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約束
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その日もいつものように、悠のことを考えながらベッドに佇んでいると、遠慮がちに扉がノックされた。
きっとメイドが食事を下げにきたのだろう。ベッドの上に置かれたテーブルの皿は、スープに少し手がつけられただけで、あとは出された時と同じままの状態だった。
薫子にはもう、食欲というものがどんな感じなのか思い出すことすら出来ずにいた。
「はい」
小さく答えると、扉が開かれる。
顔を覗かせたのは、メイドではなく、ばあやだった。
「薫子様......大和様が、みえています」
薫子は、肩をビクンと震わせた。
「......帰ってもらって下さ...」
言い終わらないうちに扉が大きく開かれ、ばあやの後ろから大和が現れた。
「すまん、勝手に上がった」
薫子は少し不満げな顔を見せた後、諦めたように溜息を吐いた。ばあやはそんな薫子の様子を心配しつつも、黙って食事を下げると部屋を出て行った。
見上げた大和の表情は、前回、薫子に会いに来た時よりも顔色が悪いように思えた。
悠の容体は安定し、家族以外の面会ももう許されているとLINEで知らせてきたのにどうしてだろう......
そう疑問に思いつつも、もしや悠の状態が急変したのではと思うと、薫子は恐くて聞けずにいた。
ふたりきりになると、大和は肩に背負っていたネイビーのデイパックを下ろした。ジッパーを下げ、中に腕を入れると、そこから小さな箱を取り出した。
「......ほんとは、本人の承諾なしに渡すべきじゃないって思って、渡すつもりはなかったんだけど」
そう言いつつも、大和は掌の中に収まっている白い小箱を薫子に差し出した。
「悠が、薫子を迎えに行った際、あいつは俺に荷物を預けた。
その後、悠が事故に遭って警察に渡す前に......お前たちの関係がばれるとまずいと思って、カバンの中を調べたらそれが入ってた」
薫子の鼓動がピクン、と跳ねた。
大和から箱を受け取ると、薫子は少し躊躇いつつも白い箱を開けた。
中には、薄いピンクのベルベットの箱が入っていた。左手の掌に小箱を載せ、右手の親指に力を込めながら上げると、パコッという音と共に箱が開いた。
「可愛い......」
思わず声が漏れる。
ハートの形をしたダイヤモンドがあしらわれた指輪。指で掴んで翳してみると、通常のダイヤモンドよりも仄かにピンクがかかっていた。
ピンクダイヤモンド......
それを認めた途端、薫子の胸が急激に高鳴っていく。
無色透明なダイヤモンドに比べ、年間生産量が僅か0.1%と言われるピンクダイヤモンド。良質で天然のピンクダイヤモンドを採掘できるのはオーストラリアのアーガイル鉱山しかなく、しかも年々生産量が減少しているため2018年には採掘が終了する予定となっている。
薫子は、これが間違いなく悠から自分への婚約指輪であることを知っていた。
ピンクダイヤモンドの石言葉は「永遠の愛」。
『いつか君にプロポーズする時には、永遠の愛を意味するピンクダイヤモンドの指輪を贈るから、受け取ってくれる?』
以前悠に言われた言葉が、薫子の耳奥で再現される。
指輪の他には、プロポーズを示すものは何もない。
それでも、薫子には......悠の言葉が、想いが、はっきりと伝わってくるようだった。
悠は、私と駆け落ちすると決めた時に、本気で一生添い遂げようと覚悟してくれていたんだ。
不安になり、怖がって、迷ってしまった私とは違って---未来への道が、彼には真っ直ぐ見えていたんだ。
限りなく深く大きな悠の愛情に包まれていたのに、私は......それを、見失っていた。
取り戻したい。
ふたりの時間を。ふたりの想いを。ふたりの愛情を。
この、手に。
「大和......」
薫子は、大和を真っ直ぐに見据えた。
「お願い。悠に、会わせて欲しいの」
それを聞き、大和がホッとしたように微笑み、頷いた。
「あぁ」
きっとメイドが食事を下げにきたのだろう。ベッドの上に置かれたテーブルの皿は、スープに少し手がつけられただけで、あとは出された時と同じままの状態だった。
薫子にはもう、食欲というものがどんな感じなのか思い出すことすら出来ずにいた。
「はい」
小さく答えると、扉が開かれる。
顔を覗かせたのは、メイドではなく、ばあやだった。
「薫子様......大和様が、みえています」
薫子は、肩をビクンと震わせた。
「......帰ってもらって下さ...」
言い終わらないうちに扉が大きく開かれ、ばあやの後ろから大和が現れた。
「すまん、勝手に上がった」
薫子は少し不満げな顔を見せた後、諦めたように溜息を吐いた。ばあやはそんな薫子の様子を心配しつつも、黙って食事を下げると部屋を出て行った。
見上げた大和の表情は、前回、薫子に会いに来た時よりも顔色が悪いように思えた。
悠の容体は安定し、家族以外の面会ももう許されているとLINEで知らせてきたのにどうしてだろう......
