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近づく唇
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プレゼントが全て行き渡ったところで、逸子がパチン、と手を叩いた。
「さ、それじゃ食事にしましょ」
「あぁ、腹減ったー」
遅めの朝食を食べながら、宏和が思い出したように言う。
「今日、家に招待していることは君のお父さんに伝えてあるから、心配しなくても大丈夫だよ」
そうだったんだ......そんなこと、お父様から何も聞いていなかったけど。
私が逃げ出すかもしれないと思って、何も言わなかったのかもしれない......
「うふふ、今日は櫻井さんとこのご両親は1日予定が入ってるっておっしゃってたから、私たちが薫子さんを独占できるわね、嬉しいわ...
そうそ、この後は七面鳥も焼かなくちゃ!悪いんだけど、薫子さんもお手伝いしてくださる?」
その言葉に薫子は唖然とした。
「あ...あの、専属のシェフとか家政婦さんとかはいらっしゃらないんですか?」
不思議そうに尋ねる薫子に、今度は逸子が唖然とする番だった。
「まぁ......薫子さんって本当にお嬢様なのねぇ。もしかして、お料理したことないの?」
そう言われて薫子は恥ずかしくなり、俯いた。
家には専属のシェフがいるため、家庭で料理をするのはもちろんのこと、小・中等部の時にあった家庭科での調理実習も料理に携わることはなかった。その時にはいつも美姫が率先して行い、薫子は野菜を洗ったり、盛り付けたり、テーブルセッティングをするだけだった。
高等部の家庭科は裁縫か調理・栄養学の選択となっており、薫子は迷わず裁縫を選んだ。
「は、はい...申し訳ありません」
「じゃ、見てて。簡単なことを手伝ってくれればいいから。ほら、佳那も手伝いなさいっ!」
「え... ほら、私は散らかった包装紙とか片付けないといけないからぁ......」
佳那は食べ終えた皿とコップを流し台に持っていくと、リビングルームへと急いで戻った。
「んもぉ、いっつもそうやって逃げるんだから......」
「ほんと、佳那は料理嫌いだよな。俺の方がよっぽど上手いし。じゃ、俺がやるか?」
「あ、遼は洗い物お願い。お父さんは、片した後のテーブル綺麗に拭いてね!」
「わかってますよ、母さん」
すごい...片付けまで皆でしてるんだ......これが普通の家庭なの!?
薫子は家族の一連のやり取りを感動にも似た気持ちで見つめていた。
「遼、さんは......幸せですね。こんなに温かい家庭で育って......」
思わず本音を洩らした薫子に、逸子がふふふ...と笑った。
「もう! 遼と佳那に聞かせてやりたいわぁ。あの子達、いつでも文句ばっかりなんだから。
遼は婿に出すから一緒に暮らすことはできないけど、結婚したらうちにも遊びに来てね。薫子さんみたいな可愛い子が娘になるなんて、嬉しいわ」
流し台の前に立ち、袖を捲る遼の姿を見ながら目尻に皺を寄せて逸子が微笑んだ。文句を言いながらも、その瞳には家族への溢れんばかりの愛情が感じられる。
そんな逸子の表情につられ、薫子は気がつけば「は、い...」と返事をしていた。
どう、しよう......遼ちゃんのお母様はとてもいい人だけど、だからこそ、とても心苦しい......
七面鳥を洗い、中の内臓を抉り出す作業を見ているだけでも薫子は気分を悪くし、眩暈を起こしそうだった。
「おばさまは、いつも自分でお料理されるんですか?」
大会社の社長の奥様なら、自分でされる必要などないのに...そう思って尋ねた薫子に、逸子は様々なスパイスを食品棚から取り出しながら答えた。
「私、なんでも自分でやらないと気が済まない性格だし、お手伝いさん雇うのって性に合わないのよね。それに、旦那や子供たちには自分の愛情を込めた料理を食べてもらいたいじゃない?」
そう言って笑顔を見せる逸子の言葉は、薫子にとっては衝撃であった。
私は、今までお母様に一度も手料理を食べさせてもらったことはなかったし、それを疑問に思ったこともなかった。
なんて温かいんだろう......母親とはこういうものなのだと、遼ちゃんのお母様に接しているとそう感じさせられる。
佳那がDVD片手にキッチンに顔を覗かせる。
「ねぇねぇ、薫子さん! 一緒に映画観よっ。うちはクリスマスに決まった映画観てて、毎年の恒例なの。さすがに飽きてきてたけど、今年は薫子さんがいてくれるから新鮮な気分で観れそうっ」
逸子がスタッフィングを詰め終えた七面鳥をオーブンに入れ、顔を上げた。
「薫子さん、こっちはもう大丈夫よ、ありがとう。ふふっ、佳那もすっかり薫子さんに懐いちゃってるわね」
「当然よ、薫子さんて頭もよくて、綺麗で、高等部の友達みんなの憧れなんだから。お兄のお嫁さんになるなんて言ったら、超自慢できちゃう!」
佳那が「さっ、いこいこ..」そう言って、薫子の腕に自分の腕を絡ませる。
薫子は逸子を気にしつつも、「失礼します...」と言い、キッチンを後にした。
「さ、それじゃ食事にしましょ」
「あぁ、腹減ったー」
遅めの朝食を食べながら、宏和が思い出したように言う。
「今日、家に招待していることは君のお父さんに伝えてあるから、心配しなくても大丈夫だよ」
そうだったんだ......そんなこと、お父様から何も聞いていなかったけど。
私が逃げ出すかもしれないと思って、何も言わなかったのかもしれない......
