窓辺のかわいいヒナギク

これってもしかしてやらかした話？

「じゃあ、ちょっと1口…。」
…うわぁ。不味い。凄い…癖が…。
「ははははは、やっぱり、まずいかな。」
俺の顰めた顔を見るなり大笑いし始めた。
「わ、わりぃ…高ぇ酒不味そうに飲んで…。」
「いや、いいんだ。そうなるだろうなとは思っていたからね。まぁ、ちょっと待っててくれ。」
おじさんはそう言って、キッチンに消えて何かを作り始めた。
冷蔵庫を開けたり、何かを注ぐ音がして、しばらくして、ガラスコップを持って帰ってきた。
「せっかくだからね。これなら飲みやすいだろう。」
「…？」
コップを手渡される。
「…あ？…コーラじゃねぇか。」
不服そうな顔をわざとして、がっと勢いよく飲んだ。
「…うわっ、これ……コークハイか！」
鼻腔にツンと刺激が広がり、アルコールが喉に染みていく。
「そんなには入れてないけど、一応ウイスキーだ。さっきのじゃないけどね。」
「ありがと。うめぇ。」
この味は俺がよく知ってる味だ。
おじさんになっても飲むんだな、これ。
俺は甘くしなきゃ飲まねぇから、コーラにウイスキーか、いちごミルクに日本酒入れて飲むのが大抵だ。
いちごミルクに日本酒はマジで美味いのに誰も真似しないし、飲む度にやにやされたので、人前ではやらないようになった。
「……っはぁ。」
「おお、飲みっぷりがいいな。もう飲み切ったのか。」
「おれは別に弱くない。自分で作ってもいいか。」
「お、おお。台所に置いてある。好きに使っていい。」
おじさんが作ってくれたコークハイは良心的で、健康的だったが、やっぱり俺は1:1に限る。
キッチンに行って、ボトルを2本掴んでどかっと座り、コップに注いだ。
それを見ていたおじさんが少し目を見開いた。
「…陽花くん、君そんな飲み方してるのか、いつも。…まあ、俺も人のことは言えないが、飲みすぎには気をつけろよ？」
「大丈夫、おれは吐かねぇ。」
「基準がそこなのか…。」
苦笑いをするおじさんを横目に、俺は特製コークハイを飲んだ。
「なんかゲームしようぜ。おじさんもってるか、なんか。」
「なんかなんかってそんなもの……あ、いや、あったか？」
おじさんは心当たりがあるようで、テレビ下の引き出しを漁り始めた。
「お、あったあった。」
テレビ裏をいじったあと、おじさんはコントローラーを渡してきた。
「少し前に貰ったやつだ。古い機種だし、レーシングゲームしかないが、まあ十分だろう。」
「おお、なついな。おれ、これはかなりやりこんだ。」
見慣れたソフトのパッケージを見てそう言った。最後にやったのは高校生…いや中学生の頃か。
「本当か。俺は結局遊んだことがなくてね。お手柔らかに頼むよ。」
そう言って俺とおじさんは並びあってスタートボタンを押した。

ゲームは予想以上に盛り上がった。
おじさんは半端なくへたくそで、物凄い勢いでコースアウトばかりしていた。
ゴール手前、せっかくロケットになり速くなれるアイテムをゲットしても、何故か急に逆走し、俺とマッハですれ違った。わけがわからない。
そんな訳で、ゲラゲラ笑いながら余裕でプレイしていた俺はいつも以上に酒が進んだ。
ウイスキーは一本空け、追加でビールものんだ。
うん…。とっても…きもちいいきぶんだ。
うへえ。



＿＿＿朝、目が覚めた時にはベッドにいて、１５連勝したあとの記憶が飛んでいた。
思い出せない。
でも、思い出したい。
……俺はおじさんを背後から抱き枕のように抱きしめていた。デジャブだ。
さらに衝撃的だったことがある。
おじさんの首には歯形が残っていた。
え……俺！？
俺は寝起き早々、パニックになっていた。