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窮地

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 そう言って顔を上げた薫子は、その顔の距離の近さに驚き、俯こうとしたが、それを悠に阻まれた。

「だめ...」

 悠の唇が重なり、口づけられる。

「ん...だ、め......まだ、側に...」
「大丈夫。こっちに戻ってくることは、もうないから」

 抵抗の言葉を遮り、薫子の口内に悠の舌が入り込み、甘い凌辱が繰り返される。

「ッ...ンンッ...ハァッ......」

 ぁ...本当に、ダメ......こんな、口づけ...されたら......

 けれど、次第にその甘美な味わいに身も心も溶かされ、いつの間にか薫子は悠の首に腕を回していた。

 ダメだと分かっているのに、止められない......

 溺れてしまいそうで、怖い......

 触れ合う胸と胸が衣服を通してもその感触を伝えてくる。僅かに揺れるその摩擦で、薫子の胸の膨らみの先端は確実に反応を示していた。

 ぁ...気持ち、いい.....

 腰の下の中心がキュウッと縮まり、熱く潤んでくる。

 こんな、気持ち...いけない......抑えなきゃ......
 悠に、淫らな女だと思われたくない。

 薫子は悠の腕を掴み、唇を離した。

「あ、あの...もう二人も帰っただろうし、そろそろ行かなきゃ......次の講義が、始まっちゃう......」

 薫子は脚を固く閉じ、俯いたままそう言った。

 悠に、失望されたくない。こんなところで感じて、欲するような女だと気づかれたくない......

 悠がそっと薫子を自分から下ろし、手を取って立ち上がらせる。それは、まるで姫を守る騎士のように優美な仕草だった。

「そうだね...送ってあげられなくて、ごめん」
「ううん...大丈夫」

 ここで会う時には、いつも悠が出迎え、見送ってくれる。そして見送られる時、薫子はいつも後ろ髪を引かれ、泣きたい気分になるのだった。

「じゃあ、また...」
「うん...」

 燻る躰を抱えたまま、薫子は悠に背を向けて歩き出したが......

 やっぱり......

 くるりと振り返り戻ってきた。

 悠に腕を回して引き寄せると、唇を重ねる。

「悠、大好き......」

 悠が瞳孔を見開いた先には、顔を真っ赤に染めた薫子の恥ずかし気な表情。そして、またくるりと後ろを向くと、走り去って行った。

 やばい...可愛すぎる......

 後に残された悠が、口に手を当てる。その頬は赤く染まっていた。
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