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囚われて
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「では、私はこれで。
美姫様がお着きになりましたら、お部屋へ呼びに参りますね」
ばあやが着物一式を手にし、部屋を後にする。
「えぇ、お願いします......」
ばあやと接している間、辛くてたまらなかった......
早くこの時が終わって欲しいと思っていたのに、いざ終わってばあやが離れてしまうと......二度と会えないのだと思って、さっきよりももっと辛くて苦しい気持ちになる。
閉じられた部屋の扉を見つめ、薫子は深く息を吐いた。
クローゼットの奥から、小さめのスーツケースを取り出す。悠には最低限の荷物だけ持ってくるようにと念を押され、選び抜いたお気に入りの洋服と使い慣れた化粧品、悠からもらった手紙やアクセサリーのみを入れた。
スーツケースの上には手荷物用として、去年の誕生日に悠から貰ったフルグレインのトリヨンレザーとパイソンを組み合わせた軽量の深紅色のバッグが載せられていた。中には、パスポートと航空券の入っていた封筒が入っている。
薫子は着物用の鞄から財布とスマホを取り出して入れ替えると、そこから封筒を取り出した。封筒にはeチケットが入っていた。
最初に悠から渡されたのは羽田ーロンドンのオープン航空券だった。だがフライト時間が合わなかった為、悠がバーミンガム行きに変更し、メールでeチケットを送ってくれたのだった。そこには、全日空15時20分羽田行き、フランクフルト経由、同日21時55分バーミンガム着の情報が記載されている。
私、本当にこれから悠と...ふたりでイギリスに発つんだ。
今夜にはもう、新たな地での生活が始まってしまう......
チケットを持つ手が、小刻みに震えてくる。
ブーン、ブーン、ブーン......
スマホの振動音がバッグの中から響き、薫子は我に返ると、それを手にした。
着信画面を確認し、受信ボタンを押す。
『もう、家には着いた?』
薫子の言葉を待たず、悠が口を開く。いつになく落ち着きがない、どこか硬い悠の口調。緊張が混ざっているのを感じ、薫子はゴクリと喉を鳴らした。
「うん。悠、は?」
『あぁ、俺も今着いたとこ。これから着替えて準備する』
その言葉に更に現実が迫ってきて、薫子の緊張は否応無しに高まっていく。
「......」
ほんとに、これから私たち......駆け落ちするんだ。
『薫子......大丈夫?』
何も言葉を返さない薫子に不安になり、悠が問い掛ける。
「あ、ごめんなさい。
うん、大丈夫......あの、悠......」
本当に、これは悠にとって、幸せな未来なの?
私の為に、日本での生活を犠牲にしてもいいの?
『どうしたの、薫子?』
薫子は、喉元まで出かけていた言葉を飲み下した。
「ありがとう、気を遣ってくれて。これから、私も用意するね」
そう言った途端、受話器の奥からピピッと音が響いてきた。
『ごめん、大和からキャッチが入った。たぶん、迎えの連絡だと思う。後で掛け直す』
「あ!気にしないで。また、後で会えるから......」
悠の苦しげな声が、薫子の耳に響く。
『薫子、不安にならないでとは言えない。でも、こうするしかないんだ。
分かって欲しい......』
悠......悠だって不安なはずなのに。心配かけるわけには、いかない。
キャッチのピピッという音がずっと耳に響き、薫子を急き立てる。
「うん、分かってるよ、悠......」
悠は、ふぅっと息を吐いた。
『じゃ、また後で』
「うん、また......」
悠が躊躇いつつも通話終了ボタンを押すのがわかった。
薫子は、受信の切れたスマホの画面を見つめ、言えなかった言葉を頭の中で反芻した。
美姫様がお着きになりましたら、お部屋へ呼びに参りますね」
ばあやが着物一式を手にし、部屋を後にする。
「えぇ、お願いします......」
ばあやと接している間、辛くてたまらなかった......
早くこの時が終わって欲しいと思っていたのに、いざ終わってばあやが離れてしまうと......二度と会えないのだと思って、さっきよりももっと辛くて苦しい気持ちになる。
閉じられた部屋の扉を見つめ、薫子は深く息を吐いた。
クローゼットの奥から、小さめのスーツケースを取り出す。悠には最低限の荷物だけ持ってくるようにと念を押され、選び抜いたお気に入りの洋服と使い慣れた化粧品、悠からもらった手紙やアクセサリーのみを入れた。
スーツケースの上には手荷物用として、去年の誕生日に悠から貰ったフルグレインのトリヨンレザーとパイソンを組み合わせた軽量の深紅色のバッグが載せられていた。中には、パスポートと航空券の入っていた封筒が入っている。
薫子は着物用の鞄から財布とスマホを取り出して入れ替えると、そこから封筒を取り出した。封筒にはeチケットが入っていた。
最初に悠から渡されたのは羽田ーロンドンのオープン航空券だった。だがフライト時間が合わなかった為、悠がバーミンガム行きに変更し、メールでeチケットを送ってくれたのだった。そこには、全日空15時20分羽田行き、フランクフルト経由、同日21時55分バーミンガム着の情報が記載されている。
私、本当にこれから悠と...ふたりでイギリスに発つんだ。
今夜にはもう、新たな地での生活が始まってしまう......
チケットを持つ手が、小刻みに震えてくる。
ブーン、ブーン、ブーン......
スマホの振動音がバッグの中から響き、薫子は我に返ると、それを手にした。
着信画面を確認し、受信ボタンを押す。
『もう、家には着いた?』
薫子の言葉を待たず、悠が口を開く。いつになく落ち着きがない、どこか硬い悠の口調。緊張が混ざっているのを感じ、薫子はゴクリと喉を鳴らした。
「うん。悠、は?」
『あぁ、俺も今着いたとこ。これから着替えて準備する』
その言葉に更に現実が迫ってきて、薫子の緊張は否応無しに高まっていく。
「......」
ほんとに、これから私たち......駆け落ちするんだ。
『薫子......大丈夫?』
何も言葉を返さない薫子に不安になり、悠が問い掛ける。
「あ、ごめんなさい。
うん、大丈夫......あの、悠......」
本当に、これは悠にとって、幸せな未来なの?
私の為に、日本での生活を犠牲にしてもいいの?
『どうしたの、薫子?』
薫子は、喉元まで出かけていた言葉を飲み下した。
「ありがとう、気を遣ってくれて。これから、私も用意するね」
そう言った途端、受話器の奥からピピッと音が響いてきた。
『ごめん、大和からキャッチが入った。たぶん、迎えの連絡だと思う。後で掛け直す』
「あ!気にしないで。また、後で会えるから......」
悠の苦しげな声が、薫子の耳に響く。
『薫子、不安にならないでとは言えない。でも、こうするしかないんだ。
分かって欲しい......』
悠......悠だって不安なはずなのに。心配かけるわけには、いかない。
キャッチのピピッという音がずっと耳に響き、薫子を急き立てる。
「うん、分かってるよ、悠......」
悠は、ふぅっと息を吐いた。
『じゃ、また後で』
「うん、また......」
悠が躊躇いつつも通話終了ボタンを押すのがわかった。
薫子は、受信の切れたスマホの画面を見つめ、言えなかった言葉を頭の中で反芻した。
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