「うふふ、今日は櫻井さんとこのご両親は1日予定が入ってるっておっしゃってたから、私たちが薫子さんを独占できるわね、嬉しいわ...
そうそ、この後は七面鳥も焼かなくちゃ!悪いんだけど、薫子さんもお手伝いしてくださる?」
その言葉に薫子は唖然とした。
「あ...あの、専属のシェフとか家政婦さんとかはいらっしゃらないんですか?」
不思議そうに尋ねる薫子に、今度は逸子が唖然とする番だった。
「まぁ......薫子さんって本当にお嬢様なのねぇ。もしかして、お料理したことないの?」
そう言われて薫子は恥ずかしくなり、俯いた。
家には専属のシェフがいるため、家庭で料理をするのはもちろんのこと、小・中等部の時にあった家庭科での調理実習も料理に携わることはなかった。その時にはいつも美姫が率先して行い、薫子は野菜を洗ったり、盛り付けたり、テーブルセッティングをするだけだった。
高等部の家庭科は裁縫か調理・栄養学の選択となっており、薫子は迷わず裁縫を選んだ。
「は、はい...申し訳ありません」
「じゃ、見てて。簡単なことを手伝ってくれればいいから。ほら、佳那も手伝いなさいっ!」
「え... ほら、私は散らかった包装紙とか片付けないといけないからぁ......」
佳那は食べ終えた皿とコップを流し台に持っていくと、リビングルームへと急いで戻った。
「んもぉ、いっつもそうやって逃げるんだから......」
「ほんと、佳那は料理嫌いだよな。俺の方がよっぽど上手いし。じゃ、俺がやるか?」
「あ、遼は洗い物お願い。お父さんは、片した後のテーブル綺麗に拭いてね!」
「わかってますよ、母さん」
すごい...片付けまで皆でしてるんだ......これが普通の家庭なの!?
薫子は家族の一連のやり取りを感動にも似た気持ちで見つめていた。
「遼、さんは......幸せですね。こんなに温かい家庭で育って......」
思わず本音を洩らした薫子に、逸子がふふふ...と笑った。
「もう! 遼と佳那に聞かせてやりたいわぁ。あの子達、いつでも文句ばっかりなんだから。
遼は婿に出すから一緒に暮らすことはできないけど、結婚したらうちにも遊びに来てね。薫子さんみたいな可愛い子が娘になるなんて、嬉しいわ」
流し台の前に立ち、袖を捲る遼の姿を見ながら目尻に皺を寄せて逸子が微笑んだ。文句を言いながらも、その瞳には家族への溢れんばかりの愛情が感じられる。
そんな逸子の表情につられ、薫子は気がつけば「は、い...」と返事をしていた。
どう、しよう......遼ちゃんのお母様はとてもいい人だけど、だからこそ、とても心苦しい......
七面鳥を洗い、中の内臓を抉り出す作業を見ているだけでも薫子は気分を悪くし、眩暈を起こしそうだった。
「おばさまは、いつも自分でお料理されるんですか?」
大会社の社長の奥様なら、自分でされる必要などないのに...そう思って尋ねた薫子に、逸子は様々なスパイスを食品棚から取り出しながら答えた。
「私、なんでも自分でやらないと気が済まない性格だし、お手伝いさん雇うのって性に合わないのよね。それに、旦那や子供たちには自分の愛情を込めた料理を食べてもらいたいじゃない?」
そう言って笑顔を見せる逸子の言葉は、薫子にとっては衝撃であった。
私は、今までお母様に一度も手料理を食べさせてもらったことはなかったし、それを疑問に思ったこともなかった。
なんて温かいんだろう......母親とはこういうものなのだと、遼ちゃんのお母様に接しているとそう感じさせられる。
佳那がDVD片手にキッチンに顔を覗かせる。
「ねぇねぇ、薫子さん! 一緒に映画観よっ。うちはクリスマスに決まった映画観てて、毎年の恒例なの。さすがに飽きてきてたけど、今年は薫子さんがいてくれるから新鮮な気分で観れそうっ」
逸子がスタッフィングを詰め終えた七面鳥をオーブンに入れ、顔を上げた。
「薫子さん、こっちはもう大丈夫よ、ありがとう。ふふっ、佳那もすっかり薫子さんに懐いちゃってるわね」
「当然よ、薫子さんて頭もよくて、綺麗で、高等部の友達みんなの憧れなんだから。お兄のお嫁さんになるなんて言ったら、超自慢できちゃう!」
佳那が「さっ、いこいこ..」そう言って、薫子の腕に自分の腕を絡ませる。
薫子は逸子を気にしつつも、「失礼します...」と言い、キッチンを後にした。
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