虹の向こうの少年たち

十龍

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《62》

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 王宮はやはり人の気配がなかった。
 馬車から降りようとすると、なぜか王子が手を引いてくれた。
「いや、なに……、お前」
「え?」
 王子はにこにこしてジャロリーノの手を握る。
「……あのごっこ遊び、もう終了しているんだけど」
「うん! だからこれは正式なやつ」
「正式な」
 それから王子は妙に優しいエスコートをちょくちょく挟んできた。
 悪い気はしないが、居心地が悪い。
 ちらっとシンフォニーを見ると、きれいな笑顔のままついてきて、王子が通してくれた部屋につくとテーブルをセットして隣室に消えて行く。
 戻ってくると、近衛のジャケットを脱いでいた。代わりに動きやすそうなゆったりとした上着を来ていた。
「………………」
 装飾品もつけていない。
 まるでお世話役のいでたちだ。
 シンフォニーは手際よく食器を並べて行く。
「ではこれからお食事をお持ちします。デザートも用意しておりますので楽しみにしていてください」
「それは楽しみだ」
 王子はパッと笑顔になった。
「セルリアンの分もよろしくな。呼ぼう」
「かしこまりました」
 シンフォニーもにこやかになる。
「シンフォニーと一緒に食べるのはセルリアンも嬉しいだろう。窓際の机を使っていいから」
「ありがたき幸せ」
 シンフォニーはてきぱきと支度をしおえると、窓際の机に二つの椅子を用意すると、そこにも二人分の軽食を用意する。
 その様子を王子はニコニコと眺めていた。
「やっぱり兄弟は仲良くしないとな」
「…………、なんの話?」
「セルリアンとシンフォニーだよ。兄弟仲を取り持つのも主の役目ってね」
「……」
 シンフォニーは二つ並んだ椅子の片方に座る。
 もう片方は、誰もいない。
 少なくとも、ジャロリーノには、シンフォニー一人しか見えていない。
「うーん、ぎこちないなあ」
「……」
 シンフォニーは一人もくもくと食事をしている。
「セルリアンばかり話してる。話題も固いし。小さい頃に離れ離れになると、実の兄弟でも他人みたいになっちゃうのかなあ」
「…………」
 王子はなにを見ているのだろう。
 そしてシンフォニーは、なにをしているのだろう。
 シンフォニーはビスマスの特性に合致する能力を持っているらしいので、もしかしたら何かが見えているのかもしれない。
 なにも見えないジャロリーノには、 若干の恐怖があるだけだ。
 気にしてはいけない。
 王子の周りで起こる不思議な現象を気にしてはいけない。
 ジャロリーノはシンフォニーが用意してくれた軽食を食べ始めた。
「どう、けっこう美味しいよね」
 王子が聞いてきた。
「うん、美味しい」
「でしょう? ふふふ、シンフォニーが来てから良いことばっかりなんだよ。仲間も増えたんだ」
「……」
「まずセルリアンが来てくれたから、みんなが丸くなってきたんだよ。今まではずーっとイライラされてたんだ。みんなを見えるのは僕だけだからね。それが不満なんだよ。でもシンフォニーに引き寄せられたのか、セルリアンがはっきりと現れたんだよね。それでなんだか上手く行ってる」
「……」
「ジャロリーノにもチャコールがついたし、上手く行くよ」
 そのときだ。
 ピシリ。
 王子の水のグラスにヒビが入った。
「……」
「……」
「オルカ……、ほんとに上手くいってんのか?」
「………………、チャコールにもね、シンフォニーと同じような素質があればよかったんだけど……」
「チャコールにあいたい妖精さんがいるのか」
「妖精さんではないね」
「……ふうん」
「人には、必ず会いたいと思われてる存在があるんだよ。けどほとんどの人は気がつかないんだ。だから、気づける人に集まってくる。ジャロリーノの周りにもたくさんいるよ。ネイプルス王の周りにも。……アフタの周りには少ないんだけど、…………グロウ王の周りにはすっごくたくさんいる。あんまり良い思いをもった存在じゃなくて……、その気配が凄く強い。国王陛下が中和してるんだけど、……、」
