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こんなに近くにいるのに……
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「お、あれって大和だよな......」
龍太郎が話している隙をつき、遼が薫子を肘で小突き、小声で話しかけてきた。
そう言われて広い会場を見回すと、人波の向こうに大和が彼の父である大蔵と共に挨拶回りをしているのが見えた。
「う、ん...そうだね」
「ははっ、後で挨拶しとかねーとな。俺がアメリカから帰ってきてお前の婚約者になってるって知ったら、あいつ絶対ビビるぞ」
遼が楽しそうに笑った。
薫子はそんな遼に力なく笑みを見せると、じっと大和を見つめた。薫子も社交場には出ることは滅多にないが、大和がこうして社交場に出るのを見たのは初めてだった。
大和も...結局、親の言うことには逆らうことなど出来ないってことなのかな。
自由に生きているように見えた大和が父親の隣に立ち、政財界の重鎮たちに頭を下げ、張り付いた笑顔を見せている様に、薫子はどこか失望の色を隠せずにいた。
司会者が大蔵の名を呼ぶと、会場からは大きな拍手が轟いた。
大蔵は大様に手を振り、笑顔で会場の前に設置されたマイクの前に立つ。政治家として長い間君臨しているだけあって、彼からは独特の威厳と風格が漂う。笑顔を見せてはいるが、それは薫子にはどこか胡散臭さを感じさせた。
大和があの父親の元で育ちながら、よく影響を受けなかったものだと薫子は感心せずにはいられない。それとも、反面教師だろうか......
大蔵がスピーチを始めたために龍太郎は知り合いとの話をやめた。
自分と遼を婚約者として紹介されるのではないだろうかと内心ビクビクしていた薫子はホッと一息ついたが、それはただの一時の安息に過ぎないことは嫌というほど分かっていた。
大蔵はマイクが必要ないのではないかと思うぐらい、大きな声で話し始めた。自分のこれまでに議会に提案した実績、どれだけ社会に貢献してきたか、そして今後のプランなど。まるで選挙演説だ。
大蔵の少し後ろには次男であり、大和の二番目の兄である大樹が控えていた。彼とは今までに何度か会ったことはあったが、プライベートでの大樹は流行を取り入れたカジュアルな服装を好み、とても気さくで話しやすい。
小学生の頃、大和の家に遊びに行った際に皆の勉強を見てくれたりして面倒見もとてもよかった。兄弟のいない薫子は、自分にもこんなお兄さんがいたらよかったのにと密かに思ったものだった。
だが今日は黒のスーツをきっちりと着こなし、背筋を伸ばし、父のスピーチに真剣に聞き入る様子は別人のようだった。分厚い茶色の革表紙の手帳を手に、スピーチを聞きながら忙しなくメモを取っている。どこか遠い人のように思えて、薫子は寂しさを感じた。
このパーティーの席には大和の一番上の兄である大地も出席していたが、薫子は彼とはあまり面識はなかった。年が離れており、大学卒業後には元内閣総理大臣である大瀧 永十郎の秘書として務め、家を出ていたため、会う機会がなかったのだ。
以前見かけた時は、真面目な印象を受けた。けれど、その瞳の奥には温かみがあり、薫子は一目見ただけで彼が大和の兄であると認識した。
父、龍太郎の言った通り、大和の兄二人とも政治家の秘書として務め、そしてゆくゆくは政治家としての道を歩むことになるのだろう。
大和は...どうするのかな。大和も彼のお兄様たちと同じような道を歩むことになるのかな......
確かに大和はリーダーシップがあり、人望も厚く、政治家に向いているのかもしれない。だが、様々な欲が渦巻く政界で大和が傷つき、苦しみ、そしてあの純真さを失うのではないかと恐れる気持ちが薫子の中に湧き上がる。
大和には、もっと違った道を進んで欲しいな。親の意思ではなく、大和の意思で自分の未来を切り拓いて欲しい......彼なら、それが出来るはずだから。
そんな願いを抱かずにはいられなかった。
大蔵のしゃがれた大きな声が一層その音量を増した。
「えぇーここで、恥ずかしながら私の愚息を紹介したいと思います。
三男の羽鳥 大和です。まだ大学生で青二才ですが、人生経験豊富な先輩諸氏からいろいろと学ばせて頂きたく、ご指導、ご鞭撻のほど何卒よろしく賜ります」
紹介に合わせ、大和が父に代わってマイクの前に立った。会場からは割れんばかりの拍手が響いたが、それは大方大蔵に義理立てしたものに過ぎなかった。
羽鳥大蔵の三男が、どんなスピーチをするのか好奇の目が集中する中、大和は落ち着いた様子で父親とは対照的な澄み渡る聞き取りやすい声で明瞭に言葉を紡いだ。
「ただいま父から紹介に預かりました羽鳥大和です。現在青海学園大学にて国際政治経済学を専攻しております。
若輩者の私がこのように盛大な場で皆様の前でご挨拶をさせていただく機会を設けて頂けて恐縮すると同時に、こうして社会人としての第一歩を迎えることが出来たことを大変嬉しく誇りに感じております......」
大和は淀みなくスピーチを進めた。その堂々とした話しぶり、自信に満ちながらも控えめで、そして人を魅了する明るく爽やかな笑顔に会場の人々の大和へ向けられている意識が驚きから柔らかいものへと変化していく。
薫子は友人としてそんな大和を誇りに思いながらも、どこか歯痒さも感じた。
龍太郎が話している隙をつき、遼が薫子を肘で小突き、小声で話しかけてきた。
そう言われて広い会場を見回すと、人波の向こうに大和が彼の父である大蔵と共に挨拶回りをしているのが見えた。
「う、ん...そうだね」
「ははっ、後で挨拶しとかねーとな。俺がアメリカから帰ってきてお前の婚約者になってるって知ったら、あいつ絶対ビビるぞ」
遼が楽しそうに笑った。
薫子はそんな遼に力なく笑みを見せると、じっと大和を見つめた。薫子も社交場には出ることは滅多にないが、大和がこうして社交場に出るのを見たのは初めてだった。
大和も...結局、親の言うことには逆らうことなど出来ないってことなのかな。
自由に生きているように見えた大和が父親の隣に立ち、政財界の重鎮たちに頭を下げ、張り付いた笑顔を見せている様に、薫子はどこか失望の色を隠せずにいた。
司会者が大蔵の名を呼ぶと、会場からは大きな拍手が轟いた。
大蔵は大様に手を振り、笑顔で会場の前に設置されたマイクの前に立つ。政治家として長い間君臨しているだけあって、彼からは独特の威厳と風格が漂う。笑顔を見せてはいるが、それは薫子にはどこか胡散臭さを感じさせた。
大和があの父親の元で育ちながら、よく影響を受けなかったものだと薫子は感心せずにはいられない。それとも、反面教師だろうか......
