187 / 355
衝撃の事実
1
しおりを挟む
悠に別れを告げられた日から、再び薫子はベッドで生活するようになっていた。
相変わらず食欲もない。涙も枯れ果て、もう考えることを拒否したかのようにボーッと過ごし、一日の大半を眠って過ごした。
薫子の生命を維持する機能が低下しているのではないだろうかと、ばあやは危惧した。
大和に連れられて薫子が家に帰った時、ばあやは彼女を悠のいる病院へ連れて行ったことは間違いだったと深く後悔した。悠に会えば薫子は元気になると信じていたというのに、帰って来た薫子は今までよりも更に顔色が悪く、死相が出ているかのようだった。ばあやは、薫子がこのまま衰弱死してしまうのではないかと、気が気ではなかった。
薫子はいつものようにベッドに潜り込み、靄の中を彷徨っていた。歩いても歩いても濃い白霧の中、薫子は何かを探して歩く。
どこ......
どこ、なの......
どこに、いるの?
コツン。コツン。
濃霧の中で、微かに音が響く。
私は、この音を知っている。
聞いたことが、ある。
あれは、確か......
微睡んでいた薫子の瞳がゆっくりと開く。
悠......が、呼んで...いる。
私、を......迎えに来たんだ!
薫子はベッドから足をそろえておりると、窓辺へと近づいた。バルコニーの扉を開け、裸足のまま踏み出したが、不思議と冷たさは感じなかった。
悠、悠......待ってて。
行かないで、お願い。
私も、すぐに行くから。
今度こそ、私も行くから......
悠の元に、ちゃんと行くから......
お願い、待ってて。
バルコニーの端に置いてある植木鉢の上に足を乗せ、身を乗り出す。薫子の視界の下には、門の下で微笑み、手を振る悠がいた。
悠! やっぱり、来てくれた......
別れようなんて、嘘、だったんだ。
悠! 会いたい。
今すぐ、会いたい......
手摺りに寄りかかり、腕を伸ばす。
その途端、ギシッと木の軋む音が響いた。
メリメリメリッ!!!
木の引き裂く音が響き、寄りかかった薫子の躰が、腐って引き剥がされた手摺りと共に落ちていく。
「ッッ!!!」
ふわっと躰が一瞬浮き上がるような不思議な感覚の後、今度は引き摺り込まれるように頭から真っ逆さまに落ちていった。
2階のバルコニーから地面まではそれほどの距離はないのに、時間がゆっくりと流れ、人生の出来事が走馬灯のように駆け巡る。
幼い美姫と手を繋いで笑いあった幼稚舎時代。
初めて悠に出会った日、髪についた花弁を払ってくれた彼の指先。
中等部での入学式で再会した薫子の名前を呼んでくれた声。
冬の星空を眺めながら見つめた横顔。
親同士が対立しているとわかった時の戦慄と悲しみ。
告白してくれた時の胸の高鳴り。
4人で行った花火大会。
初めて触れた、彼の冷たい唇。
抱きしめられた時の硬い胸の感触。
全てを捧げ、愛し合った肌の温もり。
それらが......次々に鮮かに浮かんでは消えていく。
瞼の裏に強烈に光を放つ、愛しい人の姿。
私にだけ見せてくれる、微笑み。
優しく見つめる、眼差し。
愛おしく触れる、指。
悠......!!!
薫子が意識を失うと同時に、
ブヮサッ!!!!!
包み込まれるようにして、彼女の躰が雪で覆われた茂みの上に落ちた。
相変わらず食欲もない。涙も枯れ果て、もう考えることを拒否したかのようにボーッと過ごし、一日の大半を眠って過ごした。
薫子の生命を維持する機能が低下しているのではないだろうかと、ばあやは危惧した。
大和に連れられて薫子が家に帰った時、ばあやは彼女を悠のいる病院へ連れて行ったことは間違いだったと深く後悔した。悠に会えば薫子は元気になると信じていたというのに、帰って来た薫子は今までよりも更に顔色が悪く、死相が出ているかのようだった。ばあやは、薫子がこのまま衰弱死してしまうのではないかと、気が気ではなかった。
薫子はいつものようにベッドに潜り込み、靄の中を彷徨っていた。歩いても歩いても濃い白霧の中、薫子は何かを探して歩く。
どこ......
どこ、なの......
どこに、いるの?
コツン。コツン。
濃霧の中で、微かに音が響く。
私は、この音を知っている。
聞いたことが、ある。
あれは、確か......
微睡んでいた薫子の瞳がゆっくりと開く。
悠......が、呼んで...いる。
私、を......迎えに来たんだ!
薫子はベッドから足をそろえておりると、窓辺へと近づいた。バルコニーの扉を開け、裸足のまま踏み出したが、不思議と冷たさは感じなかった。
悠、悠......待ってて。
行かないで、お願い。
私も、すぐに行くから。
今度こそ、私も行くから......
悠の元に、ちゃんと行くから......
お願い、待ってて。
バルコニーの端に置いてある植木鉢の上に足を乗せ、身を乗り出す。薫子の視界の下には、門の下で微笑み、手を振る悠がいた。
悠! やっぱり、来てくれた......
別れようなんて、嘘、だったんだ。
悠! 会いたい。
今すぐ、会いたい......
手摺りに寄りかかり、腕を伸ばす。
その途端、ギシッと木の軋む音が響いた。
メリメリメリッ!!!
木の引き裂く音が響き、寄りかかった薫子の躰が、腐って引き剥がされた手摺りと共に落ちていく。
「ッッ!!!」
ふわっと躰が一瞬浮き上がるような不思議な感覚の後、今度は引き摺り込まれるように頭から真っ逆さまに落ちていった。
2階のバルコニーから地面まではそれほどの距離はないのに、時間がゆっくりと流れ、人生の出来事が走馬灯のように駆け巡る。
幼い美姫と手を繋いで笑いあった幼稚舎時代。
初めて悠に出会った日、髪についた花弁を払ってくれた彼の指先。
中等部での入学式で再会した薫子の名前を呼んでくれた声。
冬の星空を眺めながら見つめた横顔。
親同士が対立しているとわかった時の戦慄と悲しみ。
告白してくれた時の胸の高鳴り。
4人で行った花火大会。
初めて触れた、彼の冷たい唇。
抱きしめられた時の硬い胸の感触。
全てを捧げ、愛し合った肌の温もり。
それらが......次々に鮮かに浮かんでは消えていく。
瞼の裏に強烈に光を放つ、愛しい人の姿。
私にだけ見せてくれる、微笑み。
優しく見つめる、眼差し。
愛おしく触れる、指。
悠......!!!
薫子が意識を失うと同時に、
ブヮサッ!!!!!
包み込まれるようにして、彼女の躰が雪で覆われた茂みの上に落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】
その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。
片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。
でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。
なのに、この呼び出しは一体、なんですか……?
笹岡花重
24歳、食品卸会社営業部勤務。
真面目で頑張り屋さん。
嫌と言えない性格。
あとは平凡な女子。
×
片桐樹馬
29歳、食品卸会社勤務。
3課課長兼部長代理
高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。
もちろん、仕事できる。
ただし、俺様。
俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる