、光栄だな」
蓮と葵を認識した冬樹が立ち上がる。複数のナイフが向かってきた。それを、後方にいた隊員たちがレーザー銃で弾き飛ばす。
それでも、残ったナイフが壁や床に突き刺さっていく。
近距離が得意な者は、一息でアンドロイドたちを倒していく。
「お前たちは人間の命をどう思っている?」
「人間の命なんて、脆いものだと思ったよ。それに、作られた命なんて、気持ち悪いと考えているだろう?」
「作られた命でも立派な生命だわ」
「説教や理想論なんて嫌いだ」
そう言いながら、冬樹は武器を捨てた。先ほどの葵の言葉が胸に響いたからである。冬樹は降参と両手をあげた。レーザー銃の容赦ない攻撃を受けて、冬樹は足元から崩壊していく。
最初から戦うつもりなどなかったのかもしれない。
命を捨てるつもりだったのだろう。
冬樹はもう、武器を構成することはなかった。
これは、大和たちへの反逆だと言ってもいいだろう。
大和に殺されるよりも、自ら命を放棄した方がいいと考えたのか――。
楽になると思ったのか。
冬樹はまっすぐ蓮と葵を見つめる。
透明な瞳と――力強い眼差し。
静かで落ち着いた瞳だった。
その瞳は不思議と心と気持ちを安定させてくれる。
気分が穏やかになっていく。
こんな思いになるのは、初めてだった。
久しく感じたことがない感覚だった。
まるで、冬樹のことを一人の「人間」として見てくれているような思いになる。
冬樹はそのことに気がついた。
同情でも何でもない。
どちらにしろ、敵に向ける視線ではなかった。
この二人なら、上司の――大和の暴走を止めてくれる。
戦争を終わらせてくれるかもしれない。
冬樹は二人は一縷の希望を見いだす。
(変な奴ら)
味方として手を組めていたら――一緒に戦うことができていれば、きっと心を許していた。もっと、話をしてみたいという欲望にかられる。
できるなら――できるなら、この手を取りたかった。
ともに駆け抜けたかった。
だが、その願いが叶うことはない。
届くことはないだろう。
**********
「――田川」
「あんたたちにもっと早く出会いたかった」
「未来は変えられない。これは、あなたが選んだ未来だ」
蓮の言葉に冬樹の瞳が揺れた。本来なら、素直な性格なのだろう。今のような素顔を取り戻すまでどれだけもがいてきたのか――。
足掻いてきだのだろう。
記憶を奪われ――しがらみから抜けだすのに、どれだけの時間が過ぎていったのだろう。
「田川さん」
葵はしゃがみ込んで冬樹を抱きしめる。
「あなたはよく頑張った――よく頑張ったわ。だから、もういいの。戦わなくてもいいのよ」
「どうして、どうして――敵にそこまで優しくなれる?」
冬樹はポロポロと涙を流す。
自然に流れてきた涙だった。
「元は同じ人間同士だ――甘いと言われようと、俺はいつか、いつの日か――その手をとれる時が来ると思っている。信じている」
「お前たちの弟は地下牢だ」
冬樹は涙を拭う。
「厳しい訓練を受けているのよ。楓ならそろそろ脱出しているでしょう」
生きていることには、間違いないと葵は言いきる。
「羨ましい。信用しているのか?」
冬樹と大和の間に、信頼などなかった。切れそうな細い糸に、ぶらさがっていただけである。ただ、利用されていただけのだと――自分が犯した罪――過ちに気がついた時には遅かった。
遅すぎたのである。
手の施しようがなかった。
大和を止めることができずに、何もかもが狂っていった。
後戻りが出来なくなっていた。
「家族だから当然だ」
「もう少し、生きてみたかった。お前たちが作る未来を見てみたかった」
「――そうだろうな」
「お前たちに未来を託してもいいだろうか?」
そう思ったのは初めてのことだった。
全てから、解放された気持ちになる。
「ああ――俺たちが未来を変えていく」
「あなたの気持ちは忘れない」
「あり……う」
ゆっくりと冬樹の崩壊が始まった。
停止したアンドロイドがその場に残る。
彼が――冬樹が生きた『証』でもある。
蓮と葵は目を閉じて黙祷を捧げた。
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