「オルカ王太子殿下。そのお話しはその辺で」
 シンフォニーがテーブル脇に立つと、王子の話を止めた。
「ジャロリーノ殿下がお困りです」
「けれどジャロリーノには話しておかないといけないだろう? シンフォニーの代わりに僕のものになるんだから」
「……」
 シンフォニーは苦笑いを浮かべた。それまでの綺麗な笑みよりも、ずっと人間味のあるものだった。
 果たしてシンフォニーはどこまで話を聞いているのだろう。
「オルカ王太子殿下。ジャロリーノ殿下を私の代わりになど、不敬となりますから、それは通りませんよ」
「……」
 やはりそうなのか。
 では自分がオルカに抱かれたのはなんだったのか。
 込み上げてきた涙は流すことは出来ない。ジャロリーノは、この考えがあまりにも身勝手だと分かっているのだ。それに自分から抱かれたいと思ったのも事実であるし、オルカが相手で良かったと思っている。
 けれども、話が違う、そう叫びたい。
「通る通らないの段階はもう終わっているんだ。後はジャロリーノが生むだけなんだからね」
 シンフォニーの顔がピクリと動き、固まった。
「オルカ王太子殿下……。何をなさったのです?」
「セックス」
「オルカ!」
 ジャロリーノは叫んでいた。
「これでシンフォニーもジャロリーノとセックスできるよ。なんだか知らないけど、初めては躊躇してたんだよね」
 それから王子はジャロリーノを向いた。
「チャコールにも言いなよ? もう我慢しなくて良いからってさ」
 ジャロリーノは言葉が出なかった。いや、それだけでなく、なにも考えられなかった。
 シンフォニーに、知られてしまった。
 頭のなかがぐるぐる回っている。
 なんと思われただろう。シンフォニーになんて思われているのだろう。
「………………、王太子殿下。……そのような秘め事は他者のいる前で口にするものではありません」
「そうなのか? けれどジャロリーノと僕にとって、シンフォニーは共有する部分もあるだろう?」
「ジャロリーノ殿下、少しお休みになりましょう。さ、こちらへ」
 シンフォニーに手をさしのべられて、ジャロリーノは震えながら涙を流していたことに気がついた。
 分かったとたんに、しゃくりあげるように声が漏れた。
 ジャロリーノはシンフォニーに支えられながら別室に入り、カウチの上で唇を噛んだ。
 


 部屋に戻って来たシンフォニーに、オルカは文句を言った。
「シンフォニーが聞いてきたから答えたのに、怒るなんて理不尽じゃないか」
「あの場合は言葉を濁すものです。はっきり言ってはお相手を傷つけます。しかも女役となった相手ですよ」
「ジャロリーノは悦んでいたよ?」
「……なおさらですよ。その行為に意味を持たずに済んだならば、屈辱と怒り、もしくは仕事として割りきれますでしょう。しかしジャロリーノ殿下は違う。その行為に意味を見いだしていて、それを受け入れることに劣等感を持っている」
「つまり?」
「男でありながら、男に女のように扱われ、それを悦んでしまう自分を嫌っています。人に知られたくないと思っているし、口にするのも恐ろしいでしょう」
「でもジャロリーノとシンフォニーはほとんどセックスしたようなものだよね?」
「オルカ王太子殿下。そのような発言ですよ、お気をつけください」
「……うーん、分かんないや……」
「……ところで、話を戻してよろしいですか?」
「なんだよ」
「ジャロリーノ殿下に、なにをなさいましたか? セックスで」
「んー?」
 オルカはにんまりと笑った。
「種付け?」
「……」
「気持ち良かったあ」
「……。中に出した、……だけですよね?」
「ふふっ」
 んーん。と、にんまりしたままオルカは首を振る。
「……まさか……、なんの準備もせずに……」
「うん。僕の気をたっぷり注いだんだ。……はあ、スゴかったあ。あんなの初めてだよ。全部飲み干されちゃうかと思った! ごくごくごくって、中がうねって、僕を飲み込んでいって……。今しかない! って、夢中で出した!」
 思い出してオルカはうっとりとした。
「あー、だめだ。また、やりたくなってきちゃった。……ビスマスは性に強いってのは、このせいだよね。どーしよー、あー、んー……」
「本日は神歌の奉納はすまされましたか?」