大蔵がスピーチを始めたために龍太郎は知り合いとの話をやめた。
自分と遼を婚約者として紹介されるのではないだろうかと内心ビクビクしていた薫子はホッと一息ついたが、それはただの一時の安息に過ぎないことは嫌というほど分かっていた。
大蔵はマイクが必要ないのではないかと思うぐらい、大きな声で話し始めた。自分のこれまでに議会に提案した実績、どれだけ社会に貢献してきたか、そして今後のプランなど。まるで選挙演説だ。
大蔵の少し後ろには次男であり、大和の二番目の兄である大樹が控えていた。彼とは今までに何度か会ったことはあったが、プライベートでの大樹は流行を取り入れたカジュアルな服装を好み、とても気さくで話しやすい。
小学生の頃、大和の家に遊びに行った際に皆の勉強を見てくれたりして面倒見もとてもよかった。兄弟のいない薫子は、自分にもこんなお兄さんがいたらよかったのにと密かに思ったものだった。
だが今日は黒のスーツをきっちりと着こなし、背筋を伸ばし、父のスピーチに真剣に聞き入る様子は別人のようだった。分厚い茶色の革表紙の手帳を手に、スピーチを聞きながら忙しなくメモを取っている。どこか遠い人のように思えて、薫子は寂しさを感じた。
このパーティーの席には大和の一番上の兄である大地も出席していたが、薫子は彼とはあまり面識はなかった。年が離れており、大学卒業後には元内閣総理大臣である大瀧 永十郎の秘書として務め、家を出ていたため、会う機会がなかったのだ。
以前見かけた時は、真面目な印象を受けた。けれど、その瞳の奥には温かみがあり、薫子は一目見ただけで彼が大和の兄であると認識した。
父、龍太郎の言った通り、大和の兄二人とも政治家の秘書として務め、そしてゆくゆくは政治家としての道を歩むことになるのだろう。
大和は...どうするのかな。大和も彼のお兄様たちと同じような道を歩むことになるのかな......
確かに大和はリーダーシップがあり、人望も厚く、政治家に向いているのかもしれない。だが、様々な欲が渦巻く政界で大和が傷つき、苦しみ、そしてあの純真さを失うのではないかと恐れる気持ちが薫子の中に湧き上がる。
大和には、もっと違った道を進んで欲しいな。親の意思ではなく、大和の意思で自分の未来を切り拓いて欲しい......彼なら、それが出来るはずだから。
そんな願いを抱かずにはいられなかった。
大蔵のしゃがれた大きな声が一層その音量を増した。
「えぇーここで、恥ずかしながら私の愚息を紹介したいと思います。
三男の羽鳥 大和です。まだ大学生で青二才ですが、人生経験豊富な先輩諸氏からいろいろと学ばせて頂きたく、ご指導、ご鞭撻のほど何卒よろしく賜ります」
紹介に合わせ、大和が父に代わってマイクの前に立った。会場からは割れんばかりの拍手が響いたが、それは大方大蔵に義理立てしたものに過ぎなかった。
羽鳥大蔵の三男が、どんなスピーチをするのか好奇の目が集中する中、大和は落ち着いた様子で父親とは対照的な澄み渡る聞き取りやすい声で明瞭に言葉を紡いだ。
「ただいま父から紹介に預かりました羽鳥大和です。現在青海学園大学にて国際政治経済学を専攻しております。
若輩者の私がこのように盛大な場で皆様の前でご挨拶をさせていただく機会を設けて頂けて恐縮すると同時に、こうして社会人としての第一歩を迎えることが出来たことを大変嬉しく誇りに感じております......」
大和は淀みなくスピーチを進めた。その堂々とした話しぶり、自信に満ちながらも控えめで、そして人を魅了する明るく爽やかな笑顔に会場の人々の大和へ向けられている意識が驚きから柔らかいものへと変化していく。
薫子は友人としてそんな大和を誇りに思いながらも、どこか歯痒さも感じた。
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