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近づく唇
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車内でふたりきりになった途端、遼が緊張で躰を固くした。
「あ...あのよぉ......」
「どう...したの、遼ちゃん......」
そう言いながらも、薫子も遼のただならぬ雰囲気に緊張で喉がカラカラに乾くのを感じていた。
きっと、昨日の話に違いない。遼ちゃんは、何て言ってくるんだろう......
「......お前の親父さんには、話すつもりねぇから。風間のこと......」
「え?」
「俺は、そんなことしなくてもお前を俺のものにする自信があるから、する必要ねぇって言ってんだよ!
......卑怯って思われたくねぇし」
最後は小さな掠れるような声で呟いた。
「あ、ありがとう......遼ちゃん」
薫子は遼の言葉に驚きつつも安堵し、強張っていた躰から力が抜けていくのを感じた。
遼はそんな薫子の様子を横目で確認すると、ふいっと外に顔を向けた。
「それに俺...あいつ、嫌いじゃねぇしな。すっげぇ無愛想で無口で、悔しいぐらい頭いいし、なんでも器用にこなせてムカつくけど、昨日カラオケの時とか見てて、ダチ大切にする奴だってわかったし。
だが、友情と恋愛は別だ。俺はあいつをダチとして気に入ってるが、お前のことは......譲る気、さらさらねぇから」
譲る気、ない...って。
遼の言葉に矛盾を感じながらも、薫子は思わず微笑んだ。
「遼ちゃんって...すごく、いい人だったんだね......」
ぶっきらぼうな言い草をしつつも、遼の精一杯の優しさが伝わってきた。
「なっ、おまっ...今更気づいたのかよ。惚れ直したか、ハッハッハ......」
遼ちゃん、相変わらずすごい自信......
照れて顔を赤くしながらも得意げに笑う遼を見つめながら、いつもの彼と変わらぬ様子に薫子は胸を撫で下ろした。
「まぁ、俺と一緒にいるうちに風間なんて霞むようになるから。どうせ風間と櫻井じゃ、一緒になれねぇしな」
確信に満ちた遼の言葉に、薫子の心臓が針で刺されたようにチクリと痛む。
「お前、あの親父さんに逆らうなんてぜってぇ無理だもんな。見ててわかるっつーの。だから、もう風間なんてさっさと諦めて俺に乗り換えちまった方がいいぞ」
あまりにも軽いその言い草に薫子は愕然すると同時に、言いようのない憤りと悲しみで心の内が支配されていく。
「そ、んなこと...出来ないよ。
私は...悠と出会った時から彼が好きで......その気持ちは今でも変わらない......ううん、もっともっと強くなってる」
遼ちゃんには、分からない。
どれだけ私が悠を愛しているのかということを。両家の対立を思い、悩み、苦しんで......それでも、お父様の意思に背いてでも悠への想いを止めることなど出来なかった。
私には悠しかいない。悠と出会った時から、ずっと...この先も、私は悠しか愛せない。
薫子の瞳は真っ直ぐに遼を見つめているのに、そこには遼ではなく悠の姿が映っているかのように感じた。
そんなに、あいつが好きなのかよ......
遼の躰がカッと熱くなり、助手席の薫子を押し倒し、両腕を掴んだ。
「遼、ちゃ...」
目の前に迫る遼の恐いまでの真剣な顔つきに、薫子はビクリと震え、躰を強張らせた。
お前は、俺だけ見てればいいんだ...俺を見ろ、俺を好きになれ......
遼の顔が薫子に寄せられ、唇が近づく。
「い、や......」
薫子は顔を背け、唇を噛み締め、震えた。
悠...助けて......
薫子の目尻から涙が溢れる。
すると、遼の躰が離れ、ハンドルを握った。
「......早く、行かねぇと。みんな待ってる......」
「......」
薫子は何も答えず、俯いたままだった。
こわ、かった......まだ躰が震えてる......
すごく、真剣な顔つきだった。あんな遼ちゃん、初めて見た。
私......遼ちゃんのことをまだ小等部からの続きのような感じで考えてた。ふざけて頬をつねったり、頭を叩いたりすることはあっても、この前気分が悪くなった時にも何もされなかったし、遼ちゃんは性的なことはしないんだと心のどこかで安心してるところがあった。
でも...遼ちゃんはもう、子供じゃないんだ......
それに、すごく感じた。私への強い思いと嫉妬......
