CHEAT~銃声が止んだら~

マド

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プロローグ:サナトリウムの庭にて

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 空と海に挟まれた場所に位置する陸地。山や谷あれど平地された地面。ほとんどの森林は切り開かれ巨大な都市が地を覆っていた。街には常に灯がともり、星空と月を失った地上にも残った木々があった。木々というほどは少なくないが、都市の広さに比べれば木々と言っても良いほどの範囲であった。その森林の中に隠されるように存在していた建物があった。養療施設「サナトリウム」。澄んだ空気と静寂さを求められるには都市から大分離れているために最適であった。いわゆるサナトリウムとは少し違い、都市では治せないようま病や心疾患を個人的に癒すために来る患者が多い。多少本当の患者が紛れている。
 日が頭上から少し傾いた2時、とある養療施設の庭に…カサリ。何かが動く音と影が。木陰から1人の少年が顔を出した。目の前をひらひらと飛ぶ蝶を追いかけて出てきたのだ。手を伸ばし自由に舞う羽を掴もうとした。しかし虚空に飛んでいき、少年はただ空を見つめていた。少しして、少年は庭を徘徊する。小さいが、静かでいい場所だ。真ん中に小さな噴水が、小鳥が木の上でうたっている。ベンチが二つほど設置され地には青々と茂り、均等に刈られた草。そしてその中に埋まる赤い本。……?埋まる赤い本?
「…………」
 少年はその本に触れ、手に取り何気なく表紙を開いた。大分古いようで、ページは古紙特有の色に変わり、脆く、粗末に扱えば破けてしまいそうだ。そしてそこに書かれているのは掠れた文字の羅列。

 ジュウセイハヤマナイ 
 シッコクノツバサハツミノアカシ
 
 ヤミニテヲサシノベルハジュウニノテ
 ムッツノイロ

 ソラハコクウ チハジゴク
 ソウゾウ ソウゾウ

 モトメシハ スイホウニキス

「…………」
掠れているのでおそらくの文章である。何の意味があるのだろうか。ページをめくっていくとまた文章があったが、劣化が酷くとても読めるもにではなかった。しかし最後のページに黒い羽が一枚挟まっていた。とても艶やかな、漆黒の羽が。

「………」

少年は一つ視線を感じて振り返った。サナトリウムに繋がるドアのところに1人の女が立っていた。するとそれに気づいたようで驚く顔を見せた。
「ごめんよ、盗みみる気はなかったんだ。何しているのか気になったのさ。君は?」
まだ若いようだ。入院着のようなものを着ていて、少し短めの髪で黙っていれば男と間違えそうなきりりとした、しかし優しい顔立ちをしている。おいで、と言いベンチに腰をかけ隣をぽんぽんと叩く。少年は無言で座った。
「君は迷子?」
「…姉さんがここにいるの。僕が住んでるとこ、ここから遠いから。夏休みの間、近くに泊まってる。」
「お姉さん、会いに行ってあげたら?」
「…動けないし、喋れないから。僕のこと、わかってるかもわかんない。」
「そっか…んでも、年上の兄姉は弟妹の顔が見たいもんだよ?少なくとも、私はね。」
 少し遠い目をした患者に少年は相変わらず前を見ていた。まるで弟か妹がいるような口ぶりだ。
「……その本は君の?」
ふと何かに気づいた女性が問いかける。何か懐かしい、けど思い出したくないものを見つけたような目で本に目をやる。
「ここにあったの。見て、この羽、きれい」
例の羽を患者に見せる少年。日が当たり黒く輝いている。患者はそれを手に取りじっと見つめていた。ありがとう、としばらくして返した。
 

 「君は、この世界は好き?」
沈黙を破ったのは患者の方であった。唐突で内容も少年には少し難しそうであるが。
「……まあまあかな。…空が見えないから。」
「空?」
「今は、おっきい建物とかが建って、電波の膜がそこらじゅうに張られてるから。頭が痛くなりそうだ。」
 素直に述べた少年。
「…君は、この世界が最初からこうだったと思うか?」
 光を反射して流れていく噴水の水を眺めながら患者が言った。
「ああ、つまり、何十年、何万年も昔からさ。そんな風に建物とかが建っててさ。食糧難回避法が制定されたのも、無限燃料ができたのも奇跡とかじゃなくて、決まってたものだと思う?最初から…決まってたものだと思う?」
余計に複雑になったような気がしなくもない。少年は少し考え答える。
「昔は"せんそう"があったんだよね?知ってる?街ではその事、もう誰も知らないんだよ。僕、なぜか生まれた時から知ってた。そんな事があったんだよって、知ってた。」
「…………そこには死があったんだよ」
突然患者がうつむき話し始めた。
「今のコンクリートの地面は瓦礫だらけでまともに歩けない。空は心なしか霞んで見えた。聴こえるのは街の音じゃなくて銃声と悲鳴さ。おっと、何だか押し付けるように喋っちゃったね。またやっちゃった。もう過ぎた事さ。」
「お姉さんは、軍人さん?」
「んん…まあ、ちょっと関わってたぐらいね。今はもう退役したよ。そうか…誰も知らない…。私たちの戦った時間は何も称えられないのか。…まあ、それならしょうがないね。君は知っていた。それだけで嬉しいよ。」
少年の頭を少し撫でた。
「……ねえ、その話、聞かせて。宿題、作文、終わってないし。ずっと1人で遊ぶのもつまんない」
「ん?戦った話?」
「僕が覚えていれば、お姉さん達の時間は無駄じゃない……?あれ、なんか変?」
少し驚いたように少年を見つめ、優しい顔に戻った患者。
「よし、じゃあ話そう。長いんだから、覚悟しな。」

空は快晴。

銃声は止んだ世界。

「あれは、私が軍人だった頃の事。」

歴史は巻き戻されていく。



これは、そんな一つの歴史の隅に取り残された世界の話。

さあ、はじまりはじまり
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