【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

文字の大きさ
203 / 355
真実

しおりを挟む
 悠は一瞬息を呑んだ後、抑揚のない声で答えた。

「あぁ......」

 薫子が悠に別れを告げられたことは聞いていたが、これ程までにあっさりと受けいれられたことに、遼はなぜか憤りを感じた。

「おま......あいつに、別れるって言ったのか」
「あぁ」
「っ......お前は、それでいいのかよ!?
 あんだけ俺に、『薫子は絶対に渡さない』、『俺が必ず守る』って啖呵切ってたくせに! あの言葉は、なんだったんだ!!!」

 声を荒げる遼に、悠は可笑しそうに笑った。

「君は、薫子が欲しいんだろ?
 なぜ自分の思い通りになったのに、俺に対して発破を掛けるようなことを言うんだ? 矛盾してる」

 そう、だけど。
 そう、だけどよ......

 確かに、悠と薫子の駆け落ちが上手くいかず、ふたりが別れたことは遼にとって好都合のはずだった。

 だが、遼には納得がいかなかった。

 こっちは臨戦態勢万全だったってのに、いきなり試合放棄されて肩透かしくらった気分だ。
 こんな結末を、俺は望んでたわけじゃねぇ......

「ふっざけんな! こんなもんまで用意してたくせに!
 お前の決意は、そんなもんだったのかよ!?」

 遼は悠の正面に回り、右手を突き出した。

 その拳の中には、指輪があった。だが、悠は受け取ろうとしない。

「ほら、お前のもんだろが。薫子に、返してくれって頼まれたんだ」

 遼は拳を開くと、悠に向かって指輪を弾いて見せた。

 てっきり悠がキャッチするかと思ったが、指輪は悠の手に触れることはなかった。弾かれた指輪が悠の胸にバウンドし、ベッドから床に落ち、細かな金属音を立てながらくるくると回った後、それはパタンと床に伏せった。

「ったく、ちゃんと取れよ......」

 そう言いながら悠の顔を正面から見つめた遼は、違和感を感じた。悠の視線は、前を向いているはずなのに焦点が合っていないのだ。
 それは、寝ぼけていたり、微睡んでいる時のような目の状態とは、違っていた。

 ま、るで......

 そう思った途端、思わず遼が声を上げた。

「お、ま......もしか、して......」

「香西。今投げたそれを、拾ってくれるか」

 悠は、安定感のない声でそう言った。

「あ? あ、ぁ......」

 遼は、蒼白した表情で、床に落ちた指輪を拾うため腰を曲げた。動揺して何度か床を掴み、ようやく指輪を手にした。

「ほ、ら......」

 試すかのように、少し離れたところから悠に向かって震えている右手を差し出す。悠の手が、気配からそれを追おうと目線が彷徨う。

 遼が、手を近づけた。悠の左手が布団から出ると、彼の右肩から腕にかけて巻かれたギプスが露わになった。

「ッ......」

 途端に、遼は指輪を彼に向けて弾いたことを後悔した。

 ゆっくりと伸ばされた悠の左手が、遼の腕に触れる。手首から掌へと辿り......ようやく、悠は指輪を手にした。

 悠は開いた左手の掌の上に指輪を載せると、指先を曲げてそれを確かめた。指先で輪の輪郭を辿り、爪の部分に触れ、硬い石を撫でる。

 それが、自分が薫子にプロポーズするために購入した婚約指輪だと確信すると、一瞬喉を押し潰したようなグッと低い音を出す。それから、細く長い息を吐きだした。

 その様子を、遼は息を詰めて見守っていた。

 肩を小さく震わせて俯いた悠が、手にした指輪を力強く握り締め、押し殺した声で低く遼に告げる。


「事故で......
 両目の視力を、失った......」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】 その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。 片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。 でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。 なのに、この呼び出しは一体、なんですか……? 笹岡花重 24歳、食品卸会社営業部勤務。 真面目で頑張り屋さん。 嫌と言えない性格。 あとは平凡な女子。 × 片桐樹馬 29歳、食品卸会社勤務。 3課課長兼部長代理 高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。 もちろん、仕事できる。 ただし、俺様。 俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

処理中です...