今までどこか信じられない気持ちでいたけれど......遼ちゃんは、私のことを本当に、好き...なんだ。
薫子は、未だ震えが止まらない躰をギュッと抱き締めた。
「あ...あのよぉ......」
「どう...したの、遼ちゃん......」
そう言いながらも、薫子も遼のただならぬ雰囲気に緊張で喉がカラカラに乾くのを感じていた。
きっと、昨日の話に違いない。遼ちゃんは、何て言ってくるんだろう......
「......お前の親父さんには、話すつもりねぇから。風間のこと......」
「え?」
「俺は、そんなことしなくてもお前を俺のものにする自信があるから、する必要ねぇって言ってんだよ!
......卑怯って思われたくねぇし」
最後は小さな掠れるような声で呟いた。
「あ、ありがとう......遼ちゃん」
薫子は遼の言葉に驚きつつも安堵し、強張っていた躰から力が抜けていくのを感じた。
遼はそんな薫子の様子を横目で確認すると、ふいっと外に顔を向けた。
「それに俺...あいつ、嫌いじゃねぇしな。すっげぇ無愛想で無口で、悔しいぐらい頭いいし、なんでも器用にこなせてムカつくけど、昨日カラオケの時とか見てて、ダチ大切にする奴だってわかったし。
だが、友情と恋愛は別だ。俺はあいつをダチとして気に入ってるが、お前のことは......譲る気、さらさらねぇから」
譲る気、ない...って。
遼の言葉に矛盾を感じながらも、薫子は思わず微笑んだ。
「遼ちゃんって...すごく、いい人だったんだね......」
ぶっきらぼうな言い草をしつつも、遼の精一杯の優しさが伝わってきた。
「なっ、おまっ...今更気づいたのかよ。惚れ直したか、ハッハッハ......」
遼ちゃん、相変わらずすごい自信......
照れて顔を赤くしながらも得意げに笑う遼を見つめながら、いつもの彼と変わらぬ様子に薫子は胸を撫で下ろした。
「まぁ、俺と一緒にいるうちに風間なんて霞むようになるから。どうせ風間と櫻井じゃ、一緒になれねぇしな」
確信に満ちた遼の言葉に、薫子の心臓が針で刺されたようにチクリと痛む。
「お前、あの親父さんに逆らうなんてぜってぇ無理だもんな。見ててわかるっつーの。だから、もう風間なんてさっさと諦めて俺に乗り換えちまった方がいいぞ」
あまりにも軽いその言い草に薫子は愕然すると同時に、言いようのない憤りと悲しみで心の内が支配されていく。
「そ、んなこと...出来ないよ。
私は...悠と出会った時から彼が好きで......その気持ちは今でも変わらない......ううん、もっともっと強くなってる」
遼ちゃんには、分からない。
どれだけ私が悠を愛しているのかということを。両家の対立を思い、悩み、苦しんで......それでも、お父様の意思に背いてでも悠への想いを止めることなど出来なかった。
私には悠しかいない。悠と出会った時から、ずっと...この先も、私は悠しか愛せない。
薫子の瞳は真っ直ぐに遼を見つめているのに、そこには遼ではなく悠の姿が映っているかのように感じた。
そんなに、あいつが好きなのかよ......
遼の躰がカッと熱くなり、助手席の薫子を押し倒し、両腕を掴んだ。
「遼、ちゃ...」
目の前に迫る遼の恐いまでの真剣な顔つきに、薫子はビクリと震え、躰を強張らせた。
お前は、俺だけ見てればいいんだ...俺を見ろ、俺を好きになれ......
遼の顔が薫子に寄せられ、唇が近づく。
「い、や......」
薫子は顔を背け、唇を噛み締め、震えた。
悠...助けて......
薫子の目尻から涙が溢れる。
すると、遼の躰が離れ、ハンドルを握った。
「......早く、行かねぇと。みんな待ってる......」
「......」
薫子は何も答えず、俯いたままだった。
こわ、かった......まだ躰が震えてる......
すごく、真剣な顔つきだった。あんな遼ちゃん、初めて見た。
私......遼ちゃんのことをまだ小等部からの続きのような感じで考えてた。ふざけて頬をつねったり、頭を叩いたりすることはあっても、この前気分が悪くなった時にも何もされなかったし、遼ちゃんは性的なことはしないんだと心のどこかで安心してるところがあった。
でも...遼ちゃんはもう、子供じゃないんだ......
それに、すごく感じた。私への強い思いと嫉妬......
今までどこか信じられない気持ちでいたけれど......遼ちゃんは、私のことを本当に、好き...なんだ。
薫子は、未だ震えが止まらない躰をギュッと抱き締めた。
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