そう疑問に思いつつも、もしや悠の状態が急変したのではと思うと、薫子は恐くて聞けずにいた。
ふたりきりになると、大和は肩に背負っていたネイビーのデイパックを下ろした。ジッパーを下げ、中に腕を入れると、そこから小さな箱を取り出した。
「......ほんとは、本人の承諾なしに渡すべきじゃないって思って、渡すつもりはなかったんだけど」
そう言いつつも、大和は掌の中に収まっている白い小箱を薫子に差し出した。
「悠が、薫子を迎えに行った際、あいつは俺に荷物を預けた。
その後、悠が事故に遭って警察に渡す前に......お前たちの関係がばれるとまずいと思って、カバンの中を調べたらそれが入ってた」
薫子の鼓動がピクン、と跳ねた。
大和から箱を受け取ると、薫子は少し躊躇いつつも白い箱を開けた。
中には、薄いピンクのベルベットの箱が入っていた。左手の掌に小箱を載せ、右手の親指に力を込めながら上げると、パコッという音と共に箱が開いた。
「可愛い......」
思わず声が漏れる。
ハートの形をしたダイヤモンドがあしらわれた指輪。指で掴んで翳してみると、通常のダイヤモンドよりも仄かにピンクがかかっていた。
ピンクダイヤモンド......
それを認めた途端、薫子の胸が急激に高鳴っていく。
無色透明なダイヤモンドに比べ、年間生産量が僅か0.1%と言われるピンクダイヤモンド。良質で天然のピンクダイヤモンドを採掘できるのはオーストラリアのアーガイル鉱山しかなく、しかも年々生産量が減少しているため2018年には採掘が終了する予定となっている。
薫子は、これが間違いなく悠から自分への婚約指輪であることを知っていた。
ピンクダイヤモンドの石言葉は「永遠の愛」。
『いつか君にプロポーズする時には、永遠の愛を意味するピンクダイヤモンドの指輪を贈るから、受け取ってくれる?』
以前悠に言われた言葉が、薫子の耳奥で再現される。
指輪の他には、プロポーズを示すものは何もない。
それでも、薫子には......悠の言葉が、想いが、はっきりと伝わってくるようだった。
悠は、私と駆け落ちすると決めた時に、本気で一生添い遂げようと覚悟してくれていたんだ。
不安になり、怖がって、迷ってしまった私とは違って---未来への道が、彼には真っ直ぐ見えていたんだ。
限りなく深く大きな悠の愛情に包まれていたのに、私は......それを、見失っていた。
取り戻したい。
ふたりの時間を。ふたりの想いを。ふたりの愛情を。
この、手に。
「大和......」
薫子は、大和を真っ直ぐに見据えた。
「お願い。悠に、会わせて欲しいの」
それを聞き、大和がホッとしたように微笑み、頷いた。
「あぁ」
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