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婚約破棄
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遼がグッと唇を引き結び、腰を浮かせようとした。
だが、宏和が首を振って制した。
それを受け、もう一度ソファに座った息子を確認すると、大きく息を吐き出す。
薫子も、逸子も何も話さず、視線が下に向いたままだった。リビングの時計の針の音だけが、妙に大きく部屋に響く。
俯いている薫子に向かい、宏和が穏やかに話しかけた。
「薫子さんは、話がしたいと言って、来てくれたんだったね。
話を......聞かせてくれるかな」
薫子はようやくゆっくりと顔を上げると、涙の伝った頬を拭った。
「はい......」
俯いていた逸子も顔を上げ、テーブルの下に置いてあった盆を取り出す。ティーカップを載せていくが、その手先の動きはいつものように滑らかではなかった。
「お茶が冷めてしまったから......入れ直してくるわね」
快活さのない、強張った逸子の声音を聞いた薫子は居たたまれなくなり、ただ小さく頷いた。
逸子が紅茶を入れ直すのを待つ間、重苦しい空気が流れる。遼ですら、何も言わず、黙ってテーブルの一点を見つめているだけだ。
「お待たせ」
そう言って逸子が戻ってきたのは救いであったが、これからの話し合いを思うと薫子は更に気が重くなった。
逸子がティーカップを配り終え、ソファに座るのを見届けてから、薫子は喉に詰まったものを追い出すように咳払いをしたが、それは取り除かれることはなかった。
いったん目を伏せてから、薫子は決意したように顔を上げた。
「私には......遼さんとお見合いする前から、お付き合いしている方がいました」
逸子は、薫子の裏切りとも呼べるその言葉に、息を呑んだ。宏和は、ただ黙って薫子を見つめた。
ふたりとも口には出さないものの、薫子の相手が誰なのかという疑問が自然と頭に浮かび上がっていた。
薫子は、敢えて悠の名前を告げることはしなかった。遼の両親を信用していないわけではないが、万が一にも悠に迷惑がかかるようなことにはなりたくなかったからだ。
「私、は......父からお見合いの話を聞いた時、断るつもりでした。けれど、父は......私の話には一切耳を貸さず、櫻井家...いえ、櫻井財閥のためだとねじ伏せられました。私には、それ以上父に抵抗することは......出来ませんでした。
お見合い相手は、当日まで知らされませんでした。そして当日、私は遼さんが父が決めた結婚相手であることを知ったのです。
私が、弱いばかりに......遼さんに対してお見合い話を断れず、婚約発表までして......今、式はもう......目前に、迫っています。おばさまやおじさま、佳那さんには本当の家族のように温かく接して頂いていたのに、子供のことを隠し、ご家族を裏切るような行為まで遼さんにさせてしまい......ほん、とうに......申し訳、ありません」
薫子は、再度深く頭を下げた。
「違うんだ」
遼の声が、はっきりと真っ直ぐに伸びる。
「親父、お袋......こいつ...いや、薫子のせいじゃねぇ。俺が......勝手に、突っ走っちまっただけなんだ」
出来れば、ずっと隠しておきたかった。
すげぇ恥ずかしくて......惨めで。
こんな話、親父や、ましてお袋には聞かせたくねぇ。けど、薫子が勇気出して行動したのに、俺が黙って見てるわけにはいかねぇだろ......
遼は唇をきつく噛み締めた後、眉をグッと寄せた。
「小等部の、卒業式に......結婚の約束をしたってのは......俺の、勘違い......だったんだ」
「ちょ、ちょっと遼...」
逸子が動揺し、声が上擦る。
遼が、鼻息をフッと鳴らす。
「笑えるだろ?