「ん、ま、だ……」
「では、王太子殿下もジャロリーノ殿下も、どちらも準備不十分でありながら神作りをしたわけですね?」
「んー、だいじょーぶだよ、ジャロリーノなら……、あー……、やりたい」
「霊体が整ってない状態での神作りは危険だという話では?」
 だからまだ私とは性交に及んでいないはず。
 シンフォニーは冷や汗を流した。
 王家の気、妖精や精霊の種を受け入れる為には、それらを宿し育むための霊体の形を整える必要がある。
 自分の魂や霊体、気とは異質のものを受け入れるのだ。それは大変な苦痛らしいのだ。
 そして自分の気と交わり、更なる異質なものが体の中で渦を巻くように生まれ、時には増殖し、一気に放出しなければならない。
 気や霊体、魂は肉体と繋がっている。
 肉体にも変調が現れる。
「……ジャロリーノ……、……、あれだよね、……レイプされまくってから、体がセックスしないとだめになってるよね……」
「王太子殿下……」
「じゃあさ、まだできるよね……あと……二回……三回くらい」
「殿下……。神歌を終えてください。そのあと、神官と交わってください」
「……ジャロがいい……」
「ジャロリーノ殿下は、今日は無理ですよ」
「……そっか、明日、明日……やる、約束だから……」
 諦めたかと思ったが、王子は一度テーブルに伏し、その直後立ち上がってどこかに走り出しそうになったのでシンフォニーは後ろの襟首を掴んで止めた。
「ああ! もう! ほんと勘が良いなあ!」
「王子が分かりやすすぎるんですよ」
「あー! 王太子殿下じゃなくて王子って呼んだ!」
「はいはい、すみませんね。ジャロリーノ殿下の部屋に行きたいなら神歌くらい全部読んでからにしてください」
「うう……。そう言って、自分がジャロリーノとイチャイチャしたいだけだろ」
「お許しが出たので行って参ります」
 シンフォニーは王子を勉強机に向かわせると、ジャロリーノがいる部屋の前に立った。
「……」
 愛しのジャロリーノ殿下がオルカ王太子と結ばれてしまったのは確かにショックだった。
 えー、あー、そーなの? ほんとー? 信じたくないー、と延々と唱えたいくらいだ。
 しかしそれよりも、王太子が何気なく放った言葉に、よりショックを受けた。
 レイプされまくってから、体がセックスしないとだめになってる。
 やはりそうだったのかと納得するのと同時に、涙が出そうだった。
 悔しさ、悲しさ、憤り、さまざまな感情がシンフォニーの中で荒れ海のようにぶつかり合っていた。
「……ジャロリーノ殿下……失礼します」
 シンフォニーはいつもの声を意識して、ドア越しに声をかける。
 部屋に入れば、ジャロリーノはカウチの上で膝を抱いて泣いていた。
 目の縁は真っ赤。ほほも濡れ、少し赤く荒れ始めている。
 シンフォニーは何も言わずに横に座るとジャロリーノの肩を抱き寄せた。
 もしもあの時、自分が付き奴隷に選ばれていて、一緒に王宮にいたら、事態は変わっていただろうか。
 それとも兄のように殺されていただろうか。
 考えてもしかたがないことだ。そう分かっていても悔やまれる。
「……王太子殿下はデリカシーが無いですね」
「……ほんとだよ、最悪」
 鼻を啜りながらも、ちょっとだけ強気な口調で返事が来た。
「もうちょっとパートナーに対するエレガントを教えておきます」
「……別にパートナーじゃないかならな。……そんなの聞く気ないんじゃないかな」
「……え。パートナーじゃないんですか……?」
 恋人のような関係になったわけではないのか。それは世間体的によろしくない。もしくは王太子だけがパートナーと捉えていて、ジャロリーノはそのつもりがないだけなのだろうか。
「……付き合ってるわけでは……?」
「ない」
「……」
「恋人作るなら自由していいってさ。けど、定期的にセックスするのはちゃんと理解させとけって」
 許されるならば、シンフォニーは額に手を当てて大きなため息をついたあとに空笑いし「あのアホ」と吐き捨てたかった。許されるならば。
「……ま、オルカはオルカで頑張ってソレっぽく振る舞ってるし……」
 あの通り一辺倒のエスコートのことだろうか。たしかに王太子にしてみれば頑張った方だが、あれは姫への振る舞いであり王子への振る舞いではない。
