純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ

奏音 美都

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純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ

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 誓約の儀は、グレートブルタン国で一番古く代々王室の誓約の儀が結ばれてきた大聖堂でおこなわれる。

 シュタート王国で誓約の儀を結ばなかったのには、幾つか理由があった。

 ひとつめは、クロードの父である前国王が独裁国家体制を敷き、教皇にさえも力を持たせないために国中の教会を取り潰したからだった。そして国民に、神ではなく、国王である自分を崇めよと強制した。

 もちろん、そんなことで国民の神への信仰心が途絶えることはない。国民は教会が取り潰されてからも密かに集会を開き、神への祈りを捧げ続けた。

 クロードが国王に就任してから宗教の自由が認められるようになったものの、いまだ全ての教会を修復するには至っていなかった。

 それほどに、前国王の腐敗した独裁国家が残した傷跡は深かった。

 ふたつめは、シュタート王国の国王がグレートブルタン国のプリンセスと婚姻を結ぶことで、グレートブルタン国がシュタート王国に吸収されてしまうのではないかと恐れる国民達の気持ちを考慮してのことだった。

 前国王の悪政は、グレートブルタン国の国民の耳にも届いていた。シュタート王国と国名を変え、国王が変わってからも、いまだシュタート王国に対して恐れを抱いている者は多い。

 そんなことから、グレートブルタン国の儀礼に従い、誓約の儀を結ぶことによって、決してシュタート王国がグレートブルタン国を侵略、吸収する意思はないのだということを訴えるためだった。

 最後は、ルチアと両親のためだった。

 グレートブルタン国のプリンセスとして生まれ育ったルチアは、一人娘であり、本来なら婿をとって女王としてこのグレートブルタン国を治めるはずだった。それが、シュタート王国の国王であるクロードと結婚したことにより、両国の王妃となる。グレートブルタン国はシュタート王国と統合し、国自体がなくなるわけではない。だが、統合によって失われていくグレートブルタン国独自の文化や慣習といったものはあるだろう。

 クロードは、ルチアにグレートブルタン国のプリンセスとして、両親の従ってきた慣習に従って誓約の儀を結ばせてやりたかったのだ。


 ルチアはしずしずとバージンロードに続く扉の前へと進んだ。扉の前にはグレートブルタン国の国王であり、ルチアの父であるリチャードが立っていた。

「お父様……」
「ルチア……」

 ふたりとも、そう呼び掛けたきり、言葉が続かない。あまりにもたくさんの思いが溢れ、どう表現していいのか分からなかった。

 リチャードが優しく目を細めた。

「我が娘は、本当に美しく、逞しく……王妃に相応しく育ったな」
「お父様……今まで、愛情深く育ててくださり本当にありがとうございました。お世話に……なりました」

 プリンセスとして厳しく教育してきた母のジュリアとは違い、父のリチャードは歳をとってようやくできた待望の娘であるルチアを溺愛した。立派な婿をとり、孫の誕生を楽しみにしていた。

「お父様……グレートブルタン国とシュタート王国を統合する決断をさせてしまい、申し訳ございませんでした。それは、お父様にとって、苦渋の決断でしたでしょう?」
「ルチア……これは、わしが望んで決めたことだ」

 そう、グレートブルタン国とシュタート王国の統合を提案したのは、ルチアでもクロードでもなく、グレートブルタン国の国王であるリチャードだった。

 もしグレートブルタン国の継承権をルチアが放棄したのなら、第二継承権はルチアのはとこであるブリュッセルになるが、彼はまだ8歳と若く、帝王学すら学んだことがない。リチャードが存命しているうちにブリュッセルを城に引き取り、彼を教育することはできるが、それはブリュッセルも、彼の母親も望むところではなかった。

 ルチアには黙っていたが、リチャードは心臓が弱く、これから先長くないことは分かっている。グレートブルタン国では国王の妻の王妃であるジュリアには王位継承権はない。

 リチャードは産業、工業にすぐれたグレートブルタン国と統合することが、この国にとって一番良いと考えたのだった。いまだ貧富の差が大きく、盗賊や密売組織の残党がいることがシュタート王国にとって最大の問題だが、若き国王クロードなら、国を統率し、よりよく導いてくれる確信があった。

 だが、ここにはもうひとつ、私的な理由もあった。シュタート王国にルチアを嫁に出してしまえば滅多にルチアの顔を見られなくなるが、グレートブルタン国とシュタート王国が統合することになれば、リチャードはこれからも頻繁にルチアと会う機会を得ることができる。

「グレートブルタン国、シュタート王国、両国はこれから豊かに成長し、国民が幸せに暮らしていける社会となる。そうせねば、ならんのだ。分かるな、ルチア?」
「はい、お父様」

 ルチアが答えると、リチャードが腕を差し出した。

「さぁ、可愛い笑顔を見せてくれ。ルチアを幸せに送り出したいんじゃ」
「はい」

 ルチアが笑顔になり、リチャードの腕をとる。

 扉の奥からパイプオルガンの神聖な音が鳴り響き、扉が両側から開かれた。

「さぁ、ゆくぞ」
「はい、お父様」

 ルチアは父と共に、バージンロードへとゆっくりと踏み出した。
 
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