NightMare

マド

文字の大きさ
2 / 6

2・お城と黒いチェシャ猫

しおりを挟む

やっと意識を取り戻してきた。なんか声が聴こえた気がするけど…気のせいかな
「あ…」
 手紙通りいつの間にか手に見知らぬ鍵を握っていた。なんだろう…持ち手っていうのかな?その部分に私の髪飾りについている花と同じ花の形の水晶がついている。そのうちあのうさぎさんも来るのかな。
「お待たせ致しました」
 また気がつくとうさぎさんがいた。
「あの…名前は………」
「ああ…私は…そうですね、【時計のうさぎ】とでも呼んでください。あなたは?」
「私……メアっていいます。」
「それでは、改めましてメア殿、今回は御足労いただきありがとうございます。」
 そう言うと、大きな扉が現れた。お城とかについていそうな扉。
「その鍵で開けてください。」
 言われた通りに鍵穴に差し込む。すると、扉の隙間から光が射し込んだ。




「ん……」
  鼻をつく草のにおい。ここは扉の向こう……?
「さあ、ここがワンダーランドです。」
 少しまだ眩しくて閉じていた目を開けるとそこは…
最初は絵本の中かと思った。ワンダーランドというほどだからそうなのだろう。足元から一面に広がる緑の草原。左右には森が見え、真っ直ぐ遠くをよく見るとお城が見える。あれがアリスのお城だろうか。
「パーティーの準備が出来たら迎えに参ります。それまで、こちらの世界をお楽しみください。」
 そう言って消えてしまった。本当になんなんだろう…。
ま、どうこう言っててもしょうがいないし、と思っていたその時
「あっ」
「!?」
 暗い茶色のフードのついた羽織りをかぶった人がぶつかってこけてしまった。
「ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそ…」
 フードの中から見えた顔は…
 漆黒の闇夜のように黒い髪。雪のように白い肌。血のように赤い唇。
この人は……
「白雪姫…?」
「…………」
 彼女は立ち上がり一礼すると森の中に消えていった。
(なんか悪いこと言っちゃったかな…)
落ち込んでてもしょうがないし、私も森に行ってみることにした。

「おかしい……」
 森に入って大分経った。時計はないからわからないけど、少なくとも10分は経ったはず。それなのに、景色が全く変わらない。これが遭難ってやつなのだろうか。
「ヒヒヒ、迷ってるみたいだねぇw」
 何処からか声が聞こえてきた。人を馬鹿にするような笑い声。
「…誰?」
「さあて、誰だろうねぇ?」
 「………」
 無視して進もうとしたら、目の前を影が横切った。
「おいおい!何にも言わないでどっか行こうなんてすんなよ!」
 そう言うと、声の主であろう人物が現れた。
「…わ、今度は猫さんだ。」
「ん?これはまた変なお嬢さんだね。白い髪をして。」
 「あなたには負けると思うけど…」
 少し自信のない嫌味を含んで言う。相手も白い髪をしてるのも事実だし。それに、歪んだ黒い猫のようなパーカーを着ている。
「そりゃあごもっともかもね。ところでお嬢さん、こんなところで何してるの?」
 「時計を持ったうさぎさんにアリスっていう人のパーティーの招待状をもらったの。だから、パーティーの時間までこの世界を冒険しているの。」
 「へえ…時計を持ったうさぎさんねぇ……それ、今君の後ろにいるやつのことかい?」
「え?後ろ?…うわあっ!?」
 振り向くと、さっきまで話をしていたとけいうさぎさん…が、しかめっ面で立っていた。
「チェシャァ………」
「おっとw怖い怖い!んじゃ、俺はここらでおさらばっ!」
「あっ!待てっ」
 チェシャと呼ばれた彼(?)は、そう言って森の奥に消えていった。とけいうさぎさんは、大きなため息をついた。
「全くあいつは…」
「あの…今のは……」
「ああ、すいません。今のはチェシャ猫といって、…まあ、私の腐れ縁のようなものです。」
 こういうのって、だいたい仲良いけどね。まあ、初対面であれはびっくりしたけどね。
「じゃあ、チェシャ猫さんに会うためにここに…?」
「……!そうだ、あなたを呼びに来たんです。パーティーの準備が出来ました。さあ、お城まで行きましょう。パーティーについては道中お教え致します。」
 

