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突きつけられた現実
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大学に通っていた時は、いつも遼を背中を追いかけて歩かなければいけない薫子だったが、妊娠して以来、歩幅を合わせて歩いてくれるようになった。そんな小さな優しさが嬉しくもあり、胸が痛くもなった。
冬の海岸通りに面した店はどこも固く閉ざされ、まるで見捨てられたような寂しげな雰囲気を纏っていた。夏であれば海水浴客やサーフィンをする若者で賑わっているであろうカフェテリアも、外から覗いた限りでは客の姿は見えず、がらんとしていた。
遼は、その隣にある年季の入った薄汚れた看板の掛けられているラーメン屋の暖簾をくぐった。
ここに.....入るの?
薫子がそこへ入るのに躊躇していると、一旦暖簾をくぐった遼が戻ってきた。
「何してんだ。ここだ、入れ」
遼が上げてくれた暖簾をくぐり、引き戸を開けて中に入る。
予想どおり、客は薫子と遼しかいなかった。遼は慣れた様子でカウンターに置いてある雑巾を手にすると、奥のテーブル席に座り、雑巾でテーブルを拭いた。
店内の様子と拭いても綺麗にならないテーブルから、椅子に座るのが躊躇われる。薫子はハンカチを広げて敷き、その上に座ることにした。
おずおずと座ってから、改めて周りを見回す。ぐるりと囲まれた壁にはメニューが短冊のように並べてあり、それを眺めて感慨深げに呟いた。
「私......ラーメン屋さんに入ったの、初めて」
遼はそれを聞き、心の中で舌打ちした。
ったく、ふたりして同じこと言いやがって。
薫子がメニューを眺めていると、突然頭に影が差した。
「...っらっしゃい」
野太い声に驚いて見上げると、がたいのいい男が水差しとコップを2つ持って立っていた。
「ど、どぉも」
思わず薫子がお辞儀すると、店主は頷いた。これでも愛想よくしているつもりらしい。
「親父、味噌ラーメン2つにご飯大盛り2つ、餃子2つ!」
迷いのない遼の注文を聞き、薫子が慌てて制す。
「りょ、遼ちゃん......私、そんなに食べられないよ」
「何言ってんだ。ふたり分食わねーとダメだろが!」
それを聞き、店主が薫子のお腹に目をやった後、無言で頷き厨房へと入っていった。
店主が見えなくなったのを確認した後、薫子が小さく尋ねる。
「ねぇ、遼ちゃん。なんでラーメンにご飯なの?
どっちも炭水化物だから、ご飯は必要ないんじゃない?」
また、かよ......
「ったく、ラーメンっつったらご飯ねぇと物足りねぇって言ってんだろ!
文句言わずに食え!」
え......なんで遼ちゃんそんなに怒ってるの?
それに、まるで以前にも私が同じようなこと言ったような口ぶりだし......
腑に落ちない薫子を目の前に、遼はフンッと鼻息を鳴らし、ふんぞり返った。
以前来た時に比べて2倍ほど早く、味噌ラーメンとご飯と餃子がテーブルに届けられた。
ったく...女に興味ねぇような顔しながらも、しっかり差別してんな親父。
無愛想な店主の顔を、遼は見上げた。
その証拠に、薫子の味噌ラーメンにはチャーシューがおまけされ、餃子の数も遼のよりも多かった。しかも薫子のラーメン鉢や餃子の皿、箸はおろしたてなのか、遼の使い込まれた食器類と同じものであるにも関わらず、色まで違っていた。
目の前に置かれたどんぶりからは白い湯気と共に濃厚な味噌の香りが鼻腔をつき、薫子は久しぶりにお腹がすいた時の感覚を思い出した。今までならその匂いで胃がムカつき、吐き気を覚えていたというのに、悪阻は嘘のようになくなっていた。どんぶりに綺麗に盛り付けられた味の染み込んだ煮卵や見ているだけでシャキシャキした食感が伝わって来るメンマ、肉厚なチャーシュー等を見ているうちに、薫子の食欲がどんどん刺激されてくる。
食べて、みたいかも......
おそるおそる箸をつけた薫子だったが、麺が喉を通った瞬間、その表情が驚きへと変化する。
「美味、しい......」
「だろ? あの風間が、ラーメンの味だけは上手いって褒めてたんだぞ」
思わず口を滑らせた遼の言葉に、薫子の箸を持つ手が止まった。先程の車中での会話が蘇り、胸がズクンと痛んだ。
「悠と......ここに、来てたんだ......」
「あ...あぁ......」
や、べ......また口滑らしちまった。
ラーメン屋では、遼は努めて明るく振舞っていた。もっと食べろと餃子を皿に載せたり、水も飲んだ方がいいと、溢れそうになるギリギリまでグラスに水を汲んだり。
だが、薫子の瞳には、遼の動揺が伝わってきていた。
薫子に悠の別れの真意を告げた上で、人生の決断を迫った遼。それは、自分の人生が薫子の手に委ねられているということでもある。
遼、ちゃん......
