【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

文字の大きさ
202 / 355
真実

しおりを挟む
 遼は、指輪を握り締めたまま、悠の病室の前に立っていた。ゴクリと唾を飲み込むと、軽く扉を二回ノックする。

 暫くして歩幅の狭い足音が近づき、扉がゆっくりと開かれた。

「わざわざありがとうございます」

 そう言って頭を下げたのは、悠の母親の静音だった。肩までの髪には何本か白髪が混じっており、その表情にはやつれた様子はみられるものの、悠が回復の兆しを見せていることもあってか、落ち着いていた。

「ど、どうも......」

 こんな場に慣れていない遼は、小さくお辞儀をした。

 悠のお袋って初めて見たけど、似てねぇな。ってか、親父にそっくりだよな、あいつ。

「こちらへ、どうぞ」
「あ、はい」

 遼は、静音の後ろをついて歩いた。

 てか、なんだよ。ここ、病室かよ......すげぇ広いな。
 さすが風間財閥のボンボンは待遇が違うな。俺なんか、入院してもぜってぇ一般病棟のしかも4人部屋とか入れられそうだ。てか、そーいや昔骨折して入院した時、4人部屋入れられたよな、俺。

 静音は、悠を窺うようにそっと声を掛けた。

「悠ちゃん、お友達が来てくれましたよ。
 えっ、と......?」

 先ほど扉を開錠してもらう際に名乗ってもらいながら、名前を忘れてしまった静音は申し訳無さげに遼を振り返った。

「香西、遼です」

 その声に、目を閉じていた悠の肩が僅かにピクッと震えた。

「それでは、私はこれから買い物に出かけてきますので、ごゆっくりどうぞ」
「あ、ありがとうございます」

 互いに、ぎこちなくお辞儀する。

 静音は悠に、「また、後で来ますね......」と声を掛けて出て行った。

 扉が閉まり、遼は大きく息を吐き出した。

 風間のお袋さん、『悠ちゃん』とか......マジ、ビックリした。風間はマザコンって感じしねぇけど、お袋さんの方は相当息子にベッタリみてぇだな。
 ......きっとここにいる間、心配でたまんねーで、片時も離れずに看病してんだろうな。

 それにしても......慣れねぇことすんの、疲れんな。

 静音が病室を出て行ってくれたおかげで、遼は緊張感から解放されて伸びをした。

 だが、扉が閉まる音が聞こえても、悠は目を閉じたままだった。まるで、全身で遼と話すことを拒否しているようだ。

 遼は、大和から詳しい事故の様子を聞いていたのであらかじめ覚悟はしていたものの、実際に悠の姿を見て、どれだけ凄まじい事故だったのかを思い知らされた。意識不明の重体だった悠が意識を覚ましたのは、奇跡に近い。

 遼は以前骨折して入院した時に、いかに足が動かせないことが不自由なのか思い知ったが、悠の状態を見て、ほとんど躰を動かすことは不可能だろうと悟った。

 だが遼は、慰めの言葉をかけることはせず、いつも大学で会うときのように声をかけた。

「よぉ。顔見に来てやったぞ」

 すると、悠が遼から顔を背けた。

「駆け落ちが失敗して、惨めな顔を拝みにでも来たのか?」

 普段は抑揚のない無感情な声音の悠が、今は声に皮肉めいたものが混じっていた。

「あぁ、その情けない顔を拝みに来てやった......」

 遼はそう言い返すと、グッと掌の指輪を握り締めた。


「風間、約束だ。薫子は、俺が貰い受ける。
 ......俺はあいつと、1ヶ月後に結婚式を挙げる」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】 その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。 片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。 でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。 なのに、この呼び出しは一体、なんですか……? 笹岡花重 24歳、食品卸会社営業部勤務。 真面目で頑張り屋さん。 嫌と言えない性格。 あとは平凡な女子。 × 片桐樹馬 29歳、食品卸会社勤務。 3課課長兼部長代理 高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。 もちろん、仕事できる。 ただし、俺様。 俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

処理中です...