俺は......7年もの間ずっと両思いだって信じてて。いつか薫子を迎えに行ってやるって......その、ために......」
さすがの宏和も遼の言葉に驚きを隠しきれず、ソファに深く腰を凭れかけ、息を吐いた。
宏和は、ふたりが相思相愛だと思ったからこそ、息子の見合いをセッティングし、養子にやるという条件まで飲んだ。そして遼だけではなく、社運をかけてまでビジネスをこちらに移したのだ。
だが、宏和が首を振って制した。
それを受け、もう一度ソファに座った息子を確認すると、大きく息を吐き出す。
薫子も、逸子も何も話さず、視線が下に向いたままだった。リビングの時計の針の音だけが、妙に大きく部屋に響く。
俯いている薫子に向かい、宏和が穏やかに話しかけた。
「薫子さんは、話がしたいと言って、来てくれたんだったね。
話を......聞かせてくれるかな」
薫子はようやくゆっくりと顔を上げると、涙の伝った頬を拭った。
「はい......」
俯いていた逸子も顔を上げ、テーブルの下に置いてあった盆を取り出す。ティーカップを載せていくが、その手先の動きはいつものように滑らかではなかった。
「お茶が冷めてしまったから......入れ直してくるわね」
快活さのない、強張った逸子の声音を聞いた薫子は居たたまれなくなり、ただ小さく頷いた。
逸子が紅茶を入れ直すのを待つ間、重苦しい空気が流れる。遼ですら、何も言わず、黙ってテーブルの一点を見つめているだけだ。
「お待たせ」
そう言って逸子が戻ってきたのは救いであったが、これからの話し合いを思うと薫子は更に気が重くなった。
逸子がティーカップを配り終え、ソファに座るのを見届けてから、薫子は喉に詰まったものを追い出すように咳払いをしたが、それは取り除かれることはなかった。
いったん目を伏せてから、薫子は決意したように顔を上げた。
「私には......遼さんとお見合いする前から、お付き合いしている方がいました」
逸子は、薫子の裏切りとも呼べるその言葉に、息を呑んだ。宏和は、ただ黙って薫子を見つめた。
ふたりとも口には出さないものの、薫子の相手が誰なのかという疑問が自然と頭に浮かび上がっていた。
薫子は、敢えて悠の名前を告げることはしなかった。遼の両親を信用していないわけではないが、万が一にも悠に迷惑がかかるようなことにはなりたくなかったからだ。
「私、は......父からお見合いの話を聞いた時、断るつもりでした。けれど、父は......私の話には一切耳を貸さず、櫻井家...いえ、櫻井財閥のためだとねじ伏せられました。私には、それ以上父に抵抗することは......出来ませんでした。
お見合い相手は、当日まで知らされませんでした。そして当日、私は遼さんが父が決めた結婚相手であることを知ったのです。
私が、弱いばかりに......遼さんに対してお見合い話を断れず、婚約発表までして......今、式はもう......目前に、迫っています。おばさまやおじさま、佳那さんには本当の家族のように温かく接して頂いていたのに、子供のことを隠し、ご家族を裏切るような行為まで遼さんにさせてしまい......ほん、とうに......申し訳、ありません」
薫子は、再度深く頭を下げた。
「違うんだ」
遼の声が、はっきりと真っ直ぐに伸びる。
「親父、お袋......こいつ...いや、薫子のせいじゃねぇ。俺が......勝手に、突っ走っちまっただけなんだ」
出来れば、ずっと隠しておきたかった。
すげぇ恥ずかしくて......惨めで。
こんな話、親父や、ましてお袋には聞かせたくねぇ。けど、薫子が勇気出して行動したのに、俺が黙って見てるわけにはいかねぇだろ......
遼は唇をきつく噛み締めた後、眉をグッと寄せた。
「小等部の、卒業式に......結婚の約束をしたってのは......俺の、勘違い......だったんだ」
「ちょ、ちょっと遼...」
逸子が動揺し、声が上擦る。
遼が、鼻息をフッと鳴らす。
「笑えるだろ?
俺は......7年もの間ずっと両思いだって信じてて。いつか薫子を迎えに行ってやるって......その、ために......」
さすがの宏和も遼の言葉に驚きを隠しきれず、ソファに深く腰を凭れかけ、息を吐いた。
宏和は、ふたりが相思相愛だと思ったからこそ、息子の見合いをセッティングし、養子にやるという条件まで飲んだ。そして遼だけではなく、社運をかけてまでビジネスをこちらに移したのだ。
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