 王太子にとっては「生む側」てあるジャロリーノは、まさしく姫なのかもしれないが、周りはそうは見ないだろう。
 ジャロリーノはオーカー王太子の「オンナ」か、そうカテゴライズするだけだ。
 ジャロリーノの王子としての尊厳は奪われる。
「……対等なお付き合いは、されるおつもりではないのですか。もしもジャロリーノ様が望むなら、王太子殿下に……進言いたしますよ」
「……それって……王子が……彼氏になるってこと?」
「はい」
 するとジャロリーノは勢いよく首を横に振った。
「無い無い無い! それは無いって! あいつとはそうはならないって!」
「そ、そうなのですか……?」
「……うん。……そうは……なんないと、……思う……」
 ジャロリーノは寂しそうに膝の上に顔をのせた。
 ではジャロリーノは誰と恋人になりたいのだろうか。
 恋敵は王太子ではなかった。シンフォニーは残念でならなかった。いや、王太子であれば、ジャロリーノを取られてもよいということではない。王太子ならば、自分が口出しをできる相手ではない、諦められる。そのような意味だ。
 王太子ならば、嫉妬はしない。
 しかし他の相手ならばそうはいかない気がするのだ。
 シンフォニーはふと視線を感じてジャロリーノを見た。
 すると艶やかなオリーブの瞳と目があって、すぐに反らされた。
「……ジャロリーノ様……、なにか仰りたいなら伺いますよ? 私は王太子殿下の近衛であり、神官奴隷ではありますが、ジャロリーノ様の付き奴隷なのですから」
「……」
「……、気分転換にお散歩などされますか?」
「……いや、いい」
「そうですか」
「………………、あのさ」
「はい」
「その……俺、オルカとさ、……ヤっちゃったんだけど……、……け……軽蔑する……?」
「え?」
「……最低? 男に、しかもオルカにヤられちゃって、…………、ヤっちゃって……、もうほんとにほんとーに、キレイではなくなっちゃって、しかも、相手はオルカで」
「王太子殿下のこと、お嫌いでしたか?」
「そうじゃない!」
 ジャロリーノは叫んで、すぐにしゅんとした。
「だって、……オルカだぞ……?」
「身分は釣り合いが取れておりますが」
「そうじゃなくて! オルカは……、年下で……いつも、……俺やアフタの後について回ってたような、……なんていうか、弟分だったのに、……、そいつに、あんな……風に……されて、……その、……何度も…………、よくて、……あんな風に……」
 シンフォニーは、あー、という声を出すのを堪えた。あーと言いながら天井を仰ぐのを堪えた。
「俺、ほんと、……最低…………、最悪……」
「…………」
「シンフォニーに……会いに来たはずだったのに、……なんでオルカとヤっちゃったんだろ……」
 よく分からないが、それを聞いたシンフォニーは頭のなかで祝福の鐘を聞いた気がした。
 よく分からないが、シンフォニーは天にも昇る気持ちだった。
 私に会いに来てくれたんですか。
 王太子殿下との行為に罪悪感を感じる理由に、私も入っているんですか。
 私が。
「……私としては、王太子殿下が初めてのお相手というのは、これ以上ない選択だと思いますよ」
「……それはそうなんだけど……」
 どうやらその点はご自分でも納得しているらしい。
 問題は自分の貞操の無さだろうか。
 シンフォニーはあまり詳細を知らないが、考えるにジャロリーノは性的な精神疾患にあたる。依存症か、脅迫症。もしくは別の、たとえばホルモン異常からのなにか。
 治療させるか、周囲を病に合わせるか。
 ジャロリーノには恐らく後者を選択された。
 人形のようになりながら、周りから異常なまでに愛されてきた。慈しまれてきた。
 人形ではなくなってしまったので、認識と現状に解離が起きている。
「…………、オルカにも軽蔑されて、捨てられたらどうしよう……。汚いって思われてないかなあ……」
「思ってないですよ」
 思っているわけがない。
「それに王太子殿下の場合、ちょっとエッチな相手がピッタリだと」
「やっぱり俺エッチなのか」
「はい。良い意味で。それに、私も……エッチなジャロリーノ様が……大好きです」
