162 / 355
過ち ー美姫sideー
2
しおりを挟む
美姫は薫子の側に膝立ちになり、両手を取った。
「薫子...迎えに来たよ」
薫子は、美姫の声に頭を上げた。その表情は、不安で怯えているかのようだ。
「み、き...」
薫子の震える手を包み込み、安心させるように頷いた。
「だい、じょうぶ。一緒にいこ? 悠が待ってるよ......」
薫子を促すようにして立ち上がりながら手を取って引き上げようとするものの、薫子はそこから動けずにいた。
「怖い...怖い、の......動け、ないの......」
声が震え、擦れていた。
「今になって......美姫の言ってた意味が分かったの。
ねぇ...私、本当に出来るのかな。知らない土地で、誰も知らない人ばかりで、家事も何も出来なくて。悠の未来を奪ってしまうことになるのに、私は彼に何もしてあげられなくて......
美姫...怖い、怖いよ......私......不安で......不安で、不安でたまらないの」
「薫子......」
美姫は震える薫子を目の前にして、深く後悔した。
あの時、私があんなことを言わなければ……薫子は、希望だけを胸にイギリスへ発つことが出来たのに。
私はオーストリアでの秀一さんとの生活を重ねて、薫子に八つ当たりするなんて。最低だ、私......取り返しのつかない過ちを犯してしまった。
なんとか、薫子をここから連れ出さないと。
悠のところに、届けてあげないと......
「大丈夫だよ、薫子。悠が守ってくれる。悠ならきっと、薫子を全力で守ってくれるから。ね?」
美姫は薫子を宥め、励まし、勇気づけようとした。だが、薫子の不安と怖れは益々大きくなり、立ち上がる力などどこにもなかった。
どうしたらいいの......
美姫が途方に暮れていると、床に転がっている薫子のスマホが震動しているのに気付いた。腕を伸ばしてスマホを手にする。
あっ!!!
スマホの着信画面には、悠の名前が表示されていた。美姫は通話ボタンを押すと、息急き切って話し出した。
「悠!薫子が、足が竦んじゃって動けないの......」
電話の向こうで、悠の息を呑む音が聞こえた。
沈黙する悠の向こう側から微かにざわざわとした人々の話し声やアナウンスが聞こえてきて、悠は既に空港にいるのだと伝わってきた。
『......薫子、電話に出られるかな』
「あ、うん。待ってて」
美姫は、薫子の耳にスマホを当てながら彼女に話しかける。
「薫子、悠だよ」
「悠」という言葉を聞き、薫子の躰がピクッと動く。
「ゆ、う...」
『薫子......大丈夫?』
愛しい人の声を聞いた途端、硬い氷のようだった躰が溶かされて力が抜ける。薫子の目尻から、一気に熱い涙が流れ落ちた。
「ッゆ、う......ッグ会い、たい...ヒクッ...会いたい......ウッ...なの、に......ッウゥッ...動け、ないの...ッグ...怖くて、不安で......ック」
込み上げてくる熱い塊を飲み下し、薫子は悠に切々と訴えた。
「薫子、大丈夫。
今から、俺が迎えに行くから」
迷いのない、力強い悠の声が薫子の耳元に響く。
「ぇ...」
悠、が...?
スマホから漏れてくる悠の声を聞いていた美姫も、薫子同様に目を見張った。
「薫子を一人になんてしない。不安も恐れも全て俺に預けて、薫子はそこで待ってて」
「薫子...迎えに来たよ」
薫子は、美姫の声に頭を上げた。その表情は、不安で怯えているかのようだ。
「み、き...」
薫子の震える手を包み込み、安心させるように頷いた。
「だい、じょうぶ。一緒にいこ? 悠が待ってるよ......」
薫子を促すようにして立ち上がりながら手を取って引き上げようとするものの、薫子はそこから動けずにいた。
「怖い...怖い、の......動け、ないの......」
声が震え、擦れていた。
「今になって......美姫の言ってた意味が分かったの。
ねぇ...私、本当に出来るのかな。知らない土地で、誰も知らない人ばかりで、家事も何も出来なくて。悠の未来を奪ってしまうことになるのに、私は彼に何もしてあげられなくて......
美姫...怖い、怖いよ......私......不安で......不安で、不安でたまらないの」
「薫子......」
美姫は震える薫子を目の前にして、深く後悔した。
あの時、私があんなことを言わなければ……薫子は、希望だけを胸にイギリスへ発つことが出来たのに。
私はオーストリアでの秀一さんとの生活を重ねて、薫子に八つ当たりするなんて。最低だ、私......取り返しのつかない過ちを犯してしまった。
なんとか、薫子をここから連れ出さないと。
悠のところに、届けてあげないと......
「大丈夫だよ、薫子。悠が守ってくれる。悠ならきっと、薫子を全力で守ってくれるから。ね?」
美姫は薫子を宥め、励まし、勇気づけようとした。だが、薫子の不安と怖れは益々大きくなり、立ち上がる力などどこにもなかった。
どうしたらいいの......
美姫が途方に暮れていると、床に転がっている薫子のスマホが震動しているのに気付いた。腕を伸ばしてスマホを手にする。
あっ!!!
スマホの着信画面には、悠の名前が表示されていた。美姫は通話ボタンを押すと、息急き切って話し出した。
「悠!薫子が、足が竦んじゃって動けないの......」
電話の向こうで、悠の息を呑む音が聞こえた。
沈黙する悠の向こう側から微かにざわざわとした人々の話し声やアナウンスが聞こえてきて、悠は既に空港にいるのだと伝わってきた。
『......薫子、電話に出られるかな』
「あ、うん。待ってて」
美姫は、薫子の耳にスマホを当てながら彼女に話しかける。
「薫子、悠だよ」
「悠」という言葉を聞き、薫子の躰がピクッと動く。
「ゆ、う...」
『薫子......大丈夫?』
愛しい人の声を聞いた途端、硬い氷のようだった躰が溶かされて力が抜ける。薫子の目尻から、一気に熱い涙が流れ落ちた。
「ッゆ、う......ッグ会い、たい...ヒクッ...会いたい......ウッ...なの、に......ッウゥッ...動け、ないの...ッグ...怖くて、不安で......ック」
込み上げてくる熱い塊を飲み下し、薫子は悠に切々と訴えた。
「薫子、大丈夫。
今から、俺が迎えに行くから」
迷いのない、力強い悠の声が薫子の耳元に響く。
「ぇ...」
悠、が...?
スマホから漏れてくる悠の声を聞いていた美姫も、薫子同様に目を見張った。
「薫子を一人になんてしない。不安も恐れも全て俺に預けて、薫子はそこで待ってて」
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】
その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。
片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。
でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。
なのに、この呼び出しは一体、なんですか……?
笹岡花重
24歳、食品卸会社営業部勤務。
真面目で頑張り屋さん。
嫌と言えない性格。
あとは平凡な女子。
×
片桐樹馬
29歳、食品卸会社勤務。
3課課長兼部長代理
高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。
もちろん、仕事できる。
ただし、俺様。
俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる