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裏切りと憎しみ ー華子sideー
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華子はそこまで語ると、深い溜息を吐いた。唇が震え、瞳が潤んでいる。
「私が深い苦しみにいる時に私を見捨て、むこうで新たな生活をし、恋に落ち、結婚して……家族を持ったあの人を、もう忘れようとしたのに。
それ、なのに......
どうして...あの人は、戻って来たの......どうして薫子さん......貴女は、あの人の息子と恋に落ちてしまったのですか...... 」
華子は絨毯に手を付くと、嗚咽を漏らした。
「......」
父に対する母、華子のそれほどの嫌悪と憎悪についてもショックだったが、悠の父親との愛憎は、薫子の胸を深く抉った。
悠のお父様とそんなことがあっただなんて......
お母様は未だ過去の呪縛に苦しみ、憎しみと悲しみの中にいらっしゃる。それはきっと、悠のお父様のことを本当に愛し、深く信じていたからこそ、裏切られた悲しみが一層強い憎しみとなってしまったんだ。
「私を裏切った男の息子のところへなど……行かせません。行かせてなるものですか……
あの男は、必ず裏切ります。優しい顔をして、守るだなんて言いながら、背中を向けて去っていくのです」
華子は、悠に悠の父親の悠人を重ね合わせていた。
「違う!悠は違います!彼は、そんな人じゃない......
悠は、何があっても私を守ると言ってくれました。今だって......私のことを迎えに来てくれています!!!」
ハッとした美姫を尻目に、薫子は精一杯の勇気を掻き集めて華子と対峙した。
華子はみるみるうちに鬼のような形相になり、薫子にじりじりと躰を寄せると、肩を掴んで顔を近づけた。
「薫子さん......貴女も私と同じ、籠の鳥。ここから逃れることなんて、出来ないのです……第一…貴女、部屋から出ることも出来ず、怯えていたじゃないですか。
貴女は、今の生活を失うのが怖いのです。そんな貴女に、駆け落ちなど出来る筈ありません」
華子の言葉に、薫子の勇気が萎えそうになる。薫子は、拳をギュッと握り締めた。
「そ、れは………一人では怖いけど、悠と一緒なら何でも乗り越えられます。
いいえ、乗り越えてみせます」
目の前に迫る華子を見据え、真正面から言い切ったが………
「貴女ひとりだけ、幸せになるなんて…絶対に、許さない......させ、ない……」
そこには、薫子の知る母の姿はなかった。
目の前にいるのは、嫉妬に狂うただの女だった。
「お母、様......」
爪が食い込む程に肩を強く掴まれ、薫子は痛みで美しい顔を歪めた。
「華子様、おやめ下さい!」
「おば様、やめて!」
ばあやと美姫が、同時に華子の腕を引き剥がすようにして薫子から離した。
「ッハァ!!!ハァッハァッハァッ……」
華子は腕を掴まれて抵抗し、鼻息を荒くしていたものの、やがて落ち着き始めると、まるで物の怪に取り憑かれて除霊された後のように呆然としていた。
「わ、私......」
薫子も、華子と同様に呆然としていた。20年も同じ屋根の下に暮らしてきた母に、こんな強烈な感情が秘められていたなんて、今まで気づきもしなかった。
母を、怖い…と思うよりも、憐れだと思った。なんと憐れな人なのだろう、と。
背を向けた母の背中は、一段と小さく見えた。
悠...早く、貴方に会いたい......
顔が見たい。声が聞きたい。優しい手で私を撫でて欲しい。逞しいその胸に包まれたい。
お願い...早く、来て......
薫子は心の奥底から、悲鳴のように祈った。
その時、階段を駆け上がるバタバタという音が響いた。
バターーーーーン!!!
ノックすらせず、扉が大きく開け放たれる。
「私が深い苦しみにいる時に私を見捨て、むこうで新たな生活をし、恋に落ち、結婚して……家族を持ったあの人を、もう忘れようとしたのに。
それ、なのに......
どうして...あの人は、戻って来たの......どうして薫子さん......貴女は、あの人の息子と恋に落ちてしまったのですか...... 」
華子は絨毯に手を付くと、嗚咽を漏らした。
「......」
父に対する母、華子のそれほどの嫌悪と憎悪についてもショックだったが、悠の父親との愛憎は、薫子の胸を深く抉った。
悠のお父様とそんなことがあっただなんて......
お母様は未だ過去の呪縛に苦しみ、憎しみと悲しみの中にいらっしゃる。それはきっと、悠のお父様のことを本当に愛し、深く信じていたからこそ、裏切られた悲しみが一層強い憎しみとなってしまったんだ。
「私を裏切った男の息子のところへなど……行かせません。行かせてなるものですか……
あの男は、必ず裏切ります。優しい顔をして、守るだなんて言いながら、背中を向けて去っていくのです」
華子は、悠に悠の父親の悠人を重ね合わせていた。
「違う!悠は違います!彼は、そんな人じゃない......
悠は、何があっても私を守ると言ってくれました。今だって......私のことを迎えに来てくれています!!!」
ハッとした美姫を尻目に、薫子は精一杯の勇気を掻き集めて華子と対峙した。
華子はみるみるうちに鬼のような形相になり、薫子にじりじりと躰を寄せると、肩を掴んで顔を近づけた。
「薫子さん......貴女も私と同じ、籠の鳥。ここから逃れることなんて、出来ないのです……第一…貴女、部屋から出ることも出来ず、怯えていたじゃないですか。
貴女は、今の生活を失うのが怖いのです。そんな貴女に、駆け落ちなど出来る筈ありません」
華子の言葉に、薫子の勇気が萎えそうになる。薫子は、拳をギュッと握り締めた。
「そ、れは………一人では怖いけど、悠と一緒なら何でも乗り越えられます。
いいえ、乗り越えてみせます」
目の前に迫る華子を見据え、真正面から言い切ったが………
「貴女ひとりだけ、幸せになるなんて…絶対に、許さない......させ、ない……」
そこには、薫子の知る母の姿はなかった。
目の前にいるのは、嫉妬に狂うただの女だった。
「お母、様......」
爪が食い込む程に肩を強く掴まれ、薫子は痛みで美しい顔を歪めた。
「華子様、おやめ下さい!」
「おば様、やめて!」
ばあやと美姫が、同時に華子の腕を引き剥がすようにして薫子から離した。
「ッハァ!!!ハァッハァッハァッ……」
華子は腕を掴まれて抵抗し、鼻息を荒くしていたものの、やがて落ち着き始めると、まるで物の怪に取り憑かれて除霊された後のように呆然としていた。
「わ、私......」
薫子も、華子と同様に呆然としていた。20年も同じ屋根の下に暮らしてきた母に、こんな強烈な感情が秘められていたなんて、今まで気づきもしなかった。
母を、怖い…と思うよりも、憐れだと思った。なんと憐れな人なのだろう、と。
背を向けた母の背中は、一段と小さく見えた。
悠...早く、貴方に会いたい......
顔が見たい。声が聞きたい。優しい手で私を撫でて欲しい。逞しいその胸に包まれたい。
お願い...早く、来て......
薫子は心の奥底から、悲鳴のように祈った。
その時、階段を駆け上がるバタバタという音が響いた。
バターーーーーン!!!
ノックすらせず、扉が大きく開け放たれる。
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