遼のそんな心の内を察しながらも、明るく振舞う彼に対し、薫子は気づかぬふりをするしか出来なかった。
冬の海岸通りに面した店はどこも固く閉ざされ、まるで見捨てられたような寂しげな雰囲気を纏っていた。夏であれば海水浴客やサーフィンをする若者で賑わっているであろうカフェテリアも、外から覗いた限りでは客の姿は見えず、がらんとしていた。
遼は、その隣にある年季の入った薄汚れた看板の掛けられているラーメン屋の暖簾をくぐった。
ここに.....入るの?
薫子がそこへ入るのに躊躇していると、一旦暖簾をくぐった遼が戻ってきた。
「何してんだ。ここだ、入れ」
遼が上げてくれた暖簾をくぐり、引き戸を開けて中に入る。
予想どおり、客は薫子と遼しかいなかった。遼は慣れた様子でカウンターに置いてある雑巾を手にすると、奥のテーブル席に座り、雑巾でテーブルを拭いた。
店内の様子と拭いても綺麗にならないテーブルから、椅子に座るのが躊躇われる。薫子はハンカチを広げて敷き、その上に座ることにした。
おずおずと座ってから、改めて周りを見回す。ぐるりと囲まれた壁にはメニューが短冊のように並べてあり、それを眺めて感慨深げに呟いた。
「私......ラーメン屋さんに入ったの、初めて」
遼はそれを聞き、心の中で舌打ちした。
ったく、ふたりして同じこと言いやがって。
薫子がメニューを眺めていると、突然頭に影が差した。
「...っらっしゃい」
野太い声に驚いて見上げると、がたいのいい男が水差しとコップを2つ持って立っていた。
「ど、どぉも」
思わず薫子がお辞儀すると、店主は頷いた。これでも愛想よくしているつもりらしい。
「親父、味噌ラーメン2つにご飯大盛り2つ、餃子2つ!」
迷いのない遼の注文を聞き、薫子が慌てて制す。
「りょ、遼ちゃん......私、そんなに食べられないよ」
「何言ってんだ。ふたり分食わねーとダメだろが!」
それを聞き、店主が薫子のお腹に目をやった後、無言で頷き厨房へと入っていった。
店主が見えなくなったのを確認した後、薫子が小さく尋ねる。
「ねぇ、遼ちゃん。なんでラーメンにご飯なの?
どっちも炭水化物だから、ご飯は必要ないんじゃない?」
また、かよ......
「ったく、ラーメンっつったらご飯ねぇと物足りねぇって言ってんだろ!
文句言わずに食え!」
え......なんで遼ちゃんそんなに怒ってるの?
それに、まるで以前にも私が同じようなこと言ったような口ぶりだし......
腑に落ちない薫子を目の前に、遼はフンッと鼻息を鳴らし、ふんぞり返った。
以前来た時に比べて2倍ほど早く、味噌ラーメンとご飯と餃子がテーブルに届けられた。
ったく...女に興味ねぇような顔しながらも、しっかり差別してんな親父。
無愛想な店主の顔を、遼は見上げた。
その証拠に、薫子の味噌ラーメンにはチャーシューがおまけされ、餃子の数も遼のよりも多かった。しかも薫子のラーメン鉢や餃子の皿、箸はおろしたてなのか、遼の使い込まれた食器類と同じものであるにも関わらず、色まで違っていた。
目の前に置かれたどんぶりからは白い湯気と共に濃厚な味噌の香りが鼻腔をつき、薫子は久しぶりにお腹がすいた時の感覚を思い出した。今までならその匂いで胃がムカつき、吐き気を覚えていたというのに、悪阻は嘘のようになくなっていた。どんぶりに綺麗に盛り付けられた味の染み込んだ煮卵や見ているだけでシャキシャキした食感が伝わって来るメンマ、肉厚なチャーシュー等を見ているうちに、薫子の食欲がどんどん刺激されてくる。
食べて、みたいかも......
おそるおそる箸をつけた薫子だったが、麺が喉を通った瞬間、その表情が驚きへと変化する。
「美味、しい......」
「だろ? あの風間が、ラーメンの味だけは上手いって褒めてたんだぞ」
思わず口を滑らせた遼の言葉に、薫子の箸を持つ手が止まった。先程の車中での会話が蘇り、胸がズクンと痛んだ。
「悠と......ここに、来てたんだ......」
「あ...あぁ......」
や、べ......また口滑らしちまった。
ラーメン屋では、遼は努めて明るく振舞っていた。もっと食べろと餃子を皿に載せたり、水も飲んだ方がいいと、溢れそうになるギリギリまでグラスに水を汲んだり。
だが、薫子の瞳には、遼の動揺が伝わってきていた。
薫子に悠の別れの真意を告げた上で、人生の決断を迫った遼。それは、自分の人生が薫子の手に委ねられているということでもある。
遼、ちゃん......
遼のそんな心の内を察しながらも、明るく振舞う彼に対し、薫子は気づかぬふりをするしか出来なかった。
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