【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

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囚われて

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 スーツーケースを持って家を出ると怪しまれるため、バルコニーから紐で吊るしたスーツケースを下ろし、車で迎えに来た陽子がそれをトランクに乗せ、美姫はその間に薫子を迎えに行く手筈になっている。

 そろそろ、スーツケースを下ろさないと......

 そう思うのに、手足が竦すくみ、膝がガクガクと震えて止まらない。
 
 行か、なくちゃ......

 それでも力を込めてなんとか立ち上がり、震える膝を抑えながら、小さく前に踏み出した。

「っ...」

 ガタン!

 躰がふらつき、持ち手を上手く掴むことが出来ずにスーツケースが横倒しになった。更に蹌踉よろけたはずみで手からスマホが落ち、バッグを蹴飛ばしてしまう。バッグの中から、パスポートが飛び出した。

 その途端、膝からガクンと崩れ落ちてしまう。

 扉をノックする音が響き、薫子はビクン、と躰を揺らした。

「お嬢様、何かが倒れる音が聞こえたんですが、大丈夫ですか?」

 ちょうど側を通りかかかったメイドが、心配して声をかけたのだ。それは、新年会の時に留守を頼まれていたメイドの声だった。

 こ、こんな所に入って来られたら何もかも終わってしまう......

 薫子は今にもくっつきそうに乾いた喉から声を絞り出す。

「ご、めんなさい......大丈夫、だから。しん、ぱい...しないで」
「そうですか。では、失礼します」

 メイドは扉を開けることなく、去って行った。もし通りかかったのがばあやだったら、間違いなく心配して中に入ってきただろう。

 こわ、かった......
 
 全身が寒気に襲われる。まるで何かから身を守るように躰を丸め込み、膝を抱いて蹲った。

 カーテンからは太陽の光が差し込むことなく、どんよりとした濃灰色の影が部屋を暗く覆い尽くし、薫子に迫ってくるかのようだ。こうして膝を抱えていると、今までずっと抱えていた不安が一気に大波となって押し寄せてくる。

 お見合い話をした時の父の言葉が、頭の中でこだまする。

『お前に拒む権限などないっ!わしはお前に窺いをたてるためにここへ呼んだのではない。ただ決定事項を告げるために呼んだのだ。
 お前は黙ってわしの言うことを聞いていればよいのだ!』

 薫子は、頭を振って父の言葉を振り落とそうとした。

 嫌っ!もう、私は......お父様の操り人形になどなりたくない。
 私には、私の意志があるんだって、ずっと、ずっと知って欲しかった......

 カラオケでの遼の言葉が、蘇る。

『風間といたって、一緒になれるわけねぇ。気弱でなんも言えねぇお前が、親父に反抗なんて出来ねぇくせに』

 両手で頭を掴み、強く髪を握り締める。
 
 そんなことないっ!私だって、好きな人と駆け落ちする勇気ぐらい、あるんだから!

 全身を絡め取ろうとする蜘蛛の糸を断ち切ろうとするかのように、薫子は次々に浮かび上がってくる言葉に、必死に抵抗した。

 心の中で葛藤し、不安を追い払おうとする薫子に、また新たな記憶の影が覆い被さる。

『そんな夢物語、本当に上手くいくと思ってるの?』

 美、姫......

 記憶の中の美姫の声が薫子の頭の中で強烈に響き、喪心する。
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