【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

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過ち ー美姫sideー

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「おば...さ、ま......」

 低く響いた美姫の声に、薫子はハッとした。

 視界の隅から目の前へと歩いてくるその人は、薫子の母、華子だった。華子は今朝来ていたのと同じ着物姿のまま、優美に膝を折ると目の前の薫子に話しかけた。

「薫子さん、どこへ行こうとしていらしたのですか」

 その声音には、いつも穏やかで感情を表すことのない華子には珍しく、冷ややかなものが含まれていた。

「あの...私たちこれからパーティーに...」
「申し訳ないですけど...美姫さんには、質問していないの」
 
 薫子を心配して口を挟んだ美姫に、華子が厳しい口調で咎めるように言い、美姫はグッと喉を詰まらせた。感情を昂ぶらせることのない華子のそんな様子に、薫子は凍りついたように母を見つめた。
 
「行かせませんよ、風間の息子のところになどは......」

 目の前に迫る強く射るような華子の眼差しと言葉に、薫子はみるみる顔を蒼白にし、瞳孔をこれ以上出来ない程に大きく見開く。
 
 お母様、知ってらして......

「お嬢様、申し訳ありません......」

 扉が開くと同時に、ばあやが腰を深く折った。

 え......!?

 混乱する薫子にばあやが側に近づいて正座し、目の前で皺だらけの手を重ねて頭を下げた。

「ばあ、や......?」
「私が、華子様をお呼び致しました......申し訳ありません。これもお嬢様の為を思ってのこと......」

 そう言ったばあやの肩は、細かく震えていた。

 どうし、て......

 思いもよらぬばあやの密告に、薫子は全身から力が抜け、崩れそうになった躰を美姫が支えた。戸惑いとショックで声も出せずにいる薫子の横で、華子が落ち着いた声音で言った。

「薫子さん...私が昔、貴女の恋人である悠さんの父親、風間悠人はるとと恋人同士だったことは......ご存知、ですね?」
「は、い...ばあやから、聞きました」

 華子は息を細く吐き、目を細めた。それは、過去を見つめる眼差しだった。

「私はあの人のことが...今でもまだ、許せないのです......私の愛情と信頼を裏切り、私の目の前から姿を消し、逃げ出したあの人を......」

 眉を顰め、硬く結んだ唇を震わせる華子の表情からは苦悶が窺える。

「風間の息子が中等部から薫子さんと同じ青海学園に通い、高等部の時に恋人になったことは、ばあやの報告で知っていました。
 自分の娘が、恋人だった息子と恋仲になるなんて......なんという運命の皮肉なのだろう。これも何かの因果なのかと、思い悩みました。
 けれど、私とあの人とのことは、薫子さんと悠さんには関係のないこと。それにまだ子供の付き合いだからと、二人の仲を知りながらもそれを止めることはしませんでした。

 でも......そんな戯れは、お終いです。

 薫子さん。貴女は、櫻井財閥令嬢なのです。貴女は櫻井家の後継者となる男性と結婚し、この家の隆盛の為に尽くさねばなりません。家を捨てて出て行くことなど、当然許されません。
 ......ましてや、あの人の息子など」

 唇をギュッと噛み締めた華子の表情からは、静かな怒りが感じられた。

「なぜ......なぜ、悠と付き合ってはいけないのですか。一緒になれないのですか。
 私たちは、愛し合っているんです!

 過去にお母様と悠のお父様との間に、何があったのですか......」

 薫子は、唇を震わせながらも華子を見つめ、必死に訴えた。

 ずっと疑問に思ってた。

 どうして櫻井と風間が、こんなに険悪な仲になってしまったのかを。
 どうして私たちは、隠れて付き合わなくてはいけないのかを。

 その原因となったふたりの過去を、私は知りたい。ううん、知らなくてはいけない。

 薫子の瞳に映る決意を認め、華子はフッと息を吐いた。

「そうね......薫子さんには、知る権利があるんですものね......
 いいでしょう......私達の過去のことを話して差し上げます」
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