 するとジャロリーノの顔がみるみるうちに真っ赤になっていったので、シンフォニーもなんだか頭のなかのなにかが高速回転しているような、いてもたってもいられない興奮状態になった。
 初めてが奪われたので、最後までセックスできる。
 腕のなかにあるジャロリーノの存在がより熱くなった。
「……、あの、ジャロリーノ様……」
「……」
 ジャロリーノがチラチラとシンフォニーを見てくる。
 そして恥ずかしそうに視線を泳がせる。
 シンフォニーはゴクリと息を飲んだ。
 今なら……、

 ここはビスマスの領域である。

 いきなり扉が音を立ててあいた。普通の音ではない、何かを叩き割るようなおかしな音で、そして部屋にある扉という扉全てがいっせいに開いたのだ。
 シンフォニーは驚き、腕の中のジャロリーノはヒイッと悲鳴を上げてシンフォニーにしがみついた。
 扉の城と言わしめる城。部屋には無意味な飾りドアもあるが、それさえも開き、家鳴りが続いている。
「うるさいなあ」
 王太子がドアの一つから顔を出した。
「シンフォニー、今ジャロリーノにやましい気持ちをもったろ」
「な! そんな訳……無いとは言えませんね」
 正直に言えば、むしろ押し倒したかった。その流れに持っていってやろうと思った瞬間だった。
「そのジャロリーノにたいしては欲望に忠実なのはどうかと思うってさ」
「……」
「な、な、なに。二人してなんの話してんだよ」
 ジャロリーノだけが状況が分からずに腕の中で震えていた。可愛い。
 シンフォニーはたまらず抱き締めた。
 シャンデリアからなにか変な音がしたような気がしたが、シンフォニーにはどうでも良かった。
「シンフォニーはさ、自分の能力を操れないんだからもう少し動じたほうがいいと思うんだよね」
 王太子がドアを閉めて行く。シンフォニーはジャロリーノにキスをしては抱き締めて、そのままなしくずしに押し倒して首筋に顔を埋めて、堪らなくなって顔をグリグリ押し付けて、やっぱりキスをたくさんした。
 ジャロリーノはビックリしているようで、体も顔も硬直させてされるがままになっている。
 可愛い。
 大好き。
「ジャロリーノ様、大好きです」
 枕元のランプがなにかに叩き飛ばされたように飛び、割れた。
「なに! なに! なにが起こってるんだ!」
「それシンフォニーが片付けるんだからな」
「もちろんでございます、王太子殿下」
「そして、次は僕が挿れるから。順番だよ、順番。抜かずに二発目はズルだからな」
「よろしいんですか」
「ジャロリーノはシンフォニーに抱いてもらいたいから僕に抱かれたみたいなもんだよ」
「え、まって、まって、なに、何が始まるの? え?」
 ジャロリーノは流れについてこれていないようだった。
 王太子殿下の許可がおりたのでこれからセックスしちゃうんですよ、とルンルン気分で言いたかったが、その王太子が耳元で冷たく囁いた。
「言っとくけど、この部屋にはお前の体を乗っ取るのを虎視眈々と狙ってるやつらで一杯だよ?」
「………………」
「行為の最中に、別人になるかもよ、お前」
「………………、憑依が成功したことはございませんが……これまで、一度も」
「お前が呼び寄せと口寄せができてなかっただけで、今は呼び寄せも口寄せしてなくても、隙あらばお前のなかに入ってやろうっていう憑依する気満々のやつらしかいないよ」
「…………」
「もしくはお前の心臓を内側から握りつぶそうっていうやつ」
「…………。ジャロリーノ様、すみませんでした。あまりにも可愛らしく怯えるので、つい」
「このまま三人でセックスしようかと思ったんだ。ちゃんと本も読み終わったしね」
「オーカー王太子殿下」
 こらっ! の意味でシンフォニーは名前を呼んだ。
「え、あ……、そ、そうなんだ……」
「ジャロリーノ様、そんなつもりはありませんからね。ご安心ください」
 ただ、可愛くて、可愛くて、可愛くてもう我慢ができないくらい、ああ、もう。
 押し倒して食べちゃいたい。
「あ……、そう……か、……しないのか……」
 ジャロリーノが悲しそうに視線を下げ、震えながら指を噛んだので、シンフォニーはもう別人になっても心臓破裂しても構わないと思った。
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