【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

文字の大きさ
35 / 355
こんなに近くにいるのに……

しおりを挟む
「お、あれって大和だよな......」

 龍太郎が話している隙をつき、遼が薫子を肘で小突き、小声で話しかけてきた。

 そう言われて広い会場を見回すと、人波の向こうに大和が彼の父である大蔵と共に挨拶回りをしているのが見えた。

「う、ん...そうだね」
「ははっ、後で挨拶しとかねーとな。俺がアメリカから帰ってきてお前の婚約者になってるって知ったら、あいつ絶対ビビるぞ」

 遼が楽しそうに笑った。

 薫子はそんな遼に力なく笑みを見せると、じっと大和を見つめた。薫子も社交場には出ることは滅多にないが、大和がこうして社交場に出るのを見たのは初めてだった。

 大和も...結局、親の言うことには逆らうことなど出来ないってことなのかな。
 
 自由に生きているように見えた大和が父親の隣に立ち、政財界の重鎮たちに頭を下げ、張り付いた笑顔を見せている様に、薫子はどこか失望の色を隠せずにいた。

 司会者が大蔵の名を呼ぶと、会場からは大きな拍手が轟いた。

 大蔵は大様に手を振り、笑顔で会場の前に設置されたマイクの前に立つ。政治家として長い間君臨しているだけあって、彼からは独特の威厳と風格が漂う。笑顔を見せてはいるが、それは薫子にはどこか胡散臭さを感じさせた。

 大和があの父親の元で育ちながら、よく影響を受けなかったものだと薫子は感心せずにはいられない。それとも、反面教師だろうか......

 大蔵がスピーチを始めたために龍太郎は知り合いとの話をやめた。

 自分と遼を婚約者として紹介されるのではないだろうかと内心ビクビクしていた薫子はホッと一息ついたが、それはただの一時の安息に過ぎないことは嫌というほど分かっていた。

 大蔵はマイクが必要ないのではないかと思うぐらい、大きな声で話し始めた。自分のこれまでに議会に提案した実績、どれだけ社会に貢献してきたか、そして今後のプランなど。まるで選挙演説だ。

 大蔵の少し後ろには次男であり、大和の二番目の兄である大樹ひろきが控えていた。彼とは今までに何度か会ったことはあったが、プライベートでの大樹は流行を取り入れたカジュアルな服装を好み、とても気さくで話しやすい。

 小学生の頃、大和の家に遊びに行った際に皆の勉強を見てくれたりして面倒見もとてもよかった。兄弟のいない薫子は、自分にもこんなお兄さんがいたらよかったのにと密かに思ったものだった。

 だが今日は黒のスーツをきっちりと着こなし、背筋を伸ばし、父のスピーチに真剣に聞き入る様子は別人のようだった。分厚い茶色の革表紙の手帳を手に、スピーチを聞きながらせわしなくメモを取っている。どこか遠い人のように思えて、薫子は寂しさを感じた。

 このパーティーの席には大和の一番上の兄である大地も出席していたが、薫子は彼とはあまり面識はなかった。年が離れており、大学卒業後には元内閣総理大臣である大瀧 永十郎の秘書として務め、家を出ていたため、会う機会がなかったのだ。

 以前見かけた時は、真面目な印象を受けた。けれど、その瞳の奥には温かみがあり、薫子は一目見ただけで彼が大和の兄であると認識した。

 父、龍太郎の言った通り、大和の兄二人とも政治家の秘書として務め、そしてゆくゆくは政治家としての道を歩むことになるのだろう。

 大和は...どうするのかな。大和も彼のお兄様たちと同じような道を歩むことになるのかな......

 確かに大和はリーダーシップがあり、人望も厚く、政治家に向いているのかもしれない。だが、様々な欲が渦巻く政界で大和が傷つき、苦しみ、そしてあの純真さを失うのではないかと恐れる気持ちが薫子の中に湧き上がる。

 大和には、もっと違った道を進んで欲しいな。親の意思ではなく、大和の意思で自分の未来を切り拓いて欲しい......彼なら、それが出来るはずだから。

 そんな願いを抱かずにはいられなかった。

 大蔵のしゃがれた大きな声が一層その音量を増した。

「えぇーここで、恥ずかしながら私の愚息を紹介したいと思います。
 三男の羽鳥 大和です。まだ大学生で青二才ですが、人生経験豊富な先輩諸氏からいろいろと学ばせて頂きたく、ご指導、ご鞭撻のほど何卒よろしく賜ります」

 紹介に合わせ、大和が父に代わってマイクの前に立った。会場からは割れんばかりの拍手が響いたが、それは大方大蔵に義理立てしたものに過ぎなかった。

 羽鳥大蔵の三男が、どんなスピーチをするのか好奇の目が集中する中、大和は落ち着いた様子で父親とは対照的な澄み渡る聞き取りやすい声で明瞭に言葉を紡いだ。
 
「ただいま父から紹介に預かりました羽鳥大和です。現在青海学園大学にて国際政治経済学を専攻しております。
 若輩者の私がこのように盛大な場で皆様の前でご挨拶をさせていただく機会を設けて頂けて恐縮すると同時に、こうして社会人としての第一歩を迎えることが出来たことを大変嬉しく誇りに感じております......」

 大和は淀みなくスピーチを進めた。その堂々とした話しぶり、自信に満ちながらも控えめで、そして人を魅了する明るく爽やかな笑顔に会場の人々の大和へ向けられている意識が驚きから柔らかいものへと変化していく。

 薫子は友人としてそんな大和を誇りに思いながらも、どこか歯痒さも感じた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】 その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。 片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。 でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。 なのに、この呼び出しは一体、なんですか……? 笹岡花重 24歳、食品卸会社営業部勤務。 真面目で頑張り屋さん。 嫌と言えない性格。 あとは平凡な女子。 × 片桐樹馬 29歳、食品卸会社勤務。 3課課長兼部長代理 高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。 もちろん、仕事できる。 ただし、俺様。 俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

処理中です...