城内につき、椅子に座らされた。とても広く天井が高いオーケストラのホールみたいな場所。ここがパーティー会場らしい。大きなテーブルを囲んで、私を含めてたくさんの人が座っている。でも…獣耳を生やした人や、魔法使いみたいな人もいる。そういえば、とけいうさぎさんはこちらの世界って言ってたし、出会ったところとは、やっぱり違うところなのかな…。そう考えていると、盛大なファンファーレが城内に鳴り響いた。
 「本日は、アリスお嬢様の13のパーティーへお越しいただき、ありがとうございます。」
 とけいうさぎさんらしき声が聞こえ、金髪碧眼の少女が何処からか出てきた。
「皆様、この世界の安泰と生活を支えてくださっているアリスお嬢様に盛大な拍手をお願いします!」
 そして拍手喝采が巻き起こる。もちろん私も拍手する。
「それでは、アリスお嬢様から一言お願いします。」
 マイクが少女の手に渡った。
「あーあー…えーっと……一言…?んーそうね…じゃあみんな、今日は楽しんでいってね」
 あまり面白くなさそうな顔をして、少女はそう言った。対照的にまた拍手が起こった。その時、少女と自分の目があった。少女は目を光らせこう言った。
「そこの白髪の人間、こちらへ」と手招きをした。
会場はざわついた。言われるがままに、その椅子の方へ向かう。
「あなたが人間…初めてみたわ。なんとも興味深いわね…。」
 そして、そっと耳打ちされた。
「(このパーティーが終わったら、うさぎの案内で私の部屋に来なさい。)」
「(え?そんな急に…)」
「さあみんな、今宵は楽しみなさい!」
そしてパーティーは始まった。


 お料理を食べたりそこで知り合った人(?)達とおしゃべりしているうちに、パーティーは終わった。意外と楽しかったけど…あの子に言われたことがまだ頭から離れない。やっぱり行かなきゃだめだよね…
「メア殿?お疲れのようですが…」
「あ…大丈夫です。ちょっとびっくりだったけど、楽しかった!」
「それはよかったです。では、お嬢様の部屋にご案内致します。」

 豪華絢爛の言葉が似合う廊下を進んでいき、一つの扉の前に案内された。
ノックをして部屋の中に入った。
「よく来たわね」
「あ…えっと……あなたは…」
戸惑いながら聞くと、笑い出した。
「あははっ!知らないで来ていたの?私はアリスよ。あの子が言わなかったのかしら。」
「いや…まさかとは思ってたけど…私はメアです。」
「へえ…メア……その髪飾り、似合ってるね。」
「え…ああ……ありがとう…」
 髪飾りとは、私が頭につけているリボンのことだろう。カチューシャに巻いた赤いリボンをつけている。左上にあの鍵と同じ白い花の飾りを付け、リボンの端に『Mare』と書いてある手製の髪飾りだ。
「さて、あなたをここに呼んだわけだけど…しばらくこの世界にいてほしの。」
 …この世界?じゃあやっぱりあの部屋とは違うの……?
「えっとね…私、面白いものが好きなの。人形はおしゃべり相手にならないの。でも、あなたは人間。しゃべるでしょ?」
 容姿のようにやっぱり幼い考えのようだ。あれ…?
「あのうさぎさんは?今日だっていっぱい人が来ていたよね…?その人達と喋ったらいいんじゃないの?」
「それもいいけど…私はあなたがいいの。この私が気に入ったのよ?喜ばないの?」
 これは……喜ぶべきなのか………別にいてもいいけれど…
「ああ、心配しないで。寝泊まりならこの城の部屋をあなたにあげるから。好きに使っていいし。それに、この世界にいるのは全員顔を合わせたことはあるし。」
 意をつくように言った後、アリスは椅子からたちこちらを向き
「じゃあよろしくね、メア!」
そう言って部屋から出て行った。途方に暮れていると、入れ違いにうさぎさんが入ってきた
「部屋を案内します。ついてきてください。」
 と言われ、仕方なくついて行った。
 
 しかし、案内された部屋はかなり広く、1人には広すぎるくらいだった。アリスの部屋よりほんのちょっと広い気がした。まあ家具と言えるのがベッドとショーケースとテーブルだけだしね。でもシャワールームも付いていてかなり快適に過ごせそう。
 うさぎさんが出て行って、シャワーを浴びてパジャマを着てベッドに入った。不思議なことにショーケースの中は、元の部屋と同じものが入っていた。便利といえば便利とかな?
 とりあえず明日は色々街を見てみよう……そう考えているとだんだん意